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第30話:出会いと別れは突然だ

結論から言おう。

めっちゃ仲良くなった。

さすがスパイ……取り入るのがうまいぜ……。

「マット!マット!王都のお話教えてー!」

「教えてー!」

「え?はは、いいよ、今日は何の話をしようか。」

情報を引き出すために話を聞いていたが、彼らの話す王都の話はとっても魅力的なものだった。

例えば観光地にある大きな噴水だとか、例えば馬車以外の乗り物だとか、例えば魔法や剣を習う学校の話だとかとか。

とにかく文明レベルの違う話というのは面白い。

特に学校については私の元居た世界の小学校を彷彿とさせる。

身分の差に関係なく、7歳になった子供達全員に安定した教育を提供する姿勢はかなり好感が持てる。

マットやケビン、ナンシーはこの学校を出た幼馴染らしい。

そういった点でも彼の他国のスパイではなく自国のスパイである可能性を高めている気がした。

もちろん、自国に入り込んだスパイの可能性もあるが、夜はしっかり寝ているし、昼は私達子供に掛かり切りとなっていたので情報を抜く気がそもそもないように感じる。

そんなこんなで私は彼らを信頼していくこととなった。

そして冬が明けた。

春の訪れ、生誕祭の時期だ。

私は彼らを生誕祭に招待することにした。

「え、カノイのお誕生日会?いいね。」

「フロージのお誕生日会の時はご馳走を食べたけど、カノイのお誕生日会の時は何をするの?」

「鬼ごっこ?本気で?それは……楽しそうだな!」

こうして今年の生誕祭には現役の冒険者達が参加することとなった。いえい!


「カノイ様ー!」

「お誕生日おめでとうございます!カノイ様!」

「カノイ様、そちらの方々は?」

「王都から来た冒険者の方々だよ!」

「だよー!」

広場に集まればいつものメンバーと今年から参加の新メンバー、トムとグルートがいた。

トムは体弱いらしく、しばらくは不参加だったのだが、今年からは参加するようだ。

「お初にお目にかかります。トムです。兄共々よろしくお願いいたします。」

グルートは大人達の仕事場に連れていかれることが多くて遭遇する機会が少なかったが、こちらは大人しい性格のようだ。

「お初にお目にかかります。グルートです。……。」

もう言うことはないといわんばかりに大きな目でこちらをじっと見つめてくる。

かわいいな、こいつら。

「お初にお目にかかります。カノイ・マークガーフです。今日は私の生誕祭に参加してくれてありがとう。」

かわいい弟分が増えたところで、こちらの冒険者についての紹介をする。

「こっちがケビンでこっちがナンシー!そしてこっちがマットだよ!」

「へー!王都ってどのくらい遠いの?」

「すげー!本物の冒険者だ!」

物珍しさに皆の視線はケビン達に集まる。

村人の中には懐疑的な目を向けている人もいる。

うん、正直正しい判断だと思う。

警戒心は持っていてしかるべきだ。

「彼らは隣国への調査に向かうために派遣されていた正規の冒険者だ。安心していい。」

そう、彼らを信用する一番の理由はこれだ。

国から正式に派遣されてきた冒険者。

要するにある種の要人だ。

信用に値するという判断は、そのことを知ってからだった。

彼らなら問題はないだろう。

そうして私達は仲良くなった。

「おっし!鬼ごっこするって話だったよな!」

「鬼ごっこじゃないよ?隠れ鬼だよ!」

「隠れ鬼?」

「あぁ、あの隠れている奴を見つけ出して追い掛け回す奴。」

「えぇ?ちょっと怖いわね。」

「みんなー!隠れ鬼始まるよー!」

「「「「「おー!」」」」」

ノリのいい奴らである。

ということで大人達も冒険者も巻き込んだ本気の隠れ鬼は開始されるのであった。

「え!?ちょっと!全然見つかんないんだけど!」

「冒険者より足早い農民ってどうなってるんだよ!」

「お、追いつけない!」

おや?結構村の人たちって強いのかもしれない。


「はー疲れた!」

「久しぶりに本気で走ったわ!」

「村人がまさかあそこまでやるとは……。家の壁を登った時は何事かと思ったぞ!」

「へへへ、自慢の村人です。」

「カノイはいつもこんな人たちに囲まれているんだな~。」

「これなら、学校に行かなくても強くなれるのかもね。」

「だな。」

「……。」

そう言われてふと思う。

そういえばこの村には教育施設がない。

読み書きができる子供は私とフロージ、ヴァイスとエイルくらいだ。

魔法も魔導書から習った。

剣は……使ったことはないが斧や弓の使い方なら見て覚えろと言われた。

これでは王都の教育水準から遅れてしまうのでは?

例えば子供達の誰かが王都に行きたいといったとき、無礼罪で打ち首獄門になるのでは?

正直そんなものがあるのかわからんが、この時代ならありそうだ。

「よし!学校を作ろう!」

「「「え?」」」

「ありがとう!ケビン!ナンシー!マット!私、目標ができたよ!」

そうだ、ないなら作ればいい。

マナーや戦い方、一般教養や生活の知恵を授ける教育施設!

そうすれば、なりたいものになれる!やりたいことをやれる!

「そ、そうか、よかったなカノイ!」

「学校か~いいね!」

「ふふ、いつか先生として呼ばれたりしてな。」

「うん!もしまた訪ねてくることがあったら、先生として登壇してよ!冒険者としての生き方!」

こうして私に大きな目標をくれた冒険者達は旅立っていった。

彼らが見えなくなるまで、私達は大きく手を振って見送るのだった。

カノイ・マークガーフ、7歳、今世で初めての大きな目標が生まれた春の出来事である。

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