壱島光輝
「……あれ? えっ!?」
精悍な顔立ちの男性の年齢は、二十代半ばぐらいに見える。
……結構好みかもしれない……。
……というか、どこかで見た事がある……?
……いや、気のせいか。こんなに好みの人なら忘れるはずがない。
「どうして……、俺……。あれ?」
彼はドアを開けて外を確認し、また中を見て首を傾げる。そんな男性に凪さんが声を掛けた。
「いらっしゃい。せっかく店のドアを開けたんだから、どうぞ入って。……にしても、凄いのが来たね。あははっ」
そう言われては断れないと思ったのか、人の良さそうな男性は戸惑った様子でドアを閉めた。
彼は不思議そうに商品が置かれてある棚を見ながら、首を傾げて言った。
「……いや、あの……。おかしいな。俺、居酒屋に入ったつもりだったんですが」
「多分、今日は君の行きたい居酒屋には行けないと思うよ。今日はそういう日」
凪さんは例によって謎めいた言い方をし、男性に向かって「そこに座りなよ」と私の隣の席を示した。
男性はしばし店内を見回してボーッとしていたけれど、「……どうも」と会釈をして着席した。
(……あ、この人いい匂いがする)
男性が隣に座った時、フワッと清涼な香りがして、私は「変態っぽいかも」と思いつつこっそり匂いを嗅ぐ。
まったく同じではないけれど、私を店まで導いてくれた香りと少し似ていた。
「お茶を淹れるから、ちょっと待ってて」
凪さんに微笑まれた男性は、その美貌に魅入られたように彼女を凝視する。
(……まぁ、そうなるよね。凪さんは美人だし……)
少しガッカリしたものの、私は感じよく見えるように微笑んだ。
男性は凪さんがバックヤードに入ったあと、私を見て「どうも」とごまかすように笑う。
「……あの、私、羽根谷千秋と言います。十九歳です」
私は先手必勝と思い、照れ笑いを浮かべながら自己紹介をした。
彼はいきなり名乗られて少し驚いた表情をするものの、名乗り返してくれる。
「俺は壱島光輝。二十六歳。しがないサラリーマンだよ」
ニカッと笑った光輝さんの表情を見て、私はさらに彼に好感を持った。
(……でも、この人が私を助けてくれる運命の人? でも、どうやって助けを求めればいいんだろう)
こうして普通に話せているのに、いきなり「私は肉体がないんです。助けてください」なんて言えば、ヤバイ奴認定されてしまう。
好感を持ったイケメンだからこそ、初手の印象には気をつけたいところだ。
どうやって会話を続けようかドキドキしていた時、凪さんが現れてテーブルの上にガラスのティーポットを置いた。
「お茶をどうぞ。君にはペパーミントティーね」
「あ、どうもっす」
光輝さんは会釈をしてお礼を言い、凪さんがティーカップにペパーミントティーを注ぐのを見る。
湯気を立てるお茶を一口飲んだ光輝さんは、心底不思議そうに凪さんに質問した。
「……それにしてもこの店はなんなんですか? 俺、本当に居酒屋に入ったつもりなんですよ。看板も出てたし、中から人の声もしたし……」
光輝さんは溜め息をつき、髪を掻き上げる。
「そういう日もあるよ!」
凪さんは明るくお決まりの言葉を口にし、それを聞いた私は内心で「ないって!」と突っ込む。
彼女は私たちの向かいの席に座り、興味深そうに光輝さんを見つめてから質問した。
「君ってUFOを信じる?」
いきなりだな。
光輝さんは戸惑いつつもおずおずと答える。
「……まぁ、地球人も広義では宇宙人ですから、広大な宇宙のどこかに地球と似たように生物がいて、独自の文化が発展していてもおかしくないと思っています」
「私も同意見だよ。じゃあ、心霊は?」
「うーん」
光輝さんは大きくうなって腕組みをする。
「あー……」
心霊についても彼はそれなりの見解を述べると思っていたけれど、光輝さんはしばらくうなって言葉を迷わせていた。
と、彼は顔を上げると逆に凪さんと私に尋ねてきた。
「二人は信じますか?」
「私は信じるよ」
凪さんは即答し、私もぎこちなく頷く。
「……多分、見える人には見える……んだと思います」
光輝さんは私たちの答えを聞いたあと、ペパーミントティーを飲んでからボソッと言った。
「……俺、〝視える〟んですよね」




