表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王に攫われた公爵令嬢に、俺の理性が毎晩試されてます。  作者: 雨屋飴時


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

7.望んでくれたなら




「――ダリア様を、夜に部屋へ入れたのですか?」

 

 クッキーパンの滓が、ぱらりとお皿に落ちた。

 ルークは嘘が下手だ。こうなったら、メルティを誤魔化せないだろう。

 

「そ……っそれは……」


 あーあ。ルークの顔が、どんどん青くなっていく。


「っ…すみませんでした!」

 

 ばれるかもとは思っていたけど、あまりにも早い謝罪。


「あなた何を考えてるんですか!」

 

 見たことないほど怖い形相のメルティに、ルークがどんどん小さくなっていく。

 そうよね。自分が謝って済むなら耐えてしまう。

 ルークは多分、そういう人だ。


「メルティ、違うの。

 強引に部屋へ入ったのは、わたし。

 呼び捨ても、ため口も、全部わたしが命令したの。

 公爵令嬢の命令を、ルークが無視できるわけないでしょ」

「っダリア様……」

 

 メルティのきれいな眉が、憂いで歪む。

 公爵令嬢という立場を利用して、男性の部屋へ入ったわたしへの非難かもしれない。

 ぽかんと驚いた顔で、ルークがわたしを見ている。

 

 その表情があまりにも()()()()()()で、変わっていないのね、と笑いそうになった。


 

 

 五年前。エドガーとの婚約破棄の原因となったあのパーティーがあった日、わたしは見たこともないほどきれいな魔法陣を見た。

 

 パーティー開始前、エドガーと城内を散歩している時だった。

 焦茶の髪をした魔導士の少年が、結界魔法をかけてくれていた。

 彼の足元に浮かんだ、金色の魔法陣。

 それはきらきら輝いて、これまで見た誰の魔法陣よりも美しかった。

 思わず「きれい」と呟いて――それが、エドガーの耳に入ってしまった。

 

 「あんな平民の出す魔法陣がきれいなものか」と憤慨した彼は、あろうことかパーティーで彼を罵倒し始めた。

 貴族という自分の立場を笠に、侮辱した。

 そんなエドガーを、許せなかった。

 不用意な言葉で、彼をあんな目に合わせてしまった、自分自身も。


 わたしが引き金を引いたと知らない彼は、パーティーが終わった後わたしの下へ走って来た。

 

 ――きっと、いつかダリア様に恩返しをさせてください

 

 変声期中の、がらがらのかすれた声。

 わたしを真っ直ぐ見る、誠実な瞳が印象的だった。


 

 だから昨日、ルークの金色の魔法陣を見た時、驚いた。

 そういえば、ルークもあの時の少年と同じ焦茶色の髪をしてる、と気づいたのはその時だ。

 声も、顔つきも変わっていたから気づかなかった。

 

 掠れた、優しい響きの低い声。

 少年から青年へと変わった、精悍な顔つき。

 あの時の彼が、律義に約束を果たしに来てくれたのだと思ったら、キャンディが蕩けたような気持ちになった。


 

 昨夜は、いつも部屋を覗きに来るメルティが来なかった。

 おかしいな、と思っている内に、ルークの部屋のドアが開く音がした。

 夜は更けていた。

 ――男性の部屋に一人で入ってはいけません。

 そう教わってきたけど、ルークと二人で話せるチャンスは今しかない。

 気づいたら、ティーセットまで準備してルークの部屋の前に立っていた。

 

 恩返しに来たんだ。

 そう、ルークが言ってくれたら。

 でも、彼は何も言わなかった。

 聞きたかったけれど、そんなこともう忘れているかもしれないと思ったら、言い出せなかった。


 父の意志できたの?

 そう聞いてみたら、「それもある」と彼は嘘をついた。

 あまりにも下手くそな嘘だったけど、嘘がつけない人なんだと思うと安心できた。


 父の依頼でないなら、最近できた婚約者からの依頼だろうか。


 考えるだけで嫌気がさす。

 知らぬ間に決まっていた、高位王宮魔導士との婚約。

 高位王宮魔導士と繋がれば、政治でも魔導会でも優位に働く。そんな父の打算が見えて、吐き気がした。

 知らないじじいと結婚なんて、絶対嫌。

 

「ダリア。メルティの言い分は、当然だ。

 本当は俺が断らないといけな――」

「ルークに責任はないってば。

 タメ口も呼び捨てもわたしの命令だし、これからも夜に遊びに行く!」

「ダリア様……!」


 今度こそ非難の声を上げるメルティに、べっと舌を出して見せる。

 

