11-1 魔王の術
「で? 診断の結果はどうだったのです?」
城門を抜け、緩やかな下り坂にさしかかったところで、隣を歩くメルティがぼぞりと呟いた。
その声には、本当にそんなことできるのか、という疑いが孕んでいる。
「……臙脂色の糸みたいな術が、ダリアの生命の柱に絡みついてたよ」
答えると、彼女の足取りに合わせて鳴っていた細剣の鞘の音が一瞬止まった。
メルティはまた歩き出す。
「そう、ですか。他に分かったことは?」
「魔力で触れたら、弾かれた。
あれは人間が扱える代物じゃないな。エネルギーの質が違いすぎる。
上位魔族とか、そんなのよりもっと上の……」
「――魔王、ですか。」
メルティの気配が、隣で強張るのがわかる。
奥歯のあたりがザラつくような不快感があった。
「解けますか?」
「必ず。でも、時間はかかる」
自分の声が、地面に吸い込まれるように低く響く。
「それでいいのですか。
ダリア様の体の負担は?」
「癒しの魔法みたいなのも同時にかかってるんだよ。
それが始終ダリアを癒してる。しかもなんか妙に優しい色の。
臙脂の術の意図は分からないけど、攻撃性がないのは確実だ。
だから何の為にかけられてるのか逆に気味悪――」
「ああ……」
メルティの眼差しから剣呑さがすっと消え、代わりに安堵の声が漏れた。
胸元にそっと置かれた手。
よほど心配していたのだろう。
その目元が嬉しそうに潤んでいる。
紫の瞳が、俺をみる。
「でも、攻撃性はないのですね。
安心しました。
ルーク様。ありが――」
その時、メルティの声を切り裂くように、前方から野太い咆哮が上がった。
オークの集団だ。十数体はいるだろうか。
今は話している暇はなさそうだ。
メルティが流れるような動作で剣を引き抜く。
「行きますよ、ルーク様」
「わかってる!」
と、同時に地を蹴る。
メルティの剣が鮮やかに弧を描き、俺の放つ風魔法がオークを切り刻んだ。
+++ +++
戦場を舞う彼女の動きは洗練されていて、目が追いつかない。
「お前、魔法だけじゃなくて剣も使えんのか?」
「これは嗜み程度です」
嗜みねえ。
有能すぎるメルティを横目に、オークたちの首を跳ね飛ばす。
ひどい血の臭い。
返り血を避けて着地の衝撃を逃がしながら、ふと疑問が浮かんだ。
「そういや、お前って魔力量は診れるだろ。
だったら、診断もできるんじゃないの?」
「馬鹿なのですか。ものが全然違うでしょう。
魔力なんて上辺を診るだけですが、生命の柱まで診るとなると、魔力を操る極めて高度な技術が必要です。
もし『努力次第でできるようになる代物』とでもお思いなら、ご自分の才能をきちんと自覚した方がよろしいかと。
でなければ、周囲には高慢に映りますよ」
「高……っ。お前に言われたくないわ」
言い返そうとして、言葉に詰まった。
ダリアに言われた『高慢だという噂』が、胸をちくりと刺す。
あーもー……そういうこと?
と、心の中で深く項垂れた。
+++ +++
「さあ、これでおしまいですね」
メルティが剣を鞘に収め、涼しい顔で呼吸を整えた。
「……それにしても、あれだけ細々とよく魔法を操作できますね。
これなら、ルーク様一人にお任せしても良かったです」
「いや、さすがにそれは疲れるな。
にしても、お前はなんでそんなに強いんだよ。
ただの侍女、って言ってたよな」
ダリアの守護者の役割も担っていたとしても、メルティはその枠をはるかに超えている。
メルティが、振り向きざまふっと笑う。
「ダリア様をお守りするには、強くあらねばならないでしょう?」
とろりと甘く細められた、紫の瞳。
その頭に誰の顔が浮かんでいるか、すぐに分かる。
「お前は、なんでそんなにダリアを好きなんだ」
「あら。あなたもダリア様の虜では?」
あまりにストレートに言われて、頬が熱くなる。
ふふ、とメルティが笑った。
「何照れてるのです、気持ち悪い」
打って変わって冷たい目線をよこされ、一瞬時が止まる。
「はああああ?
お前、俺への遠慮がなさすぎだろ」
「はっ。ダリア様にちょっと優しくされて、勝手に好きになって頑張ってみちゃった痛いあなたに、何を遠慮するのです」
こいつ……っ。
まじで焼き殺したい。
「じゃあお前はどんな崇高な理由でダリアを好きになったんだ」
次回3/17に投稿予定です。
また覗いてもらえたら嬉しいです。




