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幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


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今日こそ私は蘇る!

「心配しなくても、お守りの対価以上のものは求めないよ」


 凪さんは会話をしながら工具を使ってペンダントを作り、最後にその強度を確かめてから「はい」と緋一さんに渡した。


「あとね、宝石について心配してくれてるみたいだけど、これぐらいのちっちゃいルースの値段ってピンキリなんだ。現世で売買されている宝石はいかに傷がなく、綺麗かで価値がつくけど、私は石が持つ性質さえあれば十分。私の作るお守りは、石がメインじゃなくて、それに込める私の力がメインだから」


 私はずっと抱いていた、素朴な疑問をぶつけた。


「結局、凪さんって何なんですか? 生きてる? 死んでる?」


 すると彼女は私を見て笑みを深める。


「占い師って年齢不詳で美人な人が多いでしょ? そういうもんだと思ってて。世の中、全部知ろうと思ったら面白くないよ」


「占い師じゃないくせに!」


 誤魔化されてブスッとふてくされると、彼女はカラカラと笑う。


「千秋は大雑把だから『よく分からないけど、不思議な店にいる占い師みたいな人』って思ってるでしょ。それでいーんじゃない?」


 内心思っていた事を言い当てられ、私はギクリとする。


「ま、名前をつけて納得できる事に、大して深い意味なんてないんだよ。ヒトが『名前をつけておけば覚えやすい、認識しやすい』と思って名付けただけ。名前はアイデンティティにもなるけど、私の場合、そういう問題でもないからね」


 凪さんはまた煙に巻くような抽象的な事を言い、誤魔化してしまう。


「……言いたくないならいいんですけど……」


 溜め息をついてお茶を飲むと、彼女はパンと手を鳴らして言った。


「さて、今日のうちに片をつけるんじゃないの? 十月だし、陽が落ちる時間が早くなってる。〝彼ら〟は夜のほうが活発になるよ」


 そう言われ、私は電車の中で迫って来た黒い靄を思い出して背筋を震わせた。


「いっ、行きましょう! 今日こそ私は蘇る!」


 慌てて立ちあがった時、忘れていたタイミングで大きな声がした。


「お客様のお帰り~!」


「うわっ!」


 カクの声を聞き、私たちは三人ともビクッとして声を漏らす。


「このぉ……、鹿頭……」


 私がカクを睨み付けると、奴は愉快そうな顔をして笑う。


「油断していたほうが悪いもんね~」


 そんなカクを見て、緋一さんは呆然としている。


「…………鹿の頭が…………喋った…………」


 そうなりますよね。


「……あれが〝アメノカク〟?」


 彼はノロノロと光輝さんに顔を向け、確認してくる。


「そうだよ~! 宜しくね~!」


 けれど光輝さんが答える前に、カクが底抜けに明るい声で返事をした。


 緋一さんはしばらく沈黙していたけれど、「……はぁ」と溜め息をついたあと気を取り直したようだった。


「まずは千秋ちゃんを助けてからにしよう」


「はい!」


 彼はペンダントを首につけ、凪さんに「お世話になりました」と頭を下げる。


「ごちそうさまでした」


「ありがとうございます!」


 光輝さんと私も彼女にお礼を言い、カクに「特等席で見守ってるからね~」と言われて店を出た。


 心強いんだけど……、なんだか腹が立つ。




**




 二人はまだ神野さんに目を付けられる前、彼の家にお邪魔した事があるらしい。


 緋一さんは入社したての頃で、当時は神野さんも『見所のある後輩を可愛がってやろう』という気持ちで飲みに誘っていたそうだ。


 光輝さんも新人の頃は派閥的なものに属しておらず、神野さんとしては自分を慕う後輩として育てたかったのかもしれない。


 けれど彼の教育係は緋一さんが担い、自然と彼らは仲良くなっていった。


 そんな話を聞きながら、私たちはタクシーに乗るべく伊勢丹前に向かった。


 神楽坂にある神野さんの家までは、バス一本で行けるけれど、バスを待つ時間も惜しいとの事だ。


(……それにしても、こうやって話を聞くと、神野さんって面倒臭い人だな)


 曲がりなりにも二人は神野さんの後輩だから、悪く言うのは良くないかもしれない。


 でも話を聞いていると神野さんは自分の手下になりそうな人を求め、敵対しそうになったらライバル視して嫌がらせをしている。正直、三十歳と思えないぐらい子供っぽい。


(大人って面倒臭いな)

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