第67話:受け継がれるもの
王都へ旅行に来た。
貴族しか入れないという場所に行ってみたくて、皆とは別れて真っ白な街並みの路地に入る。
こんな場所もあるのか、と思いながらふらふらしているとかなりご高齢のご婦人に出会った。
「あらあら!あなた!まるでスヴェン様とシリウス様を混ぜたようなあなた!」
「え?」
スヴェンは父、シリウスは母の旧名だ。
では、それを知っているこの人はいったい?
心なしか喋り方が母に似ているな、なんて思いつつ彼女の話を聞いてみる。
「あの、カノイと申します。父と母のお知合いですか?」
「あぁ!やっと出会えた!まさかあなたがそうなのね?これもきっと運命ね!」
少女のように喜ぶその人はこちらの話は聞こえていないようだった。
耳が遠いのか?と思い大きな声で話しかけてみる。
「あの!私はスヴェンとシリウスの息子のカノイです!」
「あらあらまあまあ!そうなのね!家にいらっしゃいな!渡したいものがあるの!」
「え!?うわ!」
そう言って引っ張る力は思っていたよりも強い。
私は引っ張られるようにして町の一番大きな建物へと連れ込まれた。
「あ、あの、いったい何を……。」
「そうそう!シリウス様はね!最初はスヴェン様をお嫁に貰おうとしていたのよ?今じゃすっかり乙女だけれどね?」
そうして連れ込まれた屋敷の中、ご老人は父と母の昔話を永遠と語ってくれる。
正直話し方が美味いから聞いていて楽しいが、なんやかんやと夕方になってしまっていた。
「あの、そろそろ。」
「あとね!私の旦那様は現王なのだけれど、あなたを大層気にかけていてね?」
「あの!そろそろ!」
「……あぁ!ごめんなさいね!話過ぎちゃった!でも久しぶりにあの子達と話しているみたいで楽しかったわ!」
「それならよかった!では私はこのあたりで!」
「えぇ!お見送りをさせて!さぁ行きましょう!」
「あぁ!お待ちになって!あなたにこれを渡さないといけないの!」
「分厚い本?いえ、そんな高価なものを!もらえませんよ!」
「いいえ、あなたに渡さないといけないの。これは、私の人生最後の役目だから。」
「え?」
先ほどまでハイテンションだった彼女が急に真面目な顔になる。
薄く微笑んで、どこか寂しそうに、そして誇らしげに、彼女は私にその本を渡した。
「…………じゃあね!私の次の人!あなたの人生が素晴らしいものになりますように!」
「え!?ちょっと!」
「私はね!私は春野若葉!あなたと同じものよ!」
「ちょっとまっ!うん!?」
"あなたと同じもの"!?そう思っている間に彼女はどこかへと去っていった。
その翌日、国を挙げての葬儀が行われた。
亡くなったのは国王妃、かなりのご高齢だったらしい。
その顔は、何かをやり遂げたような清々しいものだったとか。
私も葬列に参加することとなった。
顔を覗き込むと、昨日の少女のような笑顔が蘇る。
あぁ、勝手にやり遂げた気になって。
私はそんなものじゃないのに。
そんなものにはなれないのに。
受け継いだ本、その名前は、
「……世界開拓記……。」
カノイ・マークガーフ、16歳、私の世界が動き出した夏の出来事である。
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