第238話:変化は痛みを伴うが変わらなければいけない時もある
揺れる小麦畑に平和を感じる。
「これがあの帝国なんだから、変わったもんだよね~。」
「お前が変えたんだろ?」
「まぁそうだけど?いいだろ?平和で。」
そんなこんなで今回は帝国にやっていた。
今の帝国は前代の皇帝の大幅な改革により自然豊かで穏やかな国となっている。
「最近は貿易で帝国産の野菜をよく見るようになりましたしね。」
「うん、武器を鍬に持ち替えたなんて言われているからな。」
「平和なことだ。」
今回もリボルとヴァイスとルーが一緒だ。
牧歌的な景色を眺めながら道すがら買ったパンをかじる。
固めのパン生地は噛むだけで小麦の味がよく出ていて旨い。
「スープが欲しいな。」
「直売所で野菜でも買ってスープにしましょうか?」
「ベーコンも欲しいな~。」
「お?牧場が見えるぞ?」
「よし!寄ろう!」
「いらっしゃいませ~。この辺にお客さんなんて珍しいね~。」
「そんなに珍しいの?」
「冒険者くらいしか来ないよ~。なんせ裏にはあの雷の森があるからね~。」
「あぁ……うん、あるね。」
そうか、そういう弊害もあるのか。
「別に空でバチバチしているだけで何の被害もないんだけどね~。帝国民は皆怖がってこっち側にはあんまり来ないのさ。」
「へ~。じゃああなたは何でここに?」
「旅人さんには言いにくいんだけどね。その昔にね~隣国と戦争する計画があったらしくってね~。開拓村としてここいらに住み着いた人々、それがあたし達の先祖さ。」
「へ~。戦争、無くてよかった。」
「今になってみればね~。こんな風にのんびり平和に暮らしていられるようになったってんだから。神託様様だよ。」
「へ~。……うん?」
「そういえば豊穣の神託の伝説を知っているかい?前皇帝を夢枕に立った神様が不戦と豊穣の知識を授けたっていう話だよ!」
「うん?う、うん。」
「あたしらみたいな農耕で生計を立てている人間は皆空に向かって祈るのさ。「豊穣のお知恵をお貸しください」ってな!」
「そ、そうなんだ……。」
「実際に3つ隣の畑のじっちゃんはお知恵を授かったって言って隣国までもろこしを採りに行ったくらいさ!まぁその後ポップコーン産業で大儲けしたってんだから馬鹿にできないよ~?」
「まじか。」
「あんたも料理するときにでも祈ってみな。ご神託を授かるかもよ?」
「あ、はい、やってみます。」
「あの皇帝!なに人のこと話してんだ!」
「いや~勝手に出回った噂かもしれんぞ?」
「急に戦争戦争言ってた人が次の日に種まき始めたらそりゃあ何らかの力が働いたと思いますよ。」
「また神になったのか。」
「なったらしいよ?ご神託だってさ。」
ポトフを食べながら愚痴を吐く。
しかし、転生賢者としての名前が伝わっていない辺り、あの皇帝は本当に黙っていたのかもしれない。
「……。」
「どうした?」
「いや、この世界って本当に悪い人っていないんだなって思って。」
前世では本の知識だが生まれながらの悪、といえるものが存在した。
しかし、この世界ではどんなものにも因果関係がある。
なんともわかりやすい世界だ。
「感情とかは複雑ですけどね。」
「理解に苦しむやつもいるにはいるしな。」
「そういった部類の者は処刑人がどうにかしていたんだろう。」
「そっかぁ……。」
そういえば、ジェイルっていっつも仕事してたな~。
思っていた以上にお世話になっていたんだな。
「あの世であったらお礼言おう。」
「気が早いぞ!」
「そうですよ!まだ1年は粘れますよ!」
「お、おう、そうだな。」
60まであと1年弱。
長生きできればもうちょっとは余裕があるはずだ。
その前までにひ孫が見たいな~。
「……お前達の方が先に死ぬ。だからこそ、この時間は貴重だ。」
「ルー……。」
そうだった。
私達はルーを残して死んでしまうのだ。
「まぁでもルーがいれば今後も安心だけどな。」
「そうですね。何年生きようと、看取ってもらえる安心感はありますね。」
「確かに!」
「お前達、あんまり長生きすると看取らんぞ。」
「「「え~。」」」
くすくすと笑いながらルーを見る。
この狼男は絶対に私達を看取るのだろう。
その信頼が私たち全員の中にあった。
「さて!食べ終わったら改めて帝国を目指すか!」
久しぶりに訪れた帝国は活気にあふれていた。
人々は笑顔で商売に励み、朝から酒を酌み交わし、警備兵は泥棒を追いかけて走り回っている。
どこからどう見ても平和な国だ。
「本当に戦争ばっかしてた国かってくらい平和だな。」
「神の木も見に行きましょうか。前は死にかけでしたが。」
「言い方が……まぁそうだけど。」
「神の木が死にかけ?かなり無茶をしていたのだな。」
そこからは観光しながらこの国を見て回った。
美味しい加工肉の数々をつまみながらお酒を飲んだり、元気になった神の木を見に行ったり、中に入れるようになったお城を観光したりと国中の娯楽を楽しんだ。
夜になると街はまた趣を変えて、おしゃれなデザートやおつまみを提供するバーが数多く立ち並んでいる通りができた。
ちょっと甘いものをつまみつつ酔いを醒ましながら馬車に戻る。
「今日はここで泊まるか~。」
「馬車で寝るのは久しぶりですね。」
「もうこの年じゃ体がバッキバキになるぞ多分。」
「見張りはやっておく。ゆっくり眠るがいい。」
「何言ってるんだ。街の中だぞ?危険なんてないんだからお前も寝るんだよ!」
「そうだそうだ!」
「徹夜は体に毒ですよ?」
「む、そうか。わかった。」
そうして4人で川の字……川の字?になりながら眠りについた。
次の日。
「よし!お土産も買ったし帰るか!」
「ワインも持って帰ろうぜ!」
「食べ物ばっかりだったので木彫りの置物も何点かかっておきました。」
「「ナイス~!」」
「ふむ、では出発するか。」
「おう!じゃあな帝国!平和に暮らせよ!」
カノイ・マークガーフ、59歳、最後に帝国のその後を見届けた春の出来事である。
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