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幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


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兄を喪ったあとの生活

 落胆した俺は機械的に会社に通い、神野さんから罵倒される生活を送った。


 そんな中、緋一さんだけは俺の味方になってくれた。


 けれど、いつしか緋一さんから嫌な匂いが漂い、違和感を抱くようになっていた。


 彼は明るくて面倒見が良く、爽やかで人当たりがいい。


 神野さんに嫌みを言われても笑顔でかわし、営業先からの印象も良く、社内の女性からはキャーキャー言われ、それなのに『好きな人がいるから』と言って誰の誘いにも乗らない。


 なのに俺みたいな悪目立ちしているタイプや、仕事に伸び悩んでいる後輩がいたら気さくに声を掛けて『一緒に飲もう』と誘ってくれるできた人だ。


 飲みに行っても緋一さんは無理に話を聞き出そうとしない。


 会話の引き出しが多い彼の話を聞いているうちに自然と気持ちが明るくなり、『この人なら悩みを打ち明けても、受け止めてくれるかもしれない』と、こちらから話をするようになる魅力的な人だ。


 緋一さんはどんな話も真面目に聞いてくれ、適切な意見を述べてくれる。


 そういう態度を平等にとっているから、自然と信頼され、尊敬を集めているのだ。


 だからこそ、緋一さんから腐ったような匂いがした時は、自分の鼻がおかしくなったのかと思った。


『おかしいな』と感じたものの『気のせいだ』と言い聞かせた。


 けれどその匂いを嗅ぐたび、いつも緋一さんがいる。


 加えて、改めて彼を見て『顔色が悪いな』と感じる事が多くなった。


 それに緋一さんを見ていると、体の輪郭がブレるように黒い靄が視えるような気がし、ザワザワと胸騒ぎがする。


 兄貴のように黒いモノがべったりとついている程ではないが、彼に良くないものが憑き始めているのは事実だ。


 ――一体どうして……。


 人に悪いモノが憑く時、原因は色々ある。


 たまたま連れて帰ってしまった時、肝試し的な事をして怒りを買った場合、または誰かに呪いをかけられた時や、無意識の生き霊が憑いた時。


 緋一さんは優秀な人だから嫉妬されてもおかしくないが、同僚を犯人にするのは早計だ。


 だから俺は良くないモノが憑いていると分かっていながらも、具体的な手段を講じる事ができずにいた。


 仮に憑いているモノの正体が分かったとしても、一般人の俺がお祓いする事はできない。


 かといって、いきなり彼に『お祓いに行ったほうがいいですよ』と言えば、〝ヤベー奴〟扱いされてしまう。


 悶々として過ごす俺の胸にのし掛かるのは、死んだ兄貴の存在だ。


 ――緋一さんには、兄貴の二の舞を演じてほしくない。


 そう思って過ごし、どうやって解決すべきか悩んでいる時に限って、住んでいる賃貸マンションが外装工事をする事になり、煩わしさもあって一時的に実家で生活するようになった。


 父とは微妙な関係のままで、口を利かないわけじゃないけど、双方とも必要以上に言葉を交わさない。


 毎日実家に帰るのがつらく、理由をつけて残業し、または漫画喫茶に寄ってから帰宅するようになっていた。


 そんなある日――、俺は凪さんの店と縁を結んだのだ。




**




 私は光輝さんの話を聞き、呆然とする。


「……本当は凄い人だったって事?」


 呟くと、彼は微妙な顔で返事をする。


「俺の話を聞いてた? 何も凄くないよ。神主の息子として生まれたし、霊は視える。でもお祓いはできないし、大切な人を死なせた役立たずだ」


 向かいの席に座った沙織さんは、光輝さんをジッと見つめてから言った。


「……一見無関係に思えるこの面子に、ここまで深い縁があると思わなかった。緋一も柚良ちゃんも、ここにいる三人には切り離せない大切な存在。……光輝くんと千秋ちゃんはこの店で会い、こうして私に縁が繋がった。……加えて、光輝くんにこんなに凄い素質があるなら、……君に頼るしかないんじゃないかな、と感じてきた」


「なっ、何を言ってるんですか! だから、俺の話を聞いてなかったんですか? 俺はただの出来損ないです」


 光輝さんが自分を卑下した時、私はカッとなって声を荒げた。


「出来損ないは、期待されて神道系の大学になんて入らせてもらえません!」


 私は光輝さんを見つめ、強い口調で言う。


「お兄さんを亡くした事で責任を感じるのは分かります。その黒いモノが〝視えた〟なら、『あれを祓えたら……』って思ってしまうでしょう。……でも、真実は分からないじゃないですか! 知らない所で嫌な目に遭っていたかもしれませんし、色んな可能性があります。遺書がなくて原因が分からないなら、光輝さんのせいにならないと思います!」


 言い切った私の言葉を聞き、光輝さんはハッとする。


「……親に通わせてもらってる私が言う言葉じゃないですが、大学ってめっちゃ学費かかるじゃないですか。期待されていなかったら、大学なんて通わせてもらえません」


 私は「説教臭い事を言っているな、申し訳ないな」と思いながら言葉を続ける。


「期待されてるからこそ、厳しくされるじゃないですか。お祖父さん、お父さん年代は子供を甘やかすのが得意じゃないかもしれません。言葉にしていないのに、察しろなんて無理ゲーです。人間、厳しくされるより褒められて愛情を感じるものですから。でも、肯定されないからと言って、自分を卑下してほしくないんです」


 そこまで言い、私は息を吐く。


「私、ここで光輝さんに出会ってラッキーでした。イケメンでめちゃタイプですし、優しくて気取ったところがなくて好感を持てます。『何か悩みがあるんだろうな』とは思っていましたけど、どんな事情があっても私にはマイナスになりません。光輝さんはどんな時も優しくて誠実で、柚良があなたに暴言を吐いた時だって決して感情的にならなかった」


 そこまで言い、私は勇気を出してギュッと彼の手を握った。


「光輝さんは素敵な人ですよ! 複雑な環境で育って大変だったでしょうけど、グレずにこんなに素敵な人に育ちました。親御さんだって鼻が高いと思います。だから自信を持って! 私はどんな事があってもあなたを応援します。まだ出会ったばっかりだし、ただのミーハーな感情かもしれない。……でも、あなたは私の推しです。どんなに自分に自信がなくても、出来損ないだと思っても、私はいつでもあなたを応援しています!」


 私は真っ赤になって言い切り、照れくささを誤魔化すためにドヤ顔をする。


(やっちまったー!)


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