ep.02:終末系ゾンビで再臨
────……まだ意識がぼんやりとしている。
冷たい石の感触。焦げ臭い空気。
どこかで低いざわめきが響いている。
( ……また転生したの?
初めて……じゃなくて、二度目……だよね? )
重いまぶたをどうにか持ち上げるが、視界は視力0.3くらいにはぼやけていた。
そんな霞んだ視界いっぱいに黒い影が動く。
ざわざわと、それぞれの織りなす衣擦れや小さな話し声が重なりあって雑踏を生み出していた。
「……え、なにこれ、ホラー映画のエキストラ多すぎじゃない?」
ようやく焦点の合った視界で捉えたのは、玉座の周りにひしめく魔族たち。
それはもう、ぎっしり。
スライムっぽいのから、翼生えた悪魔、
黒いマントの騎士、目が十個あるやつまで。
地獄の動物園かここは。
そんな地獄のようなモンスターたちが、一斉にこちらを見上げ、膝をついた。
ライオン・キングかな?サークル・オブ・ライフかな?
「我らが主、再び目覚めたもうた!」
「王の魂が、怒りの炎とともに戻られた!」
「我らが王に、永遠の怒りと栄光を――!」
「……え、えっと……」
…… いや、なんでこんな人数いるの!? しかも全員テンション高くない?
頭が混乱しすぎて、何も出てこない。
とりあえず、私朝から「おはようございます」にスタッカートつけるタイプの人間苦手だったんだよね、と何処か遠い記憶を呼び起こした。
ひとまず、現状を確認すべく、玉座から立ち上がってみる。
……あれ? 体が重い。
というか、腕が……灰色?
嫌な予感しかしない。
手を見下ろすと、黒いヒビが走っていた。
爪は鋭く尖り、皮膚は乾いてボロボロ。
( うわ、何これ、最早ゾンビの手じゃん! )
ふらふらと立ち上がり、近くの柱に映る自分を見た。
血走った目。裂けた唇。焦げた髪。
煙が立ちのぼる肌。
「……いや誰ぇぇぇ!?!?!?」
反射的に叫んだ声は、地鳴りみたいに低かった。
「こっわ! 声こわ!
これもう推しの前どころか人前にも出られないやつ!」
私の声に、魔族たちがざわめいた。
「な、なんと威厳ある咆哮……!」
「おお、王が再び怒りの声を上げられた!」
ちっがうんだよなぁ!
怒ってないんだよ、ツッコんだだけ!
やれやれ、と額に手を当てる。
硬い。角があった。
……うん、角生えてる。
しかもヒビ入ってる。
「いやこれ魔王どころか、終末系ゾンビの最終進化体では!?!?」
「王が進化と仰せだぞ!」
「なんと……我らが王はさらなる段階に至られたのだ!」
「進化の儀が始まったのだ!!」
────始まってません。ほんと、何言ってんだ、あのゴブリンみたいな奴。
混乱の極みに立ちながら、私は心の中で必死に冷静を装う。
( 落ち着け、まどか。これは夢かもしれない。
ここが“|SEVEN SINS ONLINE”の世界なら、絶対“ステータス”コマンドがある )
恐る恐る口を開く。
「……ステータス」
相変わらずきったないガサガサの声に反応するように、ピン、と空気が震えた────




