第68話:決意も新たに世界へ
世界開拓記。
転生賢者達が脈々と受け継いできた歴史の綴られた本。
まるで日記のようなそれは、10年に一度、世界に変化が訪れた時に何かを書き残すものの様だった。
この本を読むのは、正直気が進まない。
だって転生賢者なんて大層なものじゃない。
何もできることもない。
能力だって使うのが怖い。
正直、こんな国を、世界を作ってしまえるような人には、私はなれない。
それでも、私の猫をも殺す好奇心はこの本を読んでみろと告げていた。
気が進まない……。
あの人から受け取ってしまったことを後悔するばかりだ。
あの人、春野さんは何を思ってこの世界で生きていたのだろう。
国王妃なんて言う大層な地位について、責任に潰されそうになることはなかったのだろうか?
そういった思いもすべてこの中に綴られているのだろうか?
「………………。」
私はそっと1ページ目を開いた。
「…………はは!」
読んだ感想を言おう。
清々しい思いだ!
ここに綴られているのは思いやりでしかなかった。
誰も転生賢者になることを強要することはなく、ただただ生活の知恵や励ましの言葉、元気づけようとする気遣いがめいっぱい詰まっていた。
転生賢者の誰も彼もが、この世界が好きで、この世界が良いほうに動くことだけを願って行動していた。
こんなにやさしい本があっていいのか。
いや、存在しているんだ。確かに。
そして存在していたんだ。彼らという偉大な、いや、一生懸命な人間が。
「よし、やってやろうじゃんか。」
私は世界を変えることにした。
転生賢者として?いや、違う、これは"吉井一人"の単なる我儘だ。
こんなに優しい人達が、こんなに素敵な人達が作った世界が壊れるなんて許せない!
そんな単なる我儘だ。
だから、これから行うことはすべて"吉井一人"の仕業だ。
「とりあえず、王国の問題からだな。」
変装はどうしようか?
まぁ被り物でもすれば大丈夫か!
名前は?そのままカズヒトでいいか!
よし!やるか!
「国王閣下!」
「な、何事だ!お前は!?」
「転生賢者とだけ言っておこう!この国は今危機的状況にある!」
「なんだと?」
「モンスターの襲撃だ。」
「なに!?しかしここ数十年はモンスターの襲撃など。」
「あと数年もすれば飛竜の卵が孵る。」
「なんと!それは誠か!?」
「誠だ!だからこそ、軍事力に力を入れるべきだ!」
「き、貴様が、いや、あなたが転生賢者だという証拠は!?」
「吉井一人。私の名だ。そしてこの本……。」
「それは……。」
「貴方の妻から継いだものだ。わかるだろう?転生賢者の言うことは。」
「……そうか、妻が。ついに見つけたんだな。……あぁ、絶対だ。」
「そうだ。そういうわけだから、まぁよろしく。」
「ま、待ってくれ!転生賢者ならばナンバー教に!」
「嫌だな~そういうのはなしで!」
「は?」
「私は自由に生きる!では!」
「お、お待ちください!」
「待たないよ~!」
よし!これで数年は安全だな!
ちなみに飛竜の卵が孵るのは本当。
しばらくというか数年したら飛竜の群れは王国に向かって餌を求めて飛んでくるだろう。
だが迎え撃つ戦力は今の王国にはない!
ということで今回のリクエストだ。
しかし、今回は春野さんのおかげで何とかなったが、今後はどうやって転生賢者である証明をしようか……。
まぁその時考えるか!
カノイ・マークガーフ、16歳、世界を変え始めた秋の出来事である。
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