第230話:偉大なる作家には敬意を示そう
今日はファンの誕生日。
なんと彼は61歳まで生き延びたのだ。
これは奇跡といっても差し支えないだろう。
なんせ、この世界の最高寿命が60だったのだから。
私にも希望が見えてきた!
ということで、お祝いに来たわけだが、部屋から何故か出てこない。
なんで?
え、死んでる?
昨日まであんなに元気に……いや、数日見かけてないな。
……勝手に入るか。
「お~い、ファン!生きてるか?」
「やったわ!」
「え?」
「勝った!」
「え。」
「あ!カノイ様!あたしは勝ったのよ!」
「お、おう、そうだな。61歳おめでとう。」
「何言ってるのよそんなことどうでもいいわ!」
「え、そんなこと?」
「そもそもこれが完成するまで死ねないわよ!」
「え?本当に何?」
「これよこれ!『マークガーフ村の日常』!」
「『マークガーフ村の日常』?」
「あたしとカノイ様の出会いから今日までのこと全部を記した自伝よ!」
「出会った時って50年以上あるぞ!?」
「そうよ!だから何冊かに分かれてて……あぁもういいわ!カノイ様!この部屋にある本全部売りに出しちゃって!」
「は!?」
「あたしが書いてきた絵本から自伝集まで色々あるわ!全部売ってあたしの名を世界中にとどろかせるのよ!」
「そんな、せっかく61まで生きたんだからゆっくり書いていけばいいだろ……。」
「何言ってるのよ!それ、あたしの遺作よ?」
「……は!?」
「もう思い残すことは何にもないわ!あと数十年!数百年もすればあたしとマークガーフ村の名は轟き!この生活が世界中のスタンダードになるわ!」
「お前、遺作ってお前……!」
「常々思っていたわ……あたしの生きてきた人生ってきっと誰もがうらやむものよ。」
「……。」
「だけど、人々はそれを知らずに生きて、死んでいくわ。」
「……そうか。」
「けどね!カノイ様は人々の識字率を上げてくれた!知識欲を刺激してくれた!本を読むことを!当たり前にしてくれた!」
「……そう、かな?」
「だからね!あたし、絶対にこの幸せな人生を本にするって決めてたの!寿命なんかに負けたりしないってね!」
「ファン……。」
「はぁ!これで安心して死ねるわ!」
「安心、して。」
「誰にも任せられない。あたしの仕事はもう終わったわ!これで安心して死ねる!」
「そっか……。」
「じゃあね!カノイ様!グルート達にも本が完成したこと!伝えてくる!」
その数日後、ファンは亡くなった。
最後まで騒がしく、笑顔の絶えない奴だったと、皆がそう笑って語る。
我が村の偉大なる作家は安心して眠りについた。
彼の著書は遠い未来にまで伝わる名著となったが、それはまた別のお話。
カノイ・マークガーフ、57歳、誇り高い作家に敬意を称した春の出来事である。
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