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幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


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鹿人間

「し……っ、鹿……っ!」


《ん?》


 なんと、光輝さんの頭から鹿の頭が生えていたのだ。鹿人間だ。


 神降ろしってこういう事か! 雑すぎる!


「カ……っ、カク!?」


 あまりにも驚いて震える声で尋ねると、カクは《ピーンポーン》と明るく言う。


《あっ、僕の声は周りの人に聞こえてないから安心してね。凪からの伝言。『普通に話してたら光輝が不審者になる。千秋に話しかけたい時は、心の中で話すと通じるよ』だって。あのペンダントの効果ね》


 カクは明るい調子で言ったあと、スッとその首を消した。


 現れたのは爽やかイケメン光輝さんで、私はその顔を見て胸に手を当てて安堵する。


「いきなり鹿人間は心臓に悪かった……」


 光輝さんは溜め息混じりに言った私に向かって何か言おうとし、慌てて心の中で話しかけてくる。


[千秋ちゃんには俺が鹿人間に見えたの?]


 頭の中に直接響いてくるような声を聞き、私は目を見開く。


「……はい。ECサイトで馬の頭のかぶり物が売ってるじゃないですか。ああいう感じでしたね……」


[マジか]


 光輝さんは真顔で突っ込む。


「……まぁ、あの人たちが割と雑なのは今に始まった事じゃないですし、仕方ないので〝そういう神降ろし〟という事にしましょう」


[千秋ちゃんも大概、順応能力が高いよね]


 光輝さんはそう言って笑ったあと、駅に向かって歩き始めた。


「私、本当はあの店にいるのは夢で、一晩経ったら自分の家で目が覚めるものと思っていました。……でも現実なんですね」


[俺もまだ戸惑ってるよ。でも普通の人から見れば、幽霊が見られる俺は〝変わってる〟だろう。だからこの状況を共有できる人たちと知り合えて、ちょっと嬉しいかな]


 光輝さんは私に歩調を合わせて歩きながら話す。


[祖父さんからは『素質がある』と言われていたけど、『幽霊を見る以外に能のない自分に何ができるんだろう』と思ってた。千秋ちゃんの今の状況は大変だと思うし、心底同情するけど、こんな俺でも役に立てると思うと、なんか勇気が出た]


 彼の言葉を聞き、私は意外さを感じていた。


 パッと見ての印象だと、光輝さんは明るいスポーツマンという感じで、見たままの分かりやすい性格をしていると勝手に思っていた。


 少しお人好しな所はあるけれど、善人で皆に好かれていて、劣等感なんてなさそうと思っていたのだ。


 でも光輝さんは「こんな俺でも役に立てる」と、必要以上に自分を卑下していて、困っている私を助ける事で「勇気が出た」と言っている。


 深い事情は知らないけれど、なんとなく彼はあまり自分の才能を発揮できない環境にいるのかな、と感じてしまった。


(でも、一時的なコンビになったとはいえ、出会ったばかりだから突っ込んだ事を聞いちゃいけない)


 新宿駅に入った私たちは、山手線で渋谷駅に向かう事にする。


 混雑している駅構内で、私は人とぶつかりそう――、と思った瞬間、スカッとすり抜けていた。


(こりゃ完全に幽霊だ)


 そう思った私は、意を決して光輝さんのあとにくっつき、改札をスルーした。


 電車に揺られている間、私は光輝さんとお喋りを続けていた。


「光輝さんと緋一さんは、どういう間柄ですか? 会社の先輩と後輩なのは分かりましたが、仲良くできているとか、そういう……」


 尋ねると、彼は少し微妙な顔になった。


[難しい質問だな。……緋一さんは、最初に言った通りイケメンで仕事ができて、皆から憧れられていた人なんだ。……でも最近は少し様子がおかしい。それまでは面倒見のいい兄貴分という感じだったけど、急に不機嫌になって怒鳴ったり、理不尽な言動をするようになった。……慕っていた人なのに、きつい事を言われて結構ショックだったな]


「えっ?」


 私は光輝さんの言葉を聞き、声を上げる。


「光輝さんの言ってた〝慕ってる人〟って緋一さんなんですか?」


[そうだよ。別に変な意味じゃなく、優秀な先輩でとても良くしてくれたから、恩を感じているんだ]


(良かったー!)


 私はその言葉を聞いてグッと拳を握り、少し饒舌に話す。


「……私、こうなる直前に何が起こったのかハッキリ覚えていませんが、柚良が緋一さんと付き合って異様なまでに夢中になっていたのは覚えています。……でも、私は二人の交際に否定的でした。だって、出会ったその日に付き合うって変じゃないです? 柚良はもっと慎重な子なんです。……だから『やめたほうがいいよ』って言ったんですが、喧嘩になってしまって……」


 柚良を思うと胸がザワザワして、いてもたってもいられなくなる。


「とにかく、二人に会ってみないと分かりませんね」


[そうだな]


 電車の中にも迷い人はいたけど、お守りが効いているのかグイグイ迫ってはこなかった。


 私を気にしてはいるものの、お守りの力が怖くて近づけずにいる……という感じだ。


(ずっとこんな調子だったらいいのにな)


 そう思い、私は車窓に映った自分の姿を見ながら、振動に身を任せていた。




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