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幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


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緋一を祓う

 柚良は恋人に振り回される可哀想な自分に酔っていたけれど、私は必死に『別れなって』と訴えていた。


 そうするうちに私と柚良は険悪な雰囲気になり、大学で一緒に行動しても会話が少なくなり、微妙な関係になっていた。


 柚良が共通の友達に私の愚痴を言った事もあり、孤立しかけていた。


 夏休みを経て連絡をとらなくなった期間ができ、後期になったあとはさらに心の距離ができた。


 私は自慢の親友がクズ男によって変わってしまった事を悲しく思い、なぜそうなったのか不思議でならなかった。


 そんな経緯があったので、私は最初から緋一さんを〝クズ男〟と認識していた。


 だから光輝さんから話を聞いた時、あまりにイメージが違いすぎて心底驚いたのだ。


(けど、それも終わるんだ……!)


 私は緋一さんに対峙する二人の後ろで、彼をしかと見つめる。


「ねぇ、緋一。話を聞きたいの。中に入れてくれない?」


「やだよ。っていうか、俺の質問に答えろよ。なんで光輝といるんだよ。二人で俺を騙してたのか? お前らデキてるのか?」


 彼に疑われ、沙織さんは表情を引き締める。


「入るね! 光輝くんおいで!」


 沙織さんは強引にドアを開けると、緋一さんとドアの間に体を押し込んで家の中に入る。


「おいっ!」


 光輝さんは一瞬戸惑った表情を浮かべたけれど、すぐに唇を引き結び家に上がり込んだ。


(ん? この靴は……)


 続いて中に入ろうとした私は、玄関に見覚えのある靴があるのを見て、サァッと顔色を失う。


 けれどここまできたら一気に解決するしかないと思い、覚悟を決めた。


「勝手な事をするなって!」


 緋一さんはズカズカと家の中に上がり込んだ沙織さんの手首を握ろうとするけれど、彼女はそれを振り払ってドアを開いた。


 すると、中には――。


「緋一さん! なんでこの女を入れたの!?」


 家の中には柚良がいて、予想通りの修羅場に直面した私は頭を抱える。


 おまけに、緋一さんの家の中は綺麗に整っているのに、とても暗く淀んでいるように思えて具合が悪くなった。


 光輝さんも空気の悪さに顔をしかめたけれど、沙織さんは気づいていない様子だ。


 沙織さんは柚良がいる事を予想していたのか、たじろがずに緋一さんを見据えて言った。


「ねぇ、緋一! ずっと聞きたかったの。なんでずっと私を避けてたの? 前は毎週店に来てくれたし、近況報告をしてくれた。私だって緋一がどう過ごしているのか聞けて安心できた。……なのに最近はまったく店に来なくなったと思ったら、いきなり女子大生と付き合い始めた!? あなたいつから年下趣味になったの?」


「うるせぇ! お前みたいなババアより若いほうがいいだろうが!」


 緋一さんが顔を歪めて言い返した瞬間、沙織さんは思いきり彼の頬を叩いた。


「馬鹿!!」


 彼女は確かに怒っていたけれど、涙ぐんだその目は深い悲しみに彩られていた。


「緋一はそんな人じゃない! ずっと付き合いのある幼馴染みに『ババア』なんて言う人じゃないし、私の知っている緋一は年配の方でも子供でも、女性を敬う人だった! 自分を慕う後輩には優しく接したし、皆に好かれる人徳のある人だった! ……っ、いつからそんな情けない男になったの!? 私の緋一を返して!」


 涙声で訴える沙織さんを見て、彼は一瞬動揺したようだった。


 けれどそれに柚良が反発する。


「あんた、彼女でもないくせに何でしゃばってるの!? 勝手に他人の家に入っていいと思ってるの!? 緋一さんの彼女は私なの! お呼びでないババアは黙って消えてくれない!?」


 親友がヒステリックに叫んでいる姿を見るのは、本当に苦痛だ。


 光輝さんだって憧れの先輩のこんな姿を見て、とても悲しく思っているだろう。


「光輝さん! カクを!」


「分かった」


 彼は返事をしたあと、スッと息を吸ってゆっくり吐き、目を閉じて集中を高めていく。


 そして厳かな声で祝詞を唱え始めた。


()けまくも(かしこ)伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)筑紫(つくし)日向(ひむか)橘小戸(たちばなのおど)阿波岐原(あはきはら)に……」


 あとから教えてもらったけれど、この時光輝さんが唱えていた祝詞は、祓詞(はらえことば)といって穢れを祓うためのものだそうだ。


 彼が祝詞を唱え始めた瞬間、どこからかシャンッと清らかな鈴の音が聞こえた気がした。


「ぐうぅっ……」


「あぁああっ!」


 同時に緋一さんと柚良が苦しみ始め、私はたじろいでいる沙織さんに寄り添って二人を見つめる。


「……(はら)(たま)え清め給えと(もう)す事を聞こえし()せと……、(かしこ)み恐みも白す……」


 光輝さんは目に見えない(おお)(ぬさ)をサッ、サッと振って恭しく頭を下げたあと、顔を上げて目を開く。


「あっ……」


 金色になったその目は、この世ならざる何かをしかと見据えていた。

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