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【偉大な魔法使いの足跡について調べるというプロジェクトを行う上で、私達のグループはアイルランドの守護聖人である聖パトリックについて調べることになった。彼について調べる中で、命日である3月17日は聖パトリック・デーと呼ばれ、お祭りが開かれることが分かった。

 そこで春休みを利用して、アイルランドを訪れ実際に現地を調査することにする。エメラルドの島とも呼ばれるその美しい国に行くことになり、私を含め班員はとても楽しみにしていた。

 飛行機でロンドンまで渡り、そこからフェリーでアイルランドに向かう。キラキラと輝く海に浮かぶエメラルドを思わせる緑の島を見たとき、私は海鳥の歌う声にも触発されたのかとても高揚した気持ちになった。

 しかし、この時の私達は知らなかった。今は平和に満ちたこの島でこれから起こる大事件を】



 おっとー、開始数行で雲行きが怪しくなってきたぞ~。なんだ、このいきなりのサスペンスを思わせる文体は!? 続きが気になるが焦らすように聖パトリックが行った数々の偉業に、(毒の入った盃を凍らせる、毒蛇を追い払う、異教の魔術師を焼き尽くすetc)聖人なんだか魔王なんだかよく分からないという感想しか抱けない。



 旅のレポートはどこだとめくっていけば、3ページ目からアイルランド旅日記に戻っていた。


【3月15日。アイルランドの首都ダブリンについた班のメンバー五人は、宿に荷物を置いて食事に出かけることになった。夕暮れ時のダブリン市内では様々なアーティストが路上でパフォーマンスを行っており、とても楽しめた。

 レストランで名物のアイリッシュ・シチューやラム肉のステーキを頬張り、チョコ好きの国民性らしくおススメだというホットチョコレートを飲んでいる時、そのニュースは目に飛び込んで来た。

 クライストチャーチ大聖堂に収蔵されている、聖パトリックの心臓が収められたハートの小箱が盗まれ、代わりに白いカードがおかれていたのだという。アイルランドが誇る至宝ともいわれる小箱を、しかも聖パトリック・デーの間際に盗むなんて不届きな奴だなと思いつつ、子どもには何も出来ないので警察の皆さん捜査頑張れと、心の中で応援の旗を振っておくこととする】


 なるほど、確かに事件は起きた。ん? 待てよ。アイルランドに現れた泥棒って確か2年前の。


【余談だが、ニュースで出てきたこの泥棒による被害額の多さに驚いた。この世界にこんな強者的泥棒がいるとは思わず、物語好きの血がたぎって調べてみた。

 楽器のヴィオラのマークが描かれたカードを必ず現場に残すその泥棒は基本的に自分のための盗みはせず、盗品を取り返したりお金持ちの家から財産を盗んで貧しい人々に配ったり、お宝を盗むと見せかけて犯罪を犯している証拠をつかんで警察に流しているのだという。貴方の前世はネズミ小僧なのですか? 

 今まで、自分の私利私欲のために盗んだことのない彼が今回どうして聖杯を狙ったのかと、警察関係者も首を傾げているそうだ】


 カードのイラストにちなんでヴィオラと呼ばれている彼の怪盗は、ダークヒーロー的な要素もあるせいかかなり人気なんだよね。僕もその1人だから一度会ってみたいんだけど。

 そうか、八剣はその時アイルランドにいたのか。なんて羨ましい。是非とも怪盗さんのサインが欲しい。


【泥棒のらしくはない行動の謎は気になるが、子どもに分かるはずがないので、私達は聖パトリックについて調べることに専念する。

 3月16日。朝食が名物だと言う宿でアイリッシュ・ブレックファーストに舌鼓をうつ。目玉焼きとベーコン、焼きトマトにソーゼージ、マッシュポテトというメニュー。焼きたてのフワフワのパンは食べ放題でそれと合わせてとても美味しかった】


 ちょいちょい食事の描写入れてくるから、お腹が鳴ってしまったではないか。楠葉先生、もう一思いに笑っていいんですよ。食い倒れ日記にならないか心配になって来た。


【アイルランドの歴史を学ぶため、朝食を終えた私達は早速国立考古学歴史博物館に向かうことになった。ここには、聖パトリックの鐘や櫃も収蔵されている。

 目がくらむほどの金の工芸品の数々に目の保養を行っていた私達だが、見学の最中唐突にメンバーの1人である絵鳩(えばと)汐里(しおり)さんが精霊に誘拐された】


 ぎゃー、重大事件起きたー! 何度も読み返すがどう見ても誘拐と書いてある。確かに精霊は実在する。魔法使いの中には、強大な力を持つ精霊を使役し、意のままに操ることができる者もいると聞く。

 だが、精霊が人を連れ去ることがあるという伝説はあるが、あれは子どもへのしつけのための伝説で、実際に精霊が犯人の誘拐事件などそう起こるものではないのだが。


【大切なクラスメイトを攫うならこちらにも考えがある。探索魔法が得意な賢人(けんと)くんに汐里さんの行方を探してもらう。ダブリン郊外の遺跡の地下にいることが分かったので、魔法で犯人の意識をかく乱してその隙に汐里さんを無事助け出すことに成功した。警察に犯人を引き渡すことも忘れない】


 おや、事件解決早いな! なるほど、このスピード解決っぷりが彼が僕の担当生徒に選ばれた理由なのかな。続きはまた聖パトリックにちなむ場所の話やお祭りの話になったので、あとは平和に旅行が終わるのかと思ったが。


【警察の人に汐里さんを誘拐した犯人の動機について尋ねたが、何とその犯人はただ操られて彼女を誘拐しただけで、人を遠くに運べるほどの魔力も持たなかったらしい。真犯人は別にいる。旅のメンバー全員に守護の魔法をかけつつ、私も独自で調べることにした。いやな予感がする】


 とても不穏なんだけど! ってか、八剣は何1人で解決しようとしているの! それは、警察の人に任せて大人しくしてて!


【情報を集めようとスマホで検索をかければ、類似の誘拐事件がダブリン市内で数件起こっていた。被害者の行方や犯人の正体はいまだに掴めていない。

 と、そこで汐里さんが、昨日の盗難事件がもしかしたらこの一連の誘拐騒動に関係があるのでは、と意見を出した。そういえば、重大事件の解決にも一役買ったとか言っていたな。私達は顔を見合わせると、盗難事件の現場となったダブリン最古の教会、クライストチャーチ大聖堂を訪れることにした。

 石造りの教会内は、ロマネスク様式とゴシック様式のアーチが重なる総合な雰囲気の礼拝堂に息をのむ。ゆっくり観光したいが、事態の把握が大切なので、ハートの小箱が収められた地下室へ移動。

 今は何も収められていないガラスケースに手をつけば流れ込む記憶。

 今回の誘拐の一連騒動は一部の荒くれものの精霊が起こしたものだった。他者を傷つけることを楽しむ残忍な性質を持つ精霊は同族にも嫌われ、このアイルランドの地の北方へと追いやられていった。その怨みを晴らすために聖パトリックの心臓を利用しようとした。心臓に生贄の血を捧げれば心臓は穢れて、恐ろしい呪いをまき散らす武器へと変わるのだと言う。それを防ぐため精霊たちが手に入れる前にあの泥棒はハートの小箱を盗んだのだ】


 あ、今回も安定のいい人だった。というか、さらっと書いてあるけど陰謀が怖い! 誘拐された人たちは無事なのかな?

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