繋がった
「でも、そこはギブアンドテイク。代わりに千秋の手助けをしてくれないかな?」
「え? ……まぁ、できる事ならいいですけど……。困っている人は助けたいですし」
優しい……!
私は光輝さんに感謝しつつ、凪さんの言葉に引っ掛かるものがあったので質問した。
「ギブアンドテイクって言いましたけど、私は誰にギブすればいいんですか?」
すると彼女は意味深な笑みを浮かべて言った。
「千秋はちょっと変わった体質をしてるんだよね。私はこうやって香りを生業にしている事もあって、千秋で色々〝実験〟してみたいかな」
「実験?」
物騒な言葉を聞いた私は、彼女の笑顔を見てゾワッと鳥肌を立てる。
「例えばどんな?」
恐る恐る尋ねると、凪さんはニコニコして言う。
「千秋はいい匂いがするから、迷い人に対して魔除けがどの程度効くかとか、色んな……実験?」
「ただの人身御供じゃないですか!」
悲鳴じみた声で抗議すると、凪さんはカラカラと笑い、手首のスナップを利かせて空中を叩く。
「そんな人聞きの悪い~!」
(……この人、滅多にお目にかかれない美人だけど、割と軽いよな……)
私は脱力感を覚えて肩を落とし、溜め息をつく。
「……それより、光輝さんに手伝ってもらったら、本当に現世に戻れるんですか?」
名前を出された彼は、私の質問を聞いて困ったように凪さんを見る。
彼は幽霊を視られるだけだし、助けたい気持ちはあっても、実際にどうすればいいか分からないだろう。
すると凪さんは少し真面目な表情になり、お茶を一口飲んでから言った。
「まず状況を整理しよう。光輝は現世の肉体のままこの店にいる」
「えっ」
私は目を見開いて驚く。
てっきり光輝さんも私の仲間かと思っていたからだ。
「それに光輝は〝視えて〟いるわけだから、外に出ても迷い人を回避できる。それに現世と二重は重なっているから、二人でどこにでも行ける。だから二人で体探しをするといいよ」
「ちょっと待ってください。交通機関ってどうなりますか? 今の私でも乗れるんですか? さっき、人をすり抜けちゃいましたけど」
私は挙手して尋ねる。
「乗れるよ。さっきも説明したけど、二重は現世のコピーみたいな世界だ。交通機関も施設も住宅も全部同じ。千秋は現世の物は動かせないけど、二重の物は動かせる。誰かの前で二重のライターを持ち上げても、現世の人の前では何も起こっていない。……まぁ、霊体の電車、霊体のライターって思えばいいのかな」
凪さんに説明され、私は「ややこしいけど分かりました」と頷いた。
「……それで、俺は何をすればいいんですか?」
光輝さんに尋ねられ、凪さんは腕組みをし、椅子の背もたれに身を預ける。
「そこからは君たち次第なんだけど、とりあえず友達の柚良ちゃんの所に行ってみてごらん。彼氏の猟沢緋一くんの所にもね」
凪さんが言った時、光輝さんが「猟沢緋一!?」と声を上げた。
「し、知ってるんですか?」
光輝さんの反応に驚いた私が尋ねると、彼は混乱した表情で頷く。
「……会社の先輩だよ。エリートでイケメンで、皆から憧れられてる」
――繋がった。
私はそう直感し、また鳥肌を立たせる。
〝運命の相手〟が現れると言われて光輝さんが登場し、私と彼の運命が重なったのは理解した。
けれど本当に光輝さんを頼れば解決するのか、半信半疑に思っていたのだ。
でも光輝さんと緋一さんに繋がりがあると知った今、彼こそ自分を救ってくれる人だと確信した。
「……まさか、緋一さんが出てくるとはなぁ……」
光輝さんも職場の先輩が出てくると思わなかったのか、若干動揺している。
そのあと彼は私を見て質問してきた。
「……とりあえずどうしようか。協力したいけど、今日はもう遅い。柚良ちゃんの所に行ったとして、こんな時間なら怪しすぎるだろ?」
私は「そうですね」と同意する。
と、凪さんがパンと両手を胸の前で打った。
「今日はこうして縁を繋ぐ事が目的。とりあえず光輝は外に出て、食事をするなりして帰って、明日店に来て。千秋はうちに泊まってっていいよ」
「どうやってこの店に来ればいいんですか? 俺はうっかりこの店に来てしまったわけで……」
「そうだね」
凪さんはサラッと言うと立ちあがり、「君、何月生まれの何座?」と光輝さんに尋ねる。
「七月生まれの獅子座です」
「じゃあ、スフェーンでいいかな」
彼女はそう言いながら商品が並んでいるコーナーへ行き、小さな宝石が沢山入っている木箱を覗く。




