第20話
「人工地震ならびに人工津波は、なんとか回避できたということかな」
警視総監の松田が言う。
「そう思いますね」
野島が言う。
野島と青木は松田の命令で朝から警視総監室に呼ばれた。
テレビや新聞をはじめ、ネットニュースなどを集めた。
昨日、東京に地震はあるにはあったがたいした被害ではない。
また東京湾では海岸沿いの民家に床下浸水が2棟あったが、その程度の被害だ。
「ところで鉄仮面は亡くなったのかな」
松田が訊く。
「はい。おそらく死んだと思われます」
「人工地震も人工津波も失敗でした」
在日米軍司令部副司令官のトム・ガーシェンフェルドが英語で話すと通訳がすばやく訳す。
「これでわれわれの日本占領計画はかなり遅れました」
ニュー山王ホテルの一室では特別臨時分科会の定例会が催されていた。
「諦めるのはまだ時期尚早です」
四神会会長の鳳正太郎が言う。
「われわれを妨害していたマルボウの工作員、鉄仮面が死亡しました。
今後はこれまでと違ってやりやすくなるはずかと」
「あなたの話は信用できませんなあ」
呉俊宇が言う。
呉は中国最大マフィア、青幇の極東支部長だ。
「日本の首相暗殺も失敗、中国副主席暗殺も失敗、今度は人工地震と人工津波も失敗ですか。
いつになったら日中戦争は始まるんですか」
「それはですねえ」
ガーシェンフェルドが部屋の隅に立っている兵士たちに目配せする。
「退場願います」
ガーシェンフェルドの言葉を通訳がそう訳す。
鳳は両脇を二人の兵士に抱えられ、部屋を連れ出される。
秋葉原中央口からガードレールをくぐる。
全身びしょ濡れの男がダンボール箱に寝ているホームレスに近づく。
「空飛ぶ豚って知ってる?」
「なんだって」
ホームレスが上半身を起こす。
「ピンクフロイドのジャケットのことだよ」
「じゃあ、アルマジロ料理の店知ってるのかよ」
「まあね。でもゾウ料理やキリン料理の店も知ってるよ」
ホームレスはびしょぬれの男――TKの顔をまじまじと見つめる。
しばらくするとホームレスはダンボール箱の奥からキーを探してTKに渡す。
「ありがとう」
TKはキーを受け取る。
横断歩道を渡り、駅前のコインロッカーをさがす。
大き目のロッカーにキーを挿し込み、ドアを開くとテニスバッグが出てくる。
ジッパーを開くといろんなものが入っていた。
TKは公衆便所に入り、着替えをして出てくる。
黒の革ジャンのつなぎ服にブーツ。頭にフルフェイスヘルメットをかぶっている。
駅前から立体駐車場までは歩いてすぐだった。
テニスバッグに入っていたクレジットカードを立体駐車場の挿入口に差し込み、ボタンを押す。
しばらくするとホンダCBR600RRが出てくる。
バイクにまたがるのはひさしぶりだった。
セルボタンでエンジンを始動し、車道を走ってみる。
少しずつ運転の感覚を思い出す。
「どうされましたかな」
バーテンが声をかける。
『ユイット・ナフ・トロワ』のカウンター席はがら空きだったが、神谷日美子は一番端に一人で座っていた。
いつものようにブラディ・マリーを飲んでいたが、なぜか涙が流れてきた。
「なんでもないの」
日美子が言う。
「ではどうしてお泣きになってるんですか」
「彼氏が死んじゃったの」
「それはそれはご愁傷様です」
バーテンは奥へ引っ込むと、カルーワミルクを持ってきて日美子に渡す。
「あちらのお客さまからです」
カウンター席の一番奥に座っている男をバーテンダーが示す。
黒い革ジャンのつなぎ服を着て、バイクのフルフェイスヘルメットをかぶっている。
日美子はグラスを持って、つかつかと男のそばに来る。
「あんた、あたしこのカクテル嫌いなの。あたしを口説こうたって、そうはいかないわ」
日美子はカルーワミルクをフェイスヘルメットにぶっかける。
「ひどいなあ」
男はそう言って、フルフェイスヘルメットを取る。
中から現れたのはい日美子がよく知っている男だ。
「あんた生きてたの。冴島君だったっけ」
冴島はむくれた顔つきでハンカチでヘルメットをふく。
(つづく)




