確認
沙織さんは勝手知ったる……という様子でお茶の準備をし始めた。
やがて人数分の紅茶が出されたあと、居心地悪そうにしていた柚良はガバッと頭を下げた。
「ごめんなさい! 私、よく分からないけれど、とてもご迷惑をお掛けした気がします」
彼女は今にも泣きそうな顔をしていて、俯いたままプルプルと震えている。
主に被害を受けたのは沙織さんだけれど、彼女は事情を知っている上、今の柚良の様子を見て責める気持ちにはならなかったようだ。
「……柚良ちゃん……、と呼んでもいい?」
「はい」
彼女は沙織さんに声を掛けられ、恐る恐る顔を上げる。
「これから私と光輝くんは、ちょっと普通からは考えられない話をする。でもそれを信じた上で、緋一も柚良ちゃんも自分の知っている事を話してほしいの。……私は緋一を取り戻すという目的を果たしたけれど、千秋ちゃんは自分の体を探し出せていない。彼女を助けるためにも、皆で力を合わせないとならないの」
私の名前が出て、柚良は不安そうに表情を歪めながらも「はい!」と頷いた。
緋一さんも状況が分かっていないながらも「分かった。協力する」と承諾してくれた。
そのあと、光輝さんと沙織さんは代わる代わる、今まで自分たちがどういう経験をしたのかを語っていった。
ついでに、光輝さんは私の兄だと嘘をついた事を柚良に謝った。
二人は凪さんやカクの話を聞いて、にわかに信じられない表情をしていたけれど、自分たちが得体の知れない〝何か〟に支配されていたのは自覚していたからか、神妙な面持ちで聞いていた。
「……じゃあ、光輝の力で俺たちを助けてくれたのか」
緋一さんに言われ、彼は照れくさそうな表情で首を横に振る。
「俺だけの力じゃありません。凪さんが導き、カクが力を貸してくれ、千秋ちゃんも励まし、意見をくれました。それに沙織さんの協力がなければ、この家にも上がれませんでした」
緋一さんはそう言った光輝さんの背中をトンと叩き、笑いかける。
「でも、ありがとう。鹿の神様が力を貸してくれたとしても、実際にお祓いをしたのは光輝だ。自信を持っていいと思う」
続いて柚良もお礼を言う。
「私も感謝しています。なんとお礼を言ったらいいのか。……本来の自分ではなかったとはいえ、私は千秋に酷い事を言ってしまいました。あの場に彼女がいなくても、ちゃんと謝りたい。千秋は心配して忠告してくれていたのに……」
柚良の言葉を聞き、沙織さんがおずおずと尋ねた。
「……一つ確認したいんだけど、緋一と柚良ちゃんは好き合っているの?」
それを聞いて二人は顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らす。
最初にボソボソと言ったのは緋一さんだった。
「……ナンパしたのは事実だ。……あの時は珍しく神野さんに飲みに誘われて、妙に酔っぱらってハイになった勢いで声を掛けてしまった。……気が合ったと思ったから付き合ったけど、……正直、店を出たあとは、どうしてこの子が隣にいるのか分からなくなった。それに……」
緋一さんが言葉を途切れさせたあと、柚良は彼の心情を察したように言う。
「申し訳ないですが、今、私はあなたの事を何とも思っていません。悪いモノに憑かれて好きでもない人と付き合い、我に返った状態です。私の事は気にしないでください」
柚良がキッパリと言い切ったからか、緋一さんは少し気持ちが楽になったようだ。
沙織さんも彼を勇気づけるように言った。
「私も何を言われても構わない。今まで散々冷たくされたんだから、今さら一つや二つ暴言が増えてもどうって事はないわ。……ま、あとから美味しい物でもご馳走してもらうけど」
あえて雑な扱いをされた事で、緋一さんは気持ちを楽にしたようだった。
「二人とも、ありがとう」
お礼を言ったあと、彼は溜め息をついて当時の心境を語り始める。
「……柚良ちゃんの事は特に好きじゃなかった。ただ、神野さんに『あの子可愛いから、声を掛けて付き合ったらどうだ?』と言われた時は、最高の相手だと思ったんだ。……でも、いざ付き合ったあとは、何とも思えなくなってしまった。……でも、彼女と一緒にいるところを沙織に見せつけたくて、……意地でも付き合っていたんだと思う」
言い渋っていた通り、なかなかクズな内容だ。
「『見せつけたかった』って、沙織さんが好きだから気を引きたかったんですか?」
柚良にズバッと言われ、緋一さんは赤面するとモゴモゴと不明瞭な言葉を発する。
沙織さんはそんな彼を見て嬉しそうに微笑み、ポンと彼の肩を叩いた。
「ま、その辺はあとで二人きりになった時に、なんぼでも聞くわ」
「……そうする」
緋一さんは耳まで赤くなってボソッと呟いた。お熱いねぇ……。
光輝さんは紅茶を飲み、話の続きを促す。
「……それって神野さんに誘導されていたって事ですよね? 俺から見て、神野さんは緋一さんをライバル視して嫌っていました。なのに飲みに誘って、しかも面識のない女子大生と付き合えと言うなんて、あまりにおかしすぎます」
「そう……、だな。……俺も神野さんに嫌われている自覚はあった」
緋一さんは混乱したように額を押さえ、苦しげに言う。
「……ねぇ、緋一。ちょっといい?」
不意に沙織さんが言い、「さっきから気になっていたんだけど……」と、彼の首から下がっていた革紐を引っ張った。
その先端には細い糸で石が縛られた物がついているけれど、石には大きなヒビが入って割れていた。
「あっ!」
私はそのペンダントを見て声を上げる。……が、光輝さん以外の誰にも聞こえない。




