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幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


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出来損ない

「芸能人みたいに色んな人から注目される人は、なかなか凄いものがあるね。人望のある人は大勢のポジティブな想いを背負っていて、一種のバリアみたいになってる。それに自分の芯をしっかり持っている人が多いから、魂の中身がギュッと詰まってるかな。逆に心が揺らぎやすい人、優しすぎる人は魂がスカスカなんだよね。だから悪いものがスッと入りやすい」


「へぇ……」


 私は凪さんの話を興味深く聞きながら、「自分はどうなんだろう?」と考える。


 すると、彼女は私の心を読んだように言った。


「あ、千秋はごくフツー。先祖の守護霊がついていて、千秋自身はそう恨まれてもない。そこそこ人付き合いを上手くやってるタイプだから、心配してくれる人もいるよ」


「……ど、どうも……」


 安心したような、ガッカリしたような……。


 その時、沙織さんがおずおずと尋ねた。


「凪さんは、光輝くんみたいに〝視える〟んですか?」


「まぁね。光輝は〝霊感のある人〟だけど、私は二重の住人だ。生者以外の客を相手にする事もある。……だから君たちのアドバイザーになれていると言えるけど」


「なるほど」


 沙織さんは理解したんだかしていないんだか……、という表情で頷く。


 と、光輝さんが尋ねた。


「それはそうと、カクを通してこっちの事情は把握していると思いますが、現状、俺たちにできる事はあるでしょうか? カクの力を借りても根本的な対処にはならないんですよね? 緋一さん、柚良ちゃん、神野さんに憑いているものはどうやって祓えばいいでしょう」


 その言葉を聞いた凪さんは、ジッと彼を見つめた。


「……な、なんでしょう……」


 彼は戸惑ったように凪さんに尋ねる。


 すると彼女はミステリアスな笑みを浮かべ、いつものように意味深に言った。


「すべての答えは光輝の中にあるんじゃないかな?」


 そう言われ、光輝さんはギクリとしたような表情を浮かべ、視線を落とす。


 しばらく沈黙が降り、私は気まずそうな光輝さんを庇うために質問した。


「どういう事ですか?」


 凪さんは私の問いを聞きながらも、微笑んだまま光輝さんを見つめ続けている。


 まるで問いただすような、彼が何かを言うのを待っているような目つき、態度に、私は焦れったくなる。


「答えが分かってるなら、勿体ぶらないで言ってくださいよ」


 彼を擁護する私の言葉を聞き、凪さんは「分かってないな」と言うように首を左右に振った。


「光輝、よく考えてみな。なぜ自分がこの店に足を踏み入れたのか。なぜ君にその資格があったのか。壱島家の血筋だから? 光輝は〝素質〟があってカクを降ろしているわけだけど、なぜできているのか……。()()()()()()()()


 尋問するように言われ、光輝さんは視線を逸らして気まずく黙っている。


 彼の過去に何かあったのかもしれないけど、こうやって無理に自覚させようとするのって、良くないんじゃ……。


 二人を見比べてアワアワしていると、凪さんは私を見て意味ありげに言う。


「千秋にも関わりのある事だよ」


「え?」


 目を瞬かせていると、沙織さんが尋ねる。


「その〝答え〟が分かったら、すべて解決するんですか?」


「まぁね」


 凪さんの答えを聞き、沙織さんは縋るような目で光輝さんを見る。


 緋一さんを元に戻したいのは分かるけど、言いたくない事を無理に言わせるのは……。


 そう思っていた時、光輝さんが溜め息をついて口を開いた。


「……俺は、出来損ないなんです」


 最初にそう言ったあと、光輝さんは自分の話を始めた。




**




 俺――、壱島光輝は八丁堀にある橋川神社の宮司の孫として生まれた。


 二十八歳の兄貴の和輝(かずき)はとてもできた人で、成績優秀でスポーツ万能、神道系の大学を卒業したあと実家の神社を継ぐべく神職に就いていた。


 二十一歳の妹の澄佳(すみか)も兄貴に似て成績が良く、大学では才媛と呼ばれている。


 三兄妹とも霊感があるが、俺ほどはっきり幽霊が見える人は他にいなかった。


 神主の息子として生まれた事も相まって、周囲からは「凄い」と褒められたが、本人としては良さがまったく分からない。


 害のない存在ならともかく、中には絶対に目を合わせたら駄目だと、子供でも分かる存在もいる。


 祖父は偉大な曾祖父の話をし、『光輝は修行すれば曾祖父ちゃんのようになれる』と期待してきた。


 期待された俺と兄貴がどう育ったかというと、子供の頃から祖父に連れられてパワースポットと呼ばれる場所に連れて行かれ、全国各地の神社にお参りにも行った。


 どうやら神様に顔を覚えてもらうためらしいが、特撮テレビに夢中になる年代の子供に、神社やら神様、霊やお祓いの話をされても『つまらない』しか感想がない。


 友達と遊びたくて仕方がなかったのに、科せられたのは袴を穿いて境内の掃除をし、祖父が祈祷をしているのを正座して聞く事。


 習い事は神様に奉納する演舞としての、古武道の剣術だ。


 友達みたいにサッカーチームに入りたかったのに、〝無駄な事〟は許されなかった。


 そんな日々を送っていたので、俺はすっかり家業が嫌いになっていた。


 小中学生の時は女子から『縁結びのお守りがほしい』と言われて困り、男子からは『あいつに関わると祟られる』とからかい混じりに言われた。


 救いだったのは大好きな兄貴も一緒に修行に加わっていた事だけれど、何事も器用にこなす兄貴に対し、俺は霊が見えるだけの凡人だ。


 なのに神道系の大学に通う事を決められ、望んでもいないのにその道に足を踏み入れる事になった。

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