表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽香の庵 幽霊女子大生、神降ろしのサラリーマンと体を探す  作者: 臣 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/71

壱島光輝

「……あれ? えっ!?」


 精悍な顔立ちの男性の年齢は、二十代半ばぐらいに見える。


 ……結構好みかもしれない……。


 ……というか、どこかで見た事がある……?


 ……いや、気のせいか。こんなに好みの人なら忘れるはずがない。


「どうして……、俺……。あれ?」


 彼はドアを開けて外を確認し、また中を見て首を傾げる。そんな男性に凪さんが声を掛けた。


「いらっしゃい。せっかく店のドアを開けたんだから、どうぞ入って。……にしても、凄いのが来たね。あははっ」


 そう言われては断れないと思ったのか、人の良さそうな男性は戸惑った様子でドアを閉めた。


 彼は不思議そうに商品が置かれてある棚を見ながら、首を傾げて言った。


「……いや、あの……。おかしいな。俺、居酒屋に入ったつもりだったんですが」


「多分、今日は君の行きたい居酒屋には行けないと思うよ。今日はそういう日」


 凪さんは例によって謎めいた言い方をし、男性に向かって「そこに座りなよ」と私の隣の席を示した。


 男性はしばし店内を見回してボーッとしていたけれど、「……どうも」と会釈をして着席した。


(……あ、この人いい匂いがする)


 男性が隣に座った時、フワッと清涼な香りがして、私は「変態っぽいかも」と思いつつこっそり匂いを嗅ぐ。


 まったく同じではないけれど、私を店まで導いてくれた香りと少し似ていた。


「お茶を淹れるから、ちょっと待ってて」


 凪さんに微笑まれた男性は、その美貌に魅入られたように彼女を凝視する。


(……まぁ、そうなるよね。凪さんは美人だし……)


 少しガッカリしたものの、私は感じよく見えるように微笑んだ。


 男性は凪さんがバックヤードに入ったあと、私を見て「どうも」とごまかすように笑う。


「……あの、私、羽根谷千秋と言います。十九歳です」


 私は先手必勝と思い、照れ笑いを浮かべながら自己紹介をした。


 彼はいきなり名乗られて少し驚いた表情をするものの、名乗り返してくれる。


「俺は壱島光輝(いちしまこうき)。二十六歳。しがないサラリーマンだよ」


 ニカッと笑った光輝さんの表情を見て、私はさらに彼に好感を持った。


(……でも、この人が私を助けてくれる運命の人? でも、どうやって助けを求めればいいんだろう)


 こうして普通に話せているのに、いきなり「私は肉体がないんです。助けてください」なんて言えば、ヤバイ奴認定されてしまう。


 好感を持ったイケメンだからこそ、初手の印象には気をつけたいところだ。


 どうやって会話を続けようかドキドキしていた時、凪さんが現れてテーブルの上にガラスのティーポットを置いた。


「お茶をどうぞ。君にはペパーミントティーね」


「あ、どうもっす」


 光輝さんは会釈をしてお礼を言い、凪さんがティーカップにペパーミントティーを注ぐのを見る。


 湯気を立てるお茶を一口飲んだ光輝さんは、心底不思議そうに凪さんに質問した。


「……それにしてもこの店はなんなんですか? 俺、本当に居酒屋に入ったつもりなんですよ。看板も出てたし、中から人の声もしたし……」


 光輝さんは溜め息をつき、髪を掻き上げる。


「そういう日もあるよ!」


 凪さんは明るくお決まりの言葉を口にし、それを聞いた私は内心で「ないって!」と突っ込む。


 彼女は私たちの向かいの席に座り、興味深そうに光輝さんを見つめてから質問した。


「君ってUFOを信じる?」


 いきなりだな。


 光輝さんは戸惑いつつもおずおずと答える。


「……まぁ、地球人も広義では宇宙人ですから、広大な宇宙のどこかに地球と似たように生物がいて、独自の文化が発展していてもおかしくないと思っています」


「私も同意見だよ。じゃあ、心霊は?」


「うーん」


 光輝さんは大きくうなって腕組みをする。


「あー……」


 心霊についても彼はそれなりの見解を述べると思っていたけれど、光輝さんはしばらくうなって言葉を迷わせていた。


 と、彼は顔を上げると逆に凪さんと私に尋ねてきた。


「二人は信じますか?」


「私は信じるよ」


 凪さんは即答し、私もぎこちなく頷く。


「……多分、見える人には見える……んだと思います」


 光輝さんは私たちの答えを聞いたあと、ペパーミントティーを飲んでからボソッと言った。


「……俺、〝視える〟んですよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