 ルークがわたしの訪問を断れなかったのは、わたしが公爵令嬢で、従わざるを得ないからだ。

 責任なんて負わなくていい。そんなもの負われたら、もう遊びに行けなくなってしまう。


「いいですかダリア様。淑女たるもの――ちょっと、聞いてます?」

「聞こえなーい」

「っダリア様!」


 わめいているメルティを横目に、紅茶を口にしながらちらりとルークを見る。

 苦笑していたルークが、わたしの視線に気づいて申し訳なさそうに、けれど柔らかく笑う。

 真っすぐで、優しい瞳にどきりと胸が高鳴る。

 

 ルークがわたしを部屋に入れてくれたのは、わたしが公爵令嬢だからだ。

 でも、そうじゃなくて、ルークが望んでくれたからだったらいいのに。

 

 そんな希望を、わたしはクッキーパンに噛り付いて打ち消した。

 


 ◆◆◆


「露天風呂の掃除終わりました? 

 じゃあ、次は庭の掃除をお願いします」

「……はい」

 

 メルティに箒を渡されて、俺は思わず項垂れる。

 朝食後は、メルティの指示の下、掃除、掃除、掃除三昧だった。

 魔法で掃除すれば一瞬で終わるのに。


「なあ。なんで魔法使ったらダメなんだよ」

「魔法でやったら、罰にならないじゃないですか」

「……罰?」

「ダリア様を寝室に入れた罰です」 

「っそれはもう謝っただろ!」

 

 思わず叫ぶと、メルティは首を振る。


「そんなもので許されるはずないでしょう。

 何もなかったらしいことだけは褒めて差し上げますが、夜にダリア様を部屋へ入れるなんて言語道断です。

 紳士の嗜みはどうしたのですか。平民とはいえ、それくらいの礼儀は分かるでしょう」

「そんなのこと言うわりに、お前だって昨日風呂場に侵入してきただろ。

 こっちこそ淑女としての嗜みを聞きたいわ」

「はあ? それは貴方の魔力量を視る為と言ったでしょう。

 あなたがダリア様の婚約者となれたのは、ひとえに高位王宮魔導士という立場のおかげ。

 何一つダリア様と並べない貴方が、魔力量さえ達していないとなれば大問題ですからね」

「………」


 何一つ並べない、と言われたらぐうの音も出ない。

 確かに、家柄、容姿、教養……ダリアに適うものは、他にはない気がする。

 

「分かったら、手を動かしてください。

 落ち葉の一枚でも残っていたら、夜のディナーは抜きですよ」

「……鬼かよ」

 

 言われるがままに箒で葉を集める。

 結局、日が落ちるまで俺は庭掃除に明け暮れた。

 

◆◆◆


「……いってぇ……」 


 腰を叩きながら自室へ戻り、ベッドへ倒れ込む。

 汗だくの体を温泉で流したものの、掃除という容赦ないメルティのしごきに、全身が悲鳴を上げていた。

 

 ――ダリアの不眠の原因を調べたい

 

 そう訴えても、メルティは掃除をやめさせてはくれなかった。

 箒を動かすたびに、朝のダリアの顔が頭をよぎる。

 眠れていない、と言った時の、あの努めて明るい表情。

 

 魔王城で眠れなくなってんだぞ。

 早く調べた方がいいだろ。

 あんなにダリア様ダリア様言ってるくせに心配じゃないのか。

 意味わかんねえ。


 苛立ちに頭をくしゃくしゃ掻く。


 時刻は18時。

 夕食までは、まだ少し時間がある。

 ダリアは部屋にいるようだった。

 

 ……ちょっと視せてもらわなきゃな。

 

 疲れた体に鞭を打って、起き上がる。

 ダリアに会えると思えば、足取りが自然と軽くなる自分に苦笑した。


 ダリアの部屋の前。

 扉を叩こうと拳を上げ――ふいに、昨夜のことを思い出す。


 ルーク、と名を呼ぶ、溶けたマシュマロのように柔らかい声。

 ふわりと甘いシャンプー香り。

 薄桃色の小さな唇。

 

 じわじわ溢れる触れたいという欲求を、少しは許してくれるんじゃないかと期待してしまう自分が拭いきれない。

 顔に熱が集まっていく。

 わーーーーーっ、と叫び出したい衝動にかられ、一旦しゃがんだ。


 落ち着け。

 婚約者とはいえ、俺は彼女の人生を狂わせたんだ。

 何も考えるな。望むな。

 彼女を助けることだけに集中しろ。

 

 今はとにかく、ダリアの不眠の原因について調べることが先決だ。

 メルティは夕食準備調中でいないが、調査の為ならダリアの部屋へ行っても怒らないだろう。

 ……多分。分かんないけど。

 

 

 そして、俺はドアをノックした。






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