第90話:身分に関係なく人は助けましょう
「え、お爺様が逝去なされた?」
その知らせは国中を騒がせることとなった。
お爺様、もとい現国王のご逝去、つまり亡くなられたのだ。
もちろん私達貴族、というか遺族になるのか、も葬列に参加しなければならない。
ということで飛竜に乗ってひとっ飛びで王国まで行くことになった。
「私、飛竜に乗るの初めて!」
「ヘディンも初めて!」
今回は代表者として両親とその子、私とフロージとヘディンが葬式に参加することとなっている。
リボルやヴァイスは村と子供達を見守ってもらわなきゃいけないので一旦待機だ。
そんなわけで久しぶりの親子水入らずでの旅行、なんて言っている場合ではないが、出かけたのである。
お爺様の姿は以前見た時よりもやつれていた。
最愛の妃である春野さんを亡くしてから数年、国王として一人、国を治めてきたことの苦労は計り知れない。
「そういえば、直接お目通り願ったことはなかったな。」
そう思うと少し悲しくなって、涙があふれた。
あちらからしてみれば、あったこともない沢山いるはずの孫の一人が、突然泣き出したのだから混乱していることだろう。
フロージとヘディンはそんな私の姿を見て、空いていた左右の手をぎゅっと握ってくれていた。
気分を落ち着かせるためにちょっとお手洗いに~なんて出かけたら道に迷ってしまいました。
どうも、22歳成人男性?です。
いや~まさかこの年で迷子になるとは、なんて一人で反省会を開いていると、どこからかツンとした酸っぱいようなにおいが。
これは……あれだ、二日酔いの時によく嗅ぐあの臭いだ。
あ、ちなみに私はザルなのでやらかしたことはない。
友人がよくやらかしていたのでよく嗅ぐ臭いだっただけだ。いや~懐かしいな~。
なんて言っている場合ではなかった。
何処かで嘔吐している人がいるというのはそこそこ大問題である。
「大丈夫ですか!?」
「うぅっぐ……。」
大丈夫じゃなさそうだ。
とりあえず倒れそうになっているその人の背中をさすり、近くのソファに誘導した。
後はあれだな、水。
「ウォーター!」
手元に水の球を発生させる。
「とりあえずこれを飲んで落ち着いてください。」
「あ、あぁ、ありがとう。」
ごくごくと出した水を飲みこんでいく暫定お兄さん。
喉乾いてたんだな~緊張性の物か熱中症の類か。
そうして落ち着かせている間に掃除道具を探して吐しゃ物を片付ける。
「あ……。」
「こういうのって恥ずかしかったりしますよね~。大丈夫、誰にも言いませんよ。」
友人が吐いたところを写真に撮って爆笑していた時代を思い出す。
あの時の友人は顔を真っ赤にして「消せ!」と叫んでいたっけな。
「なにからなにまでありがとう……。」
暗い表情でお兄さんはお礼を告げる。
今日こんな表情をしているってことはあれか、もしかしたら親族の一人か?
国王に可愛がられていたのなら意気消沈している理由もわかる。
うーん、こういう時のケアって慣れてないんだよな。
あ、そうだ。
「転生賢者って前世があるらしいんですよ。」
「え?」
「前世で色々なことを学んで、それをこっちの世界で広めてくれているんだとか。」
「は、はぁ。」
「国王様ももしかしたらどこかの世界に生まれ変わって国の治め方を誰かに教えに行っているかもしれませんね。」
「……。」
「案外、死んだら終わりってわけじゃないんですよ。だから今頑張っておかないともったいないんですよね。」
「……ふふ、死に関してそんな風に考えている人は初めて見たよ。」
「そうですか?賢者様方のことを考えるとそういう考えの人もいるんじゃないかな?」
「うん、そうだね。偉大な賢者様にも苦労して得たものが沢山あったんだろうな。」
「そうですよ。今頑張っておけば、死んだあとお得かもしれませんよ?」
「ふふ、そうだね。がんばって、みようかな。」
うんうん、いい感じに元気になってくれたようだ。
よかったよかった。
それはそれとして、この方どなただろう?
葬式会場では見かけなかったが親戚だろうか?
「王子!いえ、国王陛下!戴冠式の時間が差し迫っております至急用意を!」
「あぁ、分かったよ。」
…………うん!?
「さて、君も式に参加しているんだよね。じゃあ行こうか?」
「あ、はい。」
「そうだ、まだ名乗っていなかったね。私はヴェーク・トゥエルヴ。この国の第一王子だ。」
「え、あ、カノイ・マークガーフです。」
凄い人だったー!?
いやその辺で吐いている人がそんな立派な人だと思わんやん!
その後、式は滞りなく行われた。
ヴェークさんはこちらを見て笑顔で手を振ってくれたものだから一部周辺の人々が大騒ぎだった。
とりあえず、手は振り返しておいたが、なるべく関わりたくないぞ!
王国のごたごたに巻き込まれたくないしな!
そんなわけで観光もそこそこに、素早く撤退したわけだが……今後、王国のごたごたでヴェークさんと関わっていくことになるとはこの時の私は気が付いていなかったのである。
カノイ・マークガーフ、22歳、国王とお友達?になった春の出来事である。
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