第76話:育成は忍耐
「お~ここが帝国か~。」
門をくぐると景色は一変、無骨な装いと煉瓦造りの建物が所狭しと立ち並んでいた。
「結構な人口密度だな。土地が狭いのか?」
「いや、壁の外を含めれば広大な土地があるはずだよ。」
う~ん、やっぱり不毛の地だからなかな。
農家になる人がいないと田舎って過疎るんだよな。
正直前世で経験があるぞ!
「仕事がないのかもな~。王都以外に。」
「なるほど、確かに農業や畜産業には力を入れていそうにないですね。」
「そっか、でも王都の仕事ってそんなにあるのか?」
「ないから兵士ばっかりになってるんだろ~。」
さて、目的地はっと、
「とりあえず教会行こう教会!」
「そうですね。まずは教会で情報収集しましょうか。」
「どこの店が美味いか聞いてみようぜ!」
教会に入ると建物を突き抜けるように神の木が生えていた。
しかし、予想通り、心なしか元気はなさそうだ。
「なんというか、死にかけてる感じ?」
「さすがにそれは失礼では……まぁ事実ですが。」
「あれか、休憩なしで働かされている感じか。」
そうか、やっぱり神の木に異常が起きていたか。
禍々しいはずの木はただの枯れ木のようにかさかさと音を立てている。
精霊達が寄り付かない理由、生命力がないからだな。
う~ん、さて、なら解決は簡単だ。
木に栄養を与え続ければいい。
つまるところ実を収穫しない期間を作るのだ。
家でもやってるよね。
「しかしどうするか。神の木を使うなって大々的に主張してもなぁ。」
「使おうとしてるやつ1人1人止めるわけにはいかんしな。」
「国で規制をかけられればいいんですが。」
「皇帝にお願いするのか?うーん何か原因を明確に伝えられる手段があればなぁ。」
そう話し合っているのは教会で教えてもらったおすすめの酒場。
リーズナブルな価格でボリューミーなお肉が提供される若者なら大喜びの飲み屋だ。
ただお酒を提供しているだけあって、なかなかに荒くれている。
ほら、今も喧嘩が起きそうになって、
「「最初はグー!じゃんけんぽん!」」
「ぶーっ!」
「カノイ様!?」
「どうしたどうした。」
「そ、そうだった!」
「え?なんですか?」
「この国、じゃんけんが絶対だった!」
「「は?」」
世界開拓記に記載されている歴史の1ページ。
帝国についての手記。「我が国では重要な事項はじゃんけんで決めている。」
つまるところ、国家ぐるみでじゃんけんでの権力争いを推奨しているのだ。
「変な国だったー!」
「カノイ様、流石にそれは失礼では?」
「でもじゃんけんで喧嘩って確かに変だぜ。」
でも解決法はこれで分かった!
今晩城にこっそり潜入だ!
「皇帝殿!」
「……なんだ、貴様は」
「転生賢者の吉井一人というものだ!」
「ほう、その自称転生賢者が何用だ。」
「じゃんけんをしよう。」
「ほう?貴様は革命家か?」
「革命は起こすが、皇帝の座は絶対いらない!」
「ふ、そうか、では一体何を望む?」
「神の木の厳重な管理だ。」
「なに?」
「今、この国の神の木は枯れかけている。」
「あぁだろうな。最近実りが悪いと報告が上がっている。」
「その問題は木に休息を与えることで解決する。」
「なんだと?」
「11番目の転生賢者が残した神の木の観察記録だ。そこに神の木の詳細な運用方法が記載されていた。」
「……ふむ、それで?」
「私が勝ったら神の木の管理体制を見直してもらう!」
「では貴様が負けたら?」
「……転生賢者としてこの地に骨を埋める。」
「なるほど、自分の使い方をよくわかっているではないか。」
「勝負は一回。いいな?」
「よかろうでは、いざ、尋常に勝負!」
「「最初はグー!じゃんけんぽん!」」
デバッグモード!
「いや~申しわけないけど手を見てから出させてもらうぞ!」
デバッグモードの起動とともに世界は停止する。
相手の手はグーだ。
「じゃあ、パーってことで!解除!」
「ふむ、我の負けだな。」
「うん!約束通り神の木の管理体制を指示通りに改善してくれよ!」
「あぁ、約束は守ろう。」
「そうすると土地に精霊が戻り始めるから、そしたら農業とかも始めるんだ!」
「なに?」
「土地に生命力が満ちるまでは神の木使用禁止!生産性が上がれば国も安定してくるから!」
「なるほど、まさしく転生賢者だな。」
「そうでもないよ!やることやってるだけさ!」
「ふ、そうか。」
「じゃ!あとはよろしくな!」
「…………石像でも立てるか。」
「いらんいらん!」
これで数年後には精霊達も戻ってくるだろう!
農業に畜産業が復活すれば今の他国に頼っている食料なんかの物資も自国で賄えるようになる。
そうすれば、彼らにとって戦争をする意味はなくなる、はずだ。
しかし、本当にじゃんけんで解決するとは……いや、解決したのか?
ちょっと疑わしいから明日また教会に行ってみるか。
翌日、教会にはお触れが出されていた。
その内容は、転生賢者の出現と神の木の運用方針の変更を告げるものだった。
「カノイ様、転生賢者を名乗ったんですか?」
「え!?あ!うん!それが一番通じると思って!」
「なかなかに罰当たりだな~。まぁでも今回は仕方がないか!」
「う、うん!しょうがないしょうがない!」
「さて、では要件は済みましたし、あとは遊んで帰りましょうか?」
「俺この辺のモンスター見て見たーい!」
「ははは!村と地続きだしそんなに変わらないと思うぞ?」
「まぁ見るだけ見てみましょうか。それが終わったらショッピングでもしましょうか。」
うーん、本当にただの旅行になったな。
まぁ、問題は解決したし、いいか!
カノイ・マークガーフ、18歳、後出しじゃんけんで世界を変えた秋の出来事である。
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