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鉄仮面と呼ばれた男  作者: カキヒト・シラズ


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第13話

 TK(=鉄仮面)はカウンター席でカルーワミルクを飲んでいた。

 『ユイット・ナフ・トロワ』はいつになく客はまばらだった。

 時刻はまだ午後六時を回ったばかりだ。この時間だから客は少ないのだろうか。

 一人で飲んでいるとバーテンダーがときおり話しかけてくるが、軽く受け流す。だれかと話したい気分ではない。

「あちらのお客さまからです」

 バーデンがTKの前にグラスを置く。ブラディーマリーだ。

 テーブル席に一人腰かけた二十代後半ぐらいの女性がTKに手を振っている。

 茶髪に染めた髪はソバージュのボブカット。派手なフリルがついた白いブラウスにベージュのキュロットスカート。

 銀縁の眼鏡が知的にも見えるが、コーディネートを台無しにしている感じもする。

 TKはグラスを持って、テーブル席へ歩き、女性と向かい合うように座る。

「あいにく」

 TKが言う。

「ブラディーマリーって、好きじゃないんだけど」

「飲んでみなさいよ」

 女性が言う。

「おいしいわよ、鉄仮面君」

「……」

「名前は冴島陽介。年齢はあたしより少し下くらい。

 住所は府中刑務所の独房だけど、最近はこのビルの上階で八重樫組若頭と同棲している。

 マルボウに雇われた工作員で、拳銃の狙撃とPCのハッキングが得意。

 この他、軍隊格闘技もこなす。こんなところかしら」

「どうして知ってる。それにあんたは何者だ」

「あたしのハンドルネームはクイーン・ヒミコ。知ってる?」

「いや」

「自分では有名人のつもりなんだけど、クイーン・ヒミコって知らなかったかな。

 もともとフリーのルポライターで週刊誌なんかに原稿売ってるんだけど、最近はユーチューバーが本業になりつつあるわ。この他、ブログに広告載せて小遣い銭にしてる」

「ルポライターだからこっちの情報を調べたってことかな」

「そうよ。いろいろ取材してあなたのこと知ったの」

「だれに取材したんだ」

「それは言えないわ。守秘義務だし。そんなことより、このバー、八重樫組の系列でしょう。

 あたし、裏社会とかヤクザ界の専門ジャーナリストなの。

 昔、興信所でバイトしたことがあって、そのときのノウハウが役立ってるわ」

「で、なにがあんたの目的なんだ。

 ブラディーマリーをおごるなんて、おれを取材したいのか、それともただの逆ナンか」

「その両方ね。君にも男子として興味あるわ」

 ヒミコと名乗る女は、いきなりスボンの上からTKの男根を握る。

 あわててTKは彼女の手を払いのけて立ち上がる。

「八重樫の姐さんもこんなことよくやるんでしょう」

 そういうところまで取材済みか。この女、ルポライターとしてはプロだな。

 TKはもう一度椅子に座り、ブラディーマリーを一口飲んでみる。





 深夜のコンビニに銃声が響き渡る。

 暴漢が天井に向けてアサルトライフルを発射した。銃が本物であることを示すためだ。

 暴漢は全部で四人。三人は銃を持って店内に入り、残り一人は駐車場に止めたRV車の運転席にエンジンをふかせたまま待機している。

「頭を手に置いて床にうずくまれ」

 暴漢の一人――鳳淳也(おおとりじゅんや)が叫ぶ。

 出口近くにいたコンビニ客が驚いて走り去ろうとするが、淳也が撃ち殺す。

 店内から悲鳴。数名の客が頭を抱えて床にうずくまる。

「ここに金を入れろ」 

 淳也がテニスバッグをレジの脇のテーブルに置き、ジッパーを乱暴に開ける。

 店員の青年はおそるおそるレジから金をバッグに入れていく。

「早くしろ」

 淳也が怒鳴る。

 レジがほぼ空になると、淳也はテニスバッグを担ぎ、店を走り去る。

 残り二人も淳也に続く。

 RV車は三人が乗り込むと急発進する。


 夜の道は空いていた。

「ところでアニキ」

 運転している男が助手席の淳也に言う。

「なんだってこんなしけた金のために強盗働くんですか。

 アニキなら親爺さんにせびればもっともらえるんじゃないですか」

「予行演習だ」

 淳也が言う。

「銀行強盗やるための練習だ。

 銀行強盗の方がコンビニ強盗より格段に難しいからな。

 まあ四十歳近くになって親に食わしてもらってばかりじゃ、洒落にならない。

 極道ニートなんて呼ばれたくねえもんな」

 後部座席から笑い声が聞こえる。

「笑うな、ジョージ」

 ジョージと呼ばれた男は黒人と日本人のミックスだった。

 しばらくするとパトカーのサイレンが聞こえる。

 やべえ、もう気がつかれたか。淳也は心の中で舌打ちする。

 最近のコンビニには銀行のように強盗用に特殊ボタンがテーブルの下に設置されているかもしれない。

 こんなに早く警察が来るとは思わなかった。

「そこのRV車、停まりなさい」

 マイクでパトカーが話しかける。

「アニキ、まかせてください」

 運転手はアクセルを踏み込み、スピードを100キロ以上に上げる。

 そのまま赤信号を突き進む。クラクションの音。

 暗闇の中に横田基地のゲートが見えてくる。

 うまくいきそうだ。淳也はそう思う。

 在日米軍基地内は治外法権だ。日本の警察は中に入れない。

 どんな凶悪犯罪者が中に逃げ込んでも、日本の警察は犯人を取り締まることができない。

 ただ外務省経由で調査や身柄拘束を要請できるだけだ。

 そしてそういう要請に対する協力には米軍基地はあまり積極的ではない。

 RV車がゲートの前まで来る。淳也は助手席から後ろを振り向き、

「ジョージ、カードを頼む」

 ジョージは米軍IDカードを後部座席から助手席の淳也に手渡し、淳也はそれを運転手に手渡す。

 運転手は窓を開け、警備員にカードを見せる。

 ゲートが開き、RV車は横田基地内に入る。


(つづく)


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