第29話 前触れ
...............なんだこの状況は?
些細なことで契約が完了され困惑していたら、
突然 "守ってくれるなら心強い"とか言われても.......
どう対応するのが正解なんだ?
"君のことを守ってみせる"とか言う度胸はないし、
冷たく"契約は解除しよう"と言うのは有り得ない.....
いや待て、ローズは普段から時々無意識に恥ずかしい
事を言うじゃないか。
今回もきっとそうなのだろう。
うん、きっとそうだ.......
「........反応してよ。 その....恥ずかしいじゃない。」
............
何故頬を赤らめているんだ?
なんでだろう....ローズが乙女に見えてきた....
待つんだ自分!
これじゃ、まるでチョロ男じゃないか!
考えてみろ、彼女と出会ってからまだ2ヶ月程度しか経ってないんだ、そんなことあるわけないだろう。
だが、何か腹蔵してる謀らいがある様には思えない。
こういう時は無難に....
「う、うん........ありがとう。」
「ふふ、なら良かった。もし"早く解消しよう"とか
言われたら、もう顔合わせ出来ないもの。」
満点とは言わずとも及第点には達した様だ.......
「ねぇフレッド、今結ばれてるのって仮契約なの
よね? せっかくなら....本契約、結ばない?」
本契約......仮契約の簡略性や負傷時のリスクなどと
引き換えに、より大きなステータスの強化を望める.....
一時的なものでなければ、本契約を結ぶのが普通だ。
だが....
「本契約は結ぶのに儀式が必要になるから、
すぐには結べないよ。」
「儀式? それって、どんなものなの?」
「それは........
あっ、今日はもう遅いしそろそろ帰るよ.....
それじゃあ、また明日。」
「えっ? ちょっと、フレッド?」
―儀式について聞こうとするローズから逃げるように
フレッドは立ち去ってしまった。
....................
本契約か.......
その成立には"相手を必ず守る"という誓いが必要だ。
勿論、僕だって彼女が助けを必要としているので
あれば協力は惜しまないつもりだ。
だが、契約で求められるのはそんなものではなく、
"何があっても相手を守り抜く"という絶対的意志だ。
今の僕にそれほどの覚悟があるかと聞かれたら、
言葉に詰まるのは否定出来ない。
結局その日は、契約のことをうやむやにしたまま
眠りについた。
.............................
その翌日、契約の事を考えながらギルドに行くと、
その様子は普段とはまるで違っていた。
「ん? おっ、来たかフレッド。」
「なぁサイモン、何かあったのか?」
「それが聞いた話によれば、なんでも近いうちに
ノールでスタンピードが発生するんだとよ。」
スタンピード......確か、ダンジョンみたいな場所からモンスターが溢れ出す現象だったか。
「近いうち、って具体的にどれくらいで?」
「近いうちは近いうちだよ。
俺は学士じゃないから知らねぇけどよ。」
これ以上はサイモンに聞いても分からなそうだな.........
受付も忙しそうで聞けなさそうだし、今は取り敢えずローズが来るまで待つか....
...................
「ねぇフレッド、何だかいつもより騒がしいけど、
何かあったの?」
―暫くすると、ローズがギルドに来ていた。
だが、やはりその騒々しさは誰でも気になるらしい。
「ノールダンジョンで近いうちにスタンピードが
起こるらしくって、それでこうなってる。」
「スタンピード.....
討伐隊が編成されるなら参加するのも手ね。」
「今回は王都からの討伐隊が対処するらしいから、
参加出来るかは分からないけど.....」
あの後、ギルドマスターが出てきて、"この件は王都で選定された討伐隊が請け負うこととなった"って言われたんだよな...
ギルドマスターに会ったのはこれが初めてだが......
ギルドマスターの格好.........
漆黒の中折れ帽に、ロイドグラス、ロングコート、
暗紅色のマフラー、そして上品な黄金のサーベル....
くっ、駄目だ。
とてもじゃないけど格好良さ過ぎる....
「....ッド、フレッド、フレッド!」
おっと、話が逸れた。
「ごめん、ちょっと考えごとをしてて...」
「まったく、もう....
今、目の前にいる私よりも大事な考え事なの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。」
「そう.....
ところで、その討伐隊の指揮は誰が執るの?」
「確か...ジェン=トールマン伯爵って言ってたかな....
その人が指揮官を務めることまでは決定してる
らしいけど...」
初めて名前を聞いた時は、
"えっ? ジェントルマン?"って驚いたけど人の名前を深く気にしてはいけないだろう。
「トールマン伯爵....一度だけ会ったことがあるけど、
病的なまでの紳士さだったことは覚えるわ....」
名前通りの性格なのか......
実際に一度会ってみたいものだな......
後書き
うーん.....ローズがチョロインに近づいてしまった様な....




