第242話:転生者カノイの一生
あぁ、もう体を起こすこともできない。
けれど、かろうじて目と口は開ける。
ありがとう、神様。
最期に家族と一緒にいられる時間をくれて。
ありがとう、神様。
伝える力を奪わないでいてくれて。
「ノア、レア、マナ、ウル、お前達は希望だ。いつか、もっと大きくなったら、自分の領地をしっかり治めるんだぞ?」
「うん!」
「任せて!」
「絶対この村より繁栄させてやる!」
「おばあ様みたいになるぞ!」
「レオ、マオ、リノ、アル、4人を支えてやってくれ。これはお前達にしか頼めないことだから。」
「もちろん!」
「あったり前だよ!」
「任せとけ!」
「絶対に支え続ける!」
「皆、私の孫として生まれてきてくれてありがとう。」
「シェリル、チェリル、今後はお前達がマークガーフ家の長だ。2人で仲良く、支え合いながらこの村を納めてくれ。」
「うん!カノイママはゆっくり休んで!」
「任せて!カノイママに心配かけないよう頑張る!」
「リイン、走り回るお前をみて何時も元気を貰っていたよ。ありがとう。」
「カノイママ!俺達を産んでくれてありかとう!」
「グロウ、言っただろ?60まで生きるって。約束、守れてよかった。」
「うん……カノイママ、約束、守ってくれてありがとう。」
「ルーナ、お前のお陰でルーが丸くなったんだぞ?すごいぞ。」
「ママ……それは、ママのお陰だぞ。」
「皆、私の子として産まれてきてくれてありがとう。」
「フロージ、皆のこと、頼んだぞ。」
「うん!任せてお兄ちゃん!」
「ヘディン、元気に、幸せに生きてくれ。」
「うん!元気いっぱいいだよ!」
「二人とも、私の弟として産まれてきてくれてありがとう。」
「リボル、はじめてあった時からずっとお前の真っ直ぐな性格に救われてきた。」
「……そうか。」
「ヴァイス、お前が私を頼ってくれたから私は強くなれた。」
「……はい、僕もです。」
「2人とも、一生一緒に居てくれてありがとう。大好きだ。」
「俺も、大好きだぞ。」
「僕も、愛しています。」
「ルー。」
「なんだ、我が伴侶よ。」
「ふふ、後は任せたぞ?」
「勿論だ。」
「ありがとう。大好きだ。」
「愛していたさ。初めから。」
「あぁ、本当に……いい人生だった。」
後悔なんてないなんて言えないほどに素晴らしい人生だった。
苦難も困難もあったけれど幸せに満ち溢れていた。
愛する人達とともに歩んだ日々を、先に旅立っていった人達を、忘れはしない。
いつか来るとわかっている日だったけれど、今日じゃなくてもいいじゃないかとも思えてしまって、
それでも見送ってくれる人達がいるこの日を私は最後に愛する。
人生最後の今日という日を、私はこの世で一番愛するのだ。
カノイ・マークガーフ、60歳、人生という長旅に幕を閉じた春の出来事だ。