第6話
警官に警察手帳を見せ、「立入禁止」と書かれた黄色いバリケードテープをくぐる。事件現場に近づく。
死体はすでに運ばれた後で、コンクリートの地面に白いチョークで死体の外形が書かれている。
やりやがったな。
野島真一は胸の中でつぶやく。
「野島警部、ちょっと困ります」
ふり向くと警視庁捜査一課の巡査部長、杉本が立っている。
「これは捜査一課のヤマです。マルボウの四課は首を突っ込まないでほしいんですが」
「ただガイシャは西村和之だろう。だったらおれたちマルボウの管轄じゃないか」
「だめですよ、警部。とにかくここから出て下さい」
野島は杉本に強引に腕を引かれ、バリケードテープの外に出される。
野島は煙草に火を灯し、バリケードテープ越しに死体のあった場所を睨みつける。
今朝、新宿駅南口から数分の路地裏で死体が発見された。
通報者は近所に住む老人。たまたま散歩の途中で死体を発見した。
死体はくたびれたスーツ姿の中年男。胸と腹を銃で撃たれている。他殺なのは明らかだ。
スーツから見つかった運転免許から、死体の身元は西村和彦(四十五歳)と断定された。
ところで西村は青龍アセット株式会社の社長だった。
青龍アセット社は広域指定暴力団、四神会と癒着しているとされる投資信託会社で、株の仕手筋としても有名だった。
青龍アセット社は合法非合法を問わず、株取引で得た利益を四神会に調達していた。この他、四神会系列の地面師や地上げ屋と組んで不当な不動産取引で四神会の資金を稼ぐこともあり、同社の経営陣はときどき逮捕されている。
西村はもともと大手銀行の副支店長だったが、リーマンショックでリストラされた後、証券会社に転職した。その後、四神会に青龍アセット社の社長としてヘッドハンティングされたらしい。
西村が社長に就任してから青龍アセット社は国内の東商一部上場企業や外資系大手ハゲタカファンドと業務提携して仕事をすることが増え、同社の取引金額も売上高も倍増した。だが非合法な取引は信用ある企業のネームバリューにごまかされ、以前より見つかりづらくなっただけで、相変わらず続いているようだった。
しかも取引額が倍増しているから、被害者の被害金額も倍増していた。この場合、同社と提携した大企業も不正な取引に関与していた可能性が出てきた。
どうやら大企業の経営者たちの個人的弱みを四神会のヤクザに握られ、脅迫されて不正取引の片棒を担がされたらしい。
経営者たちは接待の名目で四神会傘下のカジノに連れて行かれる。最初はビギナーズラックで経営者たちはギャンブルに勝たせてもらえる。そこで気を良くして、何回かカジノに通うと膨大な借金を背負うことになる。これを返済する手段として彼らは四神会から不正取引を強要されるのだ。
また女がらみの手口もある。接待と称して四神会傘下の風俗店に連れて行かれる。そこで風俗嬢と不倫現場を撮影され、妻に見せると脅される。こうして彼らは簡単に”闇落ち”するのだ。
西村の社長就任以降、青龍アセット社に不当にビルを乗っ取られたとして、ビル管理会社が民事訴訟を起こすことが相次いだ。だが不思議なことに訴訟途中でのきなみ原告が突然死亡し、訴訟は中断される。彼らが四神会関係者に暗殺された可能性は高い。
野島は先月、金融商品取引法違反で西村を別件逮捕し、青龍アセット社の犯罪のからくりを詳細に暴こうとした。ところが東京地検から不起訴処分を言い渡され、西村はすぐ釈放された。
今回の西村殺しは四神会の口封じであることは容易に推理できる。
青龍アセット社が儲かるといわゆるブラックマネーが増大する。
四神会が大きくなるだけではない。
青龍アセット社が提携する外資系ハゲタカファンドの背後には米国や中国のマフィアやスパイの影が見え隠れする。
米国または中国、もしくはその両方が国策として日本を破壊しようとしているのではないか。
野島の脳裏には様々は想念が去来するが、その一つに集中することはできなかった。
(つづく)




