第97話:偉い人には偉い人の苦労がある
こんこん
「あーはいはい!今出ますよ……ってヴェークさん!?」
「……。」
「え、どうしたんですか?暗い顔して。」
「……しちゃった。」
「うん?」
「しっぱい、しちゃった。」
「うん……うん?」
「うわーん!」
「えー!?どうどう!」
そんなわけで、家出してきたヴェークさん匿うことになった我が家です。
いや、一国家の王は庇い切れないよ!?
「落ち着きましたか?」
「うん……。ごめんね?」
「いやぁいいけどさぁ。どうした本当に。」
「いや、実は……ぐすん。」
「泣くな泣くな?」
「じ、実は、国政で、失敗しちゃって。」
「え、国政の失敗って何?」
「大事な書類に、間違ってコーヒーこぼしちゃって。」
「あ~よくある奴~。」
大事にしている書類ほどなんか折り目とかついちゃう奴~。
「うぅ……ひっく……。」
「どうどう。落ち着け?」
この人メンタル弱いな。
初対面の時も吐いてたし、心が弱い人に無理させてやるなよ。
「でもどうしてここに?」
「ま、前に会ったときに、お話してたら、心がほっとしたから、会いたいなって思って。」
……なんかこの人、あれだな、可愛いな。
「そっか~、まぁ落ち着くまでここでのんびり過ごしていってくれよ。」
「う、うん!ありがとう!そういえばカノイ君の家族は?」
「家にはね~父と母と嫁さん3人と子供が5人いるよ~。」
「え!?大家族だね!」
「そうなんだよ~まあでも一番はあれだな、村の人全員が家族みたいなもんかな。」
「そうなんだ。何人ぐらいいるの?」
「えーっと、80人くらい?」
「多いね!?」
そうなんだよな、家族としては多いんだよ。
「でもさ、ヴェークさんだって大家族だよ。」
「え?」
「だって王様って国家の父だよ?つまり、この国の人達全員と家族なんだよ。」
「……そっかぁ。」
「そうだよ?だからさ、国民を信じてみてもいいんじゃないかな?」
「国民を信じる?」
「うん、皆さ、失敗をフォローするくらいの余裕はあるはずだからさ、間違えちゃったら間違えちゃったって言ってみてもいいんじゃないかな?」
「それで、いいのかな?」
「いいんだよ!人間なんだから、失敗はするさ。」
「そっか、そっかぁ。」
「それにさ、完璧な人間のほうが珍しいんだから、一国の王様がうっかりさんでも大丈夫だって。」
「それは……ちょっと困るかもしれないけど。」
「いいんだよ。ちょっとの失敗くらい。大事なのは失敗したって気が付くことと気が付いたときに反省してちゃんと報告したり修正したりすることだって!」
「そうだね。ちゃんと、報告しなきゃなぁ。」
「よしよし、いい感じだ!このまま王城に戻って仕事の続き、やろう!」
「う、うん!」
「私も手伝うから頑張ろう!」
「え!?うん!ありがとう!」
「よし!行くぞ!」
飛竜旅客便でひとっ飛びだ!
ということで国家経営の手伝いをしてみたのだが、あれね、いつもやってる書類仕事に似てた。
提出内容がまとめられている分整理は楽だった。
あとコーヒーのこぼれた書類だけど、執務室の人達が必死になって写しを作ってくれていたので何とかなった。
「ほらね?案外なんとかなるんだよ。」
「うん!カノイ君、本当にありがとう!……また、会いに行ってもいいかな?」
「え?う、うーん、まぁちゃんと仕事してからならいいよ?」
「そっか!ありがとう!」
そんなわけでまた会う約束をしてヴェークさんとはお別れした。
早いところ家に帰って自分の仕事を終わらせなきゃなぁ。
カノイ・マークガーフ、23歳、国家運営のお手伝いをして見識を広めた冬の出来事である。
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