ウチの部活に地雷系サークルクラッシャー美少女が入部してきたけど、そもそもの部員が俺一人しかいない件
それは俺が部室で一人、静かにラノベを読んでいた時のことだった。
「こんにちは~、今日からこの部活でお世話になりま~す♪」
一人の女子が部室を訪ねてきた。
ウェーブがかったフワフワの黒髪ツインテール。
バチバチのまつ毛。
濃いめのアイシャドウ。
所謂〝地雷系〟のメイクで武装したギャルである。
制服もしっかり着崩しており、スカート丈もかなり短くしていて、かなり大胆に白い太股を曝け出している。
顔は……正直かなり可愛い。
でも苦手だな、この手の女子って。
「……入部希望者?」
「希望っていうか、もう入部届けは先生に出しちゃいました~♪」
「そ、そうなんだ」
「ウチ、蒲地雷夢って言いま~す。仲良くしてくださいね~♪」
猫撫で声で甘えるように言ってくる雷夢という女。
凄いな、もはや名前からして地雷じゃん。
こんな名前を彼女に付けた親の顔が見てみたいよ。
「えっと、この部活のことわかってる?」
「わかってますよぉ~。『現代視覚研究部』ですよね~?」
――俺が所属している部活は『現代視覚研究部』という。
名前はなんだか小難しいことをやりそうな部活に聞こえるが、実際にはアニメや漫画やラノベ、あとはゲームの話をしたりするだけのただのヲタクの溜まり場。
まかり間違っても、彼女のようなキャピキャピとした女子が入部するような部活ではない。
「ウチも皆と一緒に~、色んなお話したいな~って♪」
「……」
たぶん間違いないと思う。
コイツは〝サークルクラッシャー〟というヤツだ。
非モテしかいない陰キャの集まりサークルにいきなり現れ、誰彼構わずベタベタして気を引いた挙句、サークル内の空気を最悪にして人間関係をぶち壊すという……悪魔のような存在である。
「ところで、あなたが部長さんですか~?」
「一応そうだけど……」
「お・な・ま・え、聞かせてほしいな~って♪」
「……田無晴樹。学年は二年」
「あ、それじゃウチと同学年なんだ~♪ 嬉しいな~♪」
同学年だとわかった途端に気安い喋り方になったぞ、コイツ。
この悪魔め、そうやって男に取り入って異性間の人間関係をめちゃくちゃにしようって魂胆だな。
「ねぇねぇ、晴樹くんは彼女とかいる~?」
「……いるように見える?」
「あはっ、いないんだ~♪ 可哀想~♪」
「……」
「春樹くんって女の子にモテなさそうだもんね~♪ キミさえよければ~、ウチが女子との付き合い方、教えてあげよっか~?」
椅子に座っていた俺のすぐ傍まで歩み寄ってきて、スルリと肩に手を置いてくる雷夢。
凄いいい匂いがする。
しかも俺の目の前で屈んで肩に手を置いているため、シャツからチラッと胸元が見えている。
実に扇情的な光景だ。
……なるほど、コレがこの女のやり口というワケか。
だが残念だったな。
俺にその手は通用しない。
俺はバッと椅子から立ち上がると、
「――蒲地雷夢、キミは〝サークルクラッシャー〟だな?」
「へ?」
「自分が可愛いと自覚した上で部員の男共に気安く接し、人間関係をめちゃくちゃにする。そして部活が崩壊していく様を面白おかしく楽しむ……それが狙いだろう」
彼女に向かって、看破するように尋ねる。
すると――雷夢はしばしの沈黙の後「クスッ」と笑う。
「なーんだ、もうバレちゃったんだ。ウチがサークラだって」
「正体を現したな、悪魔が」
「クフフ、一回やってみたかったんだよねぇ~。陰キャな男共をメロメロにして、仲良しだったサークルをぶっ壊すってさ~」
小悪魔のような笑みを浮かべて見せる雷夢。
クソッタレめ、今までその笑顔でどれだけの男を不幸にしてきたんだ。
油断していると俺ですら魅了されてしまいそうだぞ……!
