ep.01:転生したら秒で勇者に殺された件
「────……」
ふ、と意識が戻る。
体が、重い。目が開かない。いや、開けたくない。
全身が痛い。骨という骨が文句を言ってる。
( ……ここ、病院? 事故に遭ったんだよね?
歩きスマホしてた私も悪いけどさ。
信号無視のトラック、あいつは許すまじ…… )
ぼんやりとした思考を繋ぎ合わせていると、
鉄と煙の匂いが鼻を突いた。
でも、これは……焦げた匂い?
( ……なんか、病院っぽくないな……
もしかして、まだ現場!?
運ばれてない系!?)
トラック運転手に救護義務違反を脳内で叩きつけながら、
恐る恐る目を開けた瞬間――
「────魔王、覚悟ッ!!」
耳をつんざく怒号。
反射的に顔を上げると、目の前には光る剣。
こっちに向かって突き刺さる軌道。
「えっ、は!? ちょ、待っ――」
咄嗟に横へ転がる。
地面は石。しかも、冷たい。
どこだここ!?
視界の端で、燃え落ちる玉座。
瓦礫。
そして、空を切り裂く稲妻。
「……え、これ……セブオンのラスボス戦の背景じゃない……?」
自分の手を見る。
白くない。
灰色がかった皮膚に、黒い紋様。
指先には鋭い爪。
「……あれ、私……、魔王だな???」
現実感が一気に遠のく。
ていうか、そう言えば今の叫び声――
剣を構えた勇者リュカ。
その後ろに、戦士ガレス、魔法使いヴァネッサ、弓使いエイラ、召喚士リシア。
そして……
僧侶ノエル。
こんな終末系の背景でさえ、映える推し。
( んー、ちょっと待って。なんで推しが目の前に!?!? )
震える指先を見つめながら、理解した。
これは夢じゃない。
私、スマホゲームの中にいる。
しかもラスボス側。
……いやいや、笑えない。
勇者が剣を構える。
ノエルが光の魔法を唱える。
「魔王ダリオン・ラス!
この世界の穢れと共に滅びよ!」
「いやいや!?
私、ただのファンなんだけど!?!?」
叫んだところで届くはずもなく。
光が弾ける。
世界が、白く染まる。
胸の奥が焼けるように熱い。
( ……え、これ、死亡エンド? )
最後に見えたのは、僧侶ノエルの琥珀色の瞳。
憐れむような、でも優しい表情。
そして、意識が、途切れた。
暗闇。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
音も、感覚も、何もない。
けれど、不意に、声がした。
『我らが主、再びここに……』
『魔王ダリオン・ラス、────再臨せり』
ドクン、と心臓が鳴った。
( ……え、リスポーン……? )
目を開けると、見慣れない天井。
玉座。
そして、跪く魔族たち。
「……え、えっと……」
全員、私を見上げて口々に叫んだ。
「我らが王に、永遠の怒りと栄光を――!」
( いや、待って。私の人生どうなってんの!? )
こうして、私は二度目の人生を――
いや、“三度目”の人生をスタートさせた。




