第228話:絵は描けば描くほど上手くなるらしい
芸術の秋、ということでちょっくら絵日記でも書こうと思いいたった。
とりあえず昔の記憶を思い出しながら絵を描いていく。
初めて外に出たこと。
ウェアウルフに襲われたこと。
弟が産まれたこと。
能力に目覚めたこと。
アイスを食べたこと。
神の木を見たこと。
お祭りを作ったこと。
冒険者に出会ったこと。
狩りに出かけたこと。
海に行ったこと。
ウェアウルフと家族になったこと。
旅に出たこと。
突然告白されたこと。
結婚式をしたこと。
子供が生まれたこと。
国中を巡ったこと。
皆で踊ったこと。
運動会をしたこと。
移民が増えたこと。
村が大きくなったこと。
子供が結婚したこと。
王様になったこと。
定年退職したこと。
……思えばいろいろなことがあったな。
長いような、短いような、いや、短いな!
こんなに楽しい人生ならまだまだ続いてくれてもいいじゃないか!
なんで寿命は60年しかないんだ!
教えて神様!
って神様ポンコツだったな……。
はぁ……永遠にあこがれるわけではないが、もっと生きていたかったという思いは確かにある。
いや、今死ぬわけではないんだけど。
とにかく!もっと長生きしたい!
目指せ100歳!
……いや、無理か。
あんまり無茶は言ってはいけない。
現在の人間の寿命は60年なのだ。
そこまで生きていられれば十分なのだ。
「あ!カノイおばあちゃん絵描いてる!」
「すごいいっぱい描いてる!」
「段々上手くなってる!」
「最後の方はプロ並みだな。」
「あれ?レオ、マオ、リノ、アル、来たのか。」
「来たのか、じゃないよ!」
「授業の時間になっても来ないから来たんだよ!」
「ばあちゃんお絵描きしてたのか~。」
「これは……絵日記か?」
「ごめんごめん。そうだよ。絵日記を描いてたんだ。」
孫達はわらわらと絵日記に集まってくる。
「あ!カノイおばあちゃんが王様だった時の絵だ!」
「こっちは?ちっちゃいおじいちゃんおばあちゃん?」
「結婚式の絵もある!」
「ウェアウルフ達だ!」
興味深そうに読まれるとちょっと照れる。
「おばあちゃん、すっごくいっぱい生きたんだね。」
「え?」
「本ができちゃいそう!」
「まだ全部読めてないからまとめるなよ!」
「この絵欲しい!」
「そっか……そうだな、いっぱい生きたよ。」
もう満足といえるくらいには、いっぱい生きてきたな。
思い残すことがないといえば嘘になるが、それでも私は確かに満足している。
こうして可愛い孫達に囲まれて、過去の思い出に浸っていられる。
とっても贅沢な人生だ。
「さて、授業だったな。勉強に戻ろうか。」
「えー!絵日記もっと見たい!」
「全部見るの!」
「最後まで読ませろー!」
「これも勉強だ!」
「う~ん、しょうがないなぁ。じゃあ、この村の、私の歴史を勉強しようか。」
カノイ・マークガーフ、56歳、孫達に昔話を語りながら自分の人生を振り返る秋の出来事である。
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