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鉄仮面と呼ばれた男  作者: カキヒト・シラズ


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第7話

「三崎君、ちょっと調べてほしいんだけど」

 八重樫祥子が言う。

 ネイビーブルーのスーツ姿のやせぎすの青年はPCの作業をやめて立ち上がる。

「なんでしょう、若頭」

「その言い方やめなさい。ここでは社長と呼んで」

 株式会社エイトナインスリーのオフィスは八重樫ビル四階にあった。

 十数名ほどの社員が詰めている。

 八重樫組のフロント企業だが、オフィスの光景は普通の会社と区別がつかない。

「青龍アセットが半導体大手の帝国電子の株を空売りしたかどうか調べてくれる」

「わかりました」

 空売りとは手元にない株式を証券会社から借りて売り、後で買い戻す手法を指す。空売り後に株価が下がれば買い戻すときに利益が生じ、逆に株価が上がれば損失が出る。

 しばらくするとデジタル複写機から出力されたプリントを三崎が持ってくる。

「青龍アセットですが、先々月、300億円で帝国電子の株を空売りしてます」

「やっぱり、そうだったのね」

「そして先月、帝国電子の新潟工場が火事で全焼し、同社の株は暴落しました。

 青龍アセットは280億円ほどキャピタルゲインが出た模様です」

 青龍アセット社は言わずと知れた広域指定暴力団、四神会のフロント企業だ。

 昨夜、冴島陽介から聞き出した話では、最近、四神会に不穏な動きがあるという。それを探るために冴島は野島警部の要請で仮出所した。

 帝国電子の新潟工場は火事ということになっているが、何者かに放火された可能性があるといううわさも聞いている。もしかしたら四神会系のヤクザの仕業かもしれない。

 なにかしら大きな陰謀が背後で動いている感じがする。

 祥子はプリントを見ながら考えを巡らせた。

「ところで」

 三崎が言う。

「今朝のニュースですが、青龍アセットの西村和之社長が殺されたことはご存じですか」

「えっ? それを早く言ってよ」

「すいません」

 三崎は額の汗をハンカチでぬぐう。

 いつもさえない男だわ。祥子は三崎を見てそう思う。

 




 非常階段を降り、五階に行くと有限会社歌舞伎町商事の看板が目に入る。

 昭和のタバコ屋を思わせる狭い窓口の店舗ディスプレイ。老婆が居眠りしている。

 鉄仮面(=TK)は老婆に近づいた。

「ケッヘラー&コッホ」

 TKが言う。

「見せてくれないか」

 老婆は起き上がり、TKの顔をじろじろ見る。

「うちはタバコ屋だよ。よそ行っておくれ」

 TKは祥子から教わった合言葉を思い出す。

「空飛ぶ豚を見たんだ」

「なんの話だい」

「ピンクフロイドのジャケットだよ」

 老婆は「しょうがないねえ」とつぶやくと、店の奥に姿を消す。

 「タカシ、お客さんだよ」という老婆の声が聞こえる。

 やれやれ、このビルはなにをするにも合言葉がないと先に進まない。

 こういうのが八重樫の姐さんの趣味なんだろうか。

 TKは吐息を漏らす。

 しばらくするとたばこ屋の店舗ディスプレイの隣の鉄製ドアが開く。

 錆びついているのか、キーという甲高い金属音がする。

 鉄製ドアから、ひげ面の割腹のいい青年が出てくる。

「いらっしゃいませ」


 TKが通された部屋は細長く奥行がある部屋で棚と壁に銃がびっしり並んでいる。

「お客さんは、”鉄仮面”さんですか」

 ひげ面男が言う。

「八重樫の姐さんから聞いてますよ」

「そう言う君はタカシ君かな」

「えっ? どうして知ってるんです?」

「さっきタバコ屋のお婆さんがそう呼んでたんで」

「おふくろですか。ハハ……まいりました」

 リボルバーはともかく、オートマチックの拳銃ならかなり品揃えはありそうだ。

 TKは店の銃を物色しながらそう思う。

 TKは壁に掛けられた銃を一つ手に取ってみる。

「それはケッヘラー&コッホUSPですね」

 タカシが言う。

「うちでは一番人気ですよ」

「試射できる?」

「はい。屋上が試射場になってます。ご案内しましょうか」

 店の奥にドアがあり、ドアをあけると螺旋階段が続いている。

 タカシは無言で上っていく。TKはケッヘラー&コッホを手にしたまま後に続く。

 

 屋上は打ちっぱなしのゴルフ場やバッティングセンターのようにグリーンネットで全体が覆われていた。

 グリーンネット越しに満月が光っている。もうすっかり夜だ。

 屋上の反対側の端に標的が一列に並んでいる。

 TKはカートリッジを装着し、数発撃ってみる。

「鉄仮面さん、腕いいですね。大当たりですよ」

 タカシが言う。

 まあ、セールストークなんだろう。TKは苦々しく思う。

 標的には命中したがど真ん中ではない。それがTKには悔しかった。

「カスタマイズはできる?」

 TK が言う。

「ええ、うちでやってます」

「少し全体を重くしてもらえるか。軽いと重心が定まらないんで」

「かしこまりました。明日までにやっておきます。

 お支払いはエイトナインスリー社に請求書出しておきますんで」

 この店、なかなか使えるかも知れない。

 TKは最後にもう一度、標的に向けてケッヘラー&コッホの引き金を引く。

 銃声が夜の歌舞伎町に響き渡る。


(つつく)

 

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