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幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


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花南沙織

 するとガクンと俯いた柚良の体から、黒い靄がユラユラとたなびき、カクが発する神気に当てられ、蒸発するように消えていったのが見えた。


「…………っはぁ……」


 光輝さんが溜め息をつき、隣を見れば彼は疲れた表情で髪を掻き上げている。


「……柚良?」


 私は声が届かないのを承知で、親友の名前を呼ぶ。


 柚良は少しの間俯いて体を揺らしていたけれど、呆けた顔を上げると緩慢な動作で立ちあがり、光輝さんを無視して店から出て行った。


「……っ、カ、カク! 大丈夫なの!? 柚良は大丈夫?」


 今はもう光輝さんに戻っていると分かりながらも、私は必死にカクに確認する。


 するとカクが現れ、溜め息をついて言う。


《彼女には呪いに似たものがついてて、それが悪さをしていた。ムカついたから軽くひと祓いしたよ。でも根本的な対処ではないから、完全に元の彼女に戻ったわけじゃない。今の彼女は夢から覚めたばかりの状態で、ボーッとしているけど、信号が赤になっているかの判別はつくから、余程の不運に巻き込まれない限り事故には遭わないよ。フラフラと立ち去ったのは、僕が『去ね』って言ったから、命令通り帰ろうとしているだけ》


 カクから説明を受け、私は安堵して溜め息をつく。


「……こういうお祓いみたいなのできるの? だったら私に群がってくる迷い人を祓ってくれたりとか……。あっ、今のやつ、光輝さんに害はないの?」


 矢継ぎ早に質問すると、カクは溜め息混じりに答えた。


《祓えるけど、本格的なお祓いは神職がいてこそだ。光輝が祝詞を唱えたり、神楽を舞うとかでない限り大物は祓えないし、僕が神気を発して散らせるのは小物だけ。それに神様は、本来なら神社で祀られているものだ。今の僕は会社員がリモートで対応しているようなもので、本社に出勤しないと百パーセントの力は出せない。……あと、こうやって僕の力を使うと、光輝にある程度の負担はかかる。僕と光輝の間にパイプが通ってるって表現をしたけど、力を使う時だけそのパイプを太くして、大量に物凄い圧で力を通してる感じって言ったら分かる?》


「う……、うん。……光輝さんは大丈夫なの?」


《小物を祓う程度なら大丈夫。最初に言った通り、光輝はポテンシャルが高い。訓練したら物凄くいい宮司になれるよ。パイプの圧を高くしても耐えられるかは修行次第だけど、素質はあるとはいえ、素人同然の光輝が駄目になる真似はしない。曲がりなりにも僕は神様だから、〝子供〟に害を為す真似はしないよ》


「……分かった。ありがとう」


 お礼を言うと、カクはフッと姿を消した。


 戻った光輝さんは溜め息をつき、私のほうを見て微笑む。


 それからコーヒーを飲んでから言った。


[びっくりしたけど、やっぱり悪霊が憑いてたんだね]


「ですね。……もしかしたらあれは柚良の本心かもしれないけど、少なくとも私の知っている彼女は、面と向かってああいう事を言う子じゃないって信じてます」


 光輝さんは私の横顔をチラッと見てから言う。


[真に受けなくていいと思うよ。『魔が差す』って言葉があるけど、普段の自分なら絶対にしない事をしてしまう時ってある。柚良ちゃんは取り憑かれていたから暴言を吐いた。今はそう思っておこう。……彼女を親友だと思ってるなら、体に戻ったあとに面と向かって聞いてごらん]


「……はい!」


 グッと表情を引き締めて頷いた時、黒いブラウスにパンツ、カフェエプロンをつけた店員さんがテーブルにきた。


(わっ、まずい! 騒いでいたから注意しに来たのかな)


 ギクリとしていた時、店員さんが光輝さんに話しかけた。


「大丈夫だった? 光輝くん」


沙織(さおり)さん」


「えっ!? お知り合い!?」


 店員さんは二十代後半の大人っぽい美人で、優しそうな雰囲気の人だ。


 ロングヘアは仕事の邪魔にならないように一本縛りにしているけれど、ゴムが見えないように一工夫しているし、前髪やサイドの毛も巻いていて、お洒落に気を遣っているのが分かる。


 私は落ち着きのある女性を前にして、「光輝さんはこういう人が好きなのかな?」とモヤッとする。


 それと同時に、彼が店に入った直後に奥を気にしていた理由を理解した。彼女がいないか探していたんだ。


「余計なお世話かもしれないけど、大丈夫だった? あの子、緋一と付き合っている子でしょ?」


 沙織さんと呼ばれた女性は、小さめの声で言ってから「お冷やお注ぎしますね」と、ゆっくりした動作で水のお代わりを注ぐ。


 ……っていうかこの女性、柚良と緋一さんを知ってる!? どういう事!?


 私が目をまん丸にして驚いていると、光輝さんは若干説明っぽく言った。


「沙織さんは緋一さんと幼馴染みですから、あの子の事も知ってるんですね」


 なるほど、幼馴染みだったのか。


「…………ちょっと聞きたい事があるから、外で話せる?」


 沙織さんに小声で言われ、光輝さんは快諾する。


「勿論構いません。夕方でいいですか?」


 彼が提案すると、沙織さんは悪戯っぽく笑った。

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