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鉄仮面と呼ばれた男  作者: カキヒト・シラズ


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第12話

 野島が警視庁の警視総監室に入ったのはひさしぶりだった。

 ソファーには総理大臣の南野静子、総務大臣の柿沼敏夫が並び、対面の椅子には警視総監の松田聡、警部の野島真一が座る。

 部屋の隅には複数のSPが待機している。

「警視庁までご足労ただきありがとうございます」

 松田が言う。

「先日、首相暗殺計画はなんとか食い止めましたが、まだ油断はできません。

 第二、第三の刺客が来ないともかぎりません」

「一体、だれが暗殺を企てたんですか」

 南野首相が言う。

「下手人は欧米人のプロの二人のスナイパーです。一人は白人、もう一人は黒人でした。

 直接の依頼主はCIAまたはモサドの関連組織でしょう」

 野島が言う。

「日米合同委員会をご存じでしょうか。あの組織が今回の黒幕と思われます。

 日本の首相を暗殺し、警察にはすぐ中国人の容疑者を逮捕させます。もちろんこの中国人は組織の人間ですから工作員と言えますが、下手人ではありません」

「どうしてそんなことをするんですか」

「中国人が日本の首相を暗殺したとマスコミが煽れば、国民に反中感情が沸き起こります。

 その世論を利用して憲法九条を改正し、日中戦争が始まります」

「わたし、平和憲法を改悪なんかしませんわ」

「しかしもし首相が暗殺されていれば、増山副総理が臨時で総理大臣に就任します。

 彼がコテコテの改憲論者の政治家であるのは周知の通りです。

 しかも彼は広域指定暴力団、四神会と癒着しています。

 四神会が日米合同委員会とつながっているのはご存じでしたか」

「いいえ」

「日中戦争が起きれば、同盟国との名目で米国も形式的に参戦します。その結果、東日本は米国ジャパン州、西日本は中国日本省になって、実質的に日本は消滅します。

 唯一、東京23区のエリアだけ”東京公国”という独立国になりますが、現行の日本政府は消滅してますのでそこを治めるのは実質的に四神会です。

 四神会に人脈がある者が政界、財界などの各界のトップに立ちます」

「南米では」

 松田が口をはさむ。

「反米政権の国があるとCIAが様々な方法で失脚させ、親米よりの政権にすり替えます。

 どこの国でも地元のローカルヤクザがいるものですが、CIAは彼らを育成してその国の政府にします。当然、彼らは親米政権になります。

 国を運営するには莫大な資金が必要ですが、CIAは彼らに麻薬ビジネスで稼ぐことを指南します。

 今回、四神会は青龍アセット社という悪徳金融業者がシノギの中核ですが、麻薬ビジネスでもかなりの収益を上げているはずです。

 四神会としては東京公国という独立国を建国できるとあって、このプロジェクトにはかなり乗り気のようです」

「そこで引き続きお願いですが」

 野島が言う。

「ビッグサイトで首相暗殺は未遂だったことを再三、マスコミに流してください。 

 これにより、日本人の反中感情、嫌中感情をやわらげ、日中戦争勃発を回避できます。

 具体的なやり方としては、地上波テレビ、五大紙、そして大手広告代理店のライジングストリート社に圧をかけて、こちらから指定したMPEG2動画や静止画データの写真を流すのです」

「だったら」

 総務大臣の柿沼が口をはさむ。

「なぜ真実を報道しないのかね。

 下手人は祭なんとかいう中国人ではなく、白人と黒人のスナイパーだよねえ。

 フェイクニュースなんか流してなんのメリットがあるのかな」

「敵をあざむくためです」

 と松田。

「実は、ビッグサイトで狙撃事件が起きる直前、警察庁長官から私に電話がありまして、西展示場に拳銃を持った不振な中国人がいるから逮捕しろと命令を受けました。

 実際、西展示場にすぐわかる男がいまして連行しましたが、彼が祭容疑者です。

 おそらく警察庁長官も”あっち”側、つまり日米合同委員会や四神会の支配下にあると思われます。

 とりあえず長官の命令通り、祭を事件と犯人であるかのような報道を流すことにしました。

 いきなり、本当のニュースを流すと、われわれが日中戦争勃発の妨害工作に動いていることが彼らにばれてしまう。そうならないための予防策です」

「総理にプチ整形手術をおすすめしたのもその一環です」

 と野島。

「加藤外科で総理は整形なさり、以前より美人になられた。テレビを見た彼らは本物の総理は暗殺され、影武者がテレビにうつってると思うでしょう」

「ところで」

 と南野首相。

「実際に殺されたのはだれなの」

「歌舞伎町の熟女系ソープランドで熟女の風俗嬢が加藤外科で整形しました。もともと総理にそっくりな顔と体形でしたが整形で瓜二つになりました。当日、ビッグサイトに出席したのは彼女です。

 彼女は運悪くスパイパーに狙撃されて亡くなりましたが……ちょっと失礼」

 野島はそこで言葉を切り、スマホをいじると「入って来ていいぞ」と言う。

 自分から話を中断するのは総理に失礼かとも野島は思ったが、ヤエガシ・システムズの経営陣を本日、大臣たちに紹介する予定だったのを思い出したのだ。

 しばらくするとドアのノックがあり、二人の人物が入室する。

 八重樫祥子と三崎昇だ。

「忘れないうちに紹介しておきます」

 と野島。

「こちらの女性がヤエガシ・システムズの会長、八重樫祥子です。隣は同社長の三崎昇です。

 マスコミに流すMPEG2動画やJPEGやPNGの静止画データはすべて同社に制作させています」

 祥子と三崎は直立したまま大臣たちに軽く会釈する。

「もしかして源太郎さんのお孫さんかしら」

 南野首相が祥子の顔を見ながら言う。

「わたし、二十年位前、神奈川県議だったんだけど、選挙のとき、源太郎組長が後援会会長でしたわ」

「そうだったんですか」

 祥子は驚いて言う。


(つづく)


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