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魔王♂に転生したけど、勇者パーティの僧侶に恋しています。  作者: アオ
第1章

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ep.12:祝☆脱・終末系ゾンビ


「ダリオン様、こちら先日のゴブリン村での報告書でございます」


そう淡々とした声色で告げるルシファーから、複雑な心境で書類を受け取る。

こういう時、「仕方がない」と割り切れるだけのメンタルは、まだ持ち合わせていない。

“魔王”として第二の人生を歩み始めて、まだ数週間。

十数年かけて積み上げた“人間”としての人格は、そう簡単に崩れてはくれない。


ゴブリン村の詳細を知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが複雑に交錯する。

意図した形ではないにしろ、“魔王”として目覚めてしまった以上、この現実から目を背けるわけにはいかないことだけは分かっている。


私は意を決するように深呼吸を一つしてから、書類に視線を落とした。


『ゴブリン村の魔素暴走について』


魔王のスキル《憤怒の覇王(インフェルノ)》を使用し、焦土と化したゴブリン村から、レイヴンをはじめとする諜報部隊――“夜誓部隊(ノクターン)”のメンバーであるゼノ、アシュ、セレナ、ルミナの五人は無事に救出された。

重傷ではあったが命に別状はなく、私のスキル《再生》によって大半の傷は癒えている。


それでも彼らは、既に次の調査にあたっているらしい。

報告書の記述は驚くほど詳細で、思わず私は眉をひそめた。


「……回復しきっていないのに、無理をして」


声に出したところで、彼らが止まるはずもない。

“夜に誓う者たち”――自分で名付けた部隊ではあるが、名は体を表す……というか、体は名を表していると言った方が正解かもしれない。彼らが夜誓部隊(ノクターン)と呼ばれる所以を、少しだけ理解した気がした。


「なになに……、

 ゴブリン村の魔素濃度は計測不能……最悪だ……。

 植物含む全ての生命反応の消失────……」


土壌の魔素汚染は深刻で、上位種の魔物すら棲息不能。

怠惰の谷(スロースヴァレー)にある怠惰の王(ロデル・スロース)の旧城跡にて、魔素の源池を確認。


「……源池付近の濃度は異常値を示し、現状接近は不可能……か」


ティーカップを片手に、紅茶色の水面に落とすようにそう呟く。

僅かな吐息に、水面が揺れた。

報告書を読んでも、根本的な解決方法は見つからない。


「なんか、魔素を浄化するようなスキル────あっ!」


そんなご都合スキルがあったら良いな、程度に口にした瞬間、自分のレベルが上がっていることを思い出して慌ててステータス画面を開く。


画面端のスキルツリーの文字をタッチして、いくつも枝分かれしたスキルツリーを開いた。

灰色でロックされていたスキルを選択できるようになっており、私が目標としていた《超速再生》もアンロックされていた。


「よっしゃ! 消費魔力も……足りてる!

 ────スキル、解放!」


《超速再生》へと伸びるスキルを一つずつ解放していき、《超速再生》をアンロックする。


アンロックの音が鳴った瞬間、温かな光に包まれた。

どうやら自動で発動したらしい。

いくつもひび割れた肌が治っていく────


「────か、鏡!」


シュン、と音を残して光が消えた瞬間、私は慌てて鏡を手に取る。


「わ……っ、

 嘘でしょ、これが本来の……」


そこには終末系ゾンビなんかではなく、凛々しく荘厳な顔立ちの男性が映っていた。

灰色の肌に黒の紋様が描かれ、目は綺麗な琥珀色。

鼻筋も通っていて、ズル剥け禿げだった頭にも、紅葉で紡いだような鮮やかな紅い髪が艶やかに輝いていた。


「っはぁ~、こいつはイケメンだぁ……」


思わずうっとりと鏡の中の自分を見つめてしまう。

モルガントを除き、幹部である三人も端整な顔立ちをしているが、軍を抜くイケメンさにさすがは“魔王”だな、と改めて痛感した。


「────……だ、ダリオン……様!?」

「あ、ルシファー」


そこへ、紅茶のおかわりを運んできたルシファーがやってきて、私の姿を見て絶句する。

あ、もしかして私のこと分からない感じ?

まあ、こんだけ見た目変わっちゃったもんねぇ~!

何処か誇らしげに口角を持ち上げながらルシファーを見下ろすが、その表情は恍惚としていた。


「か、感激で御座います……!

 ダリオン様の真の御姿を拝見できたこと、この上ない幸せでございます……っ」


潤んだ瞳で見上げられ、悪い気はしないんだけども何とも拭えない、「そうじゃない」感……。


魔王様(マイロード)の真の御姿……!?」


影から出てきたのは、レイヴンだった。

物凄い勢いで飛び出してきたからかなりびっくりしたけれど、びっくりしすぎて声も出なかったのは内緒。


「ダリオン様の真の御姿だって!?」

「直接拝見せねばと思い、はせ参じましたぞ!」


バアル、モルガントと続いて執務室へと飛び込んでくる。

飛び込んでくるのは良いけど、我、一応上司な?

ノックもせず上司の部屋に飛び込むとか、非常識だって言われても仕方ないぞ?

まあ、そんなルールが魔物に適応されるとは思っていないんだけどね!


「おぉ……、なんと威厳ある御姿!」


モルガント、それ、前は威厳がなかったってこと?


「すっげェ……。

というか、ダリオン様、紋様増えてますね」


バアルに言われて腕を見下ろす。

以前はそもそもひび割れて皮膚が剥がれ落ちている部分が多かったこともあるが、ここまではっきりとした紋様はなかった。


刻まれた紋様は魔法陣と同じ効果があるらしく、魔力や筋力の増強など、スキルツリーで解放した分が紋様として表れているようだった。


( これって、うまく使えばスキルを持っていない者でも色んなバフがかけられるってことでは……? )


美容液の実験がひと段落ついていることもあり、次の課題を見つけて胸の底が疼く。

超速再生のスキルも手に入れ、レベルも上がった。

推しの前に出ても恥ずかしくない見た目にはなったものの……、


( そもそも、“魔王”じゃノエルの前には出られないわ )


超速再生のお陰で終末系ゾンビからは脱したけれど、ノエルに会うためにはまだ課題が山積みである。

でも、それも全て推しに会うため。

そう思えば頑張れるというもの。


スキルツリーを改めて見てみると、《超速再生》とは別の枝に《擬態》というスキルがあった。こちらは、解放条件は揃っているが、消費魔力が足りないだけのようである。


( ふむ……。次なる目標は《擬態》の解放のために必要な魔力の増幅と、紋様にて得られるバフの実験だね )


次なる目標を見据え、私は笑みを深める。


待ってろ、ノエル!

すぐに会いに行くからね!


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