「でも、気付いたってもう遅いよ~。だって入部しちゃったから!」
「……」
「春樹くんは~ウチの誘惑に耐えられるかな~? 無理だと思うけど、あはっ♪」
「……残念だったな。悪いけどキミの思い通りになることはあり得ないよ。――絶対に」
俺が断言するように言うと、初めて雷夢の表情が少しだけ強張る。
「へぇ、随分な自信じゃん?」
「キミは一つ、重大な事実を見落としている。いや、勘違いしている……と言うべきか」
「……なによ、それ」
「いいか、よく聞け」
俺はバッと右腕を突き出し、
「蒲地雷夢、キミにはこの『現代視覚研究部』を破壊することはできない。何故ならこの部活には――そもそも部員が俺一人しかいないからだッ!!!」
突き付けるように、その事実を雷夢へと教える。
すると彼女は目を丸くし、だらんと肩から脱力した。
「……はぃ?」
「だからさ、この部活には俺しか部員がいないんだって。だから人間関係もなにもあったもんじゃないし、クラッシュするサークル自体がないっていうか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?」
事実を事実として受け止められないらしく、激しく狼狽する雷夢。
彼女はあたふたと慌てふためき、
「だって『現代視覚研究部』って部活なんでしょ!? この高校って最低でも五人の部員が必要なはずじゃ……!」
「うん。昨日、俺以外の四人が全員退部した」
「退部!? 昨日!?」
「まあウチの高校って『アニメ研究部』っていうもっと大きな部活あるしね。四人は全員そっちに移ったよ」
俺は小さくため息を吐き、
「だから『現代視覚研究部』は今日から『現代視覚研究会』に格下げ。残念だったね」
そう教えてあげる。
なので〝アニメや漫画やラノベ、あとはゲームの話をしたりするだけのただのヲタクの溜まり場〟とさっき説明したが、それは既に過去形。
つまりヲタクの溜まり場だったのだ。
それを聞いた雷夢はドサッとその場に崩れ落ち、力なく項垂れた。
「……先生に退部届けを出してくる」
「受理してもらえないと思うな。この高校って一度入部したら、最低でも一ヶ月は部員として活動するようにって決められてるし」
正確にはもう入部ではなく入会だけど。
まあ今更そんなことどうでもいいやね。
「う……うぇ~~~ん!!!」
彼女は遂に泣き出してしまう。
そんなにサークルクラッシュしたかったのか……?
「どうしてこうなるのぉ~!? こっちの高校に転校してきて、ようやくヲタサーの姫になれると思ったのにぃ~!」
「キミ、転校生だったの?」
「そうだよぉ~! 一週間前に転校してきたばっかりだよぉ~!」
そうだったんだ、知らなかった。
ああでもそういえば、確かにクラスの担任が言ってた気がするな。
他のクラスに転校生が入ったって。
完璧に忘れてたけど。
「グスッ……前の高校じゃヲタクサークルとかなくって、ようやくアニメとか漫画の話ができる部活に入れたと思ったのに……。あわよくばヲタクの彼氏も作りたかったのに……」
「ん? キミはサークルクラッシャーになりたいはずじゃ……?」
「それはそれとして、ヲタ話もしたいし彼氏も欲しいの!」
「はぁ……なら『アニメ研究部』に入ればよかったのに」
「やだよ! 向こうにいる男子って今時オタクって感じでチャラくて、怖いんだもん!」
えぇ……サークルクラッシャーになりたいのに男子を怖がってどうする……?
なんだろう、コイツ思ったよりだいぶ変な女なのかも……?
「それじゃなに? キミはつまり――」
「男は怖いけどサークルクラッシュしたいしアニメの話もしたいし彼氏も欲しいの! なんか悪い!?」
涙目になりつつも開き直って見せる雷夢。
悪いと思うが。
言ってることがもう支離滅裂というか、無茶苦茶というか……。
部活に入ってヲタ話がしたくて彼氏も欲しいくせに、そのサークルをクラッシュしたいとか……。
あと男が怖いのに彼氏が欲しいってのも矛盾しとるだろ。
なにがしたいんだ、お前は。
もう突っ込みどころしかないぞ。
いやまあ、たぶんアレなんだろうな。
SNSかなにかでヲタサーの姫とかサークルクラッシャーの武勇伝を読んで、「カッコいい!」とか憧れちゃったタイプなんだろうな。
最近は頂き女子とかが流行ってるとも聞くし。
そんなミーハーな気持ちで「自分でもイケる!」と安易に部活に入った結果、このザマとは……。
まさに現代の闇。
憐れすぎる。
やれやれ、なんだかちょっと可哀想にすら思えてきたよ……。
俺は内心でため息を漏らしつつ、
「えっとさ、今更こんなこと言うのも変かもだけど――」
「ふぇ?」
「ヲタ話がしたいなら俺でもできるよ。これでも結構サブカル全般詳しいし」
「――!」
「男が怖いって言うけど、俺のことは怖くないんでしょ? 彼氏になるとかは無理かもだけど……話し相手にならなれると思うな」
サークルクラッシュ……は物理的に不可能だから、そこはもういいか。
俺がそんな提案をすると――雷夢は嬉しそうにしつつも、同時にちょっと照れ臭そうに頷いた。
こうして、『現代視覚研究会』の会員は二人になりましたとさ。
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