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第217話:話さなくても仲がいいといえる人もいる

終活。

それは死ぬ時に後悔しないために必要なこと。

「……で、わざわざ牧場まで来たの?」

「うわ!本当にビューって出るんだな!これ!」

「死ぬ前にやり残したことが乳しぼり?」

「うん、そういえばやったことなかったなって思って。」

「いや、いいんだけど。なんかもっとこう、先進的だったり奇抜だったりすることかと思ってた。」

「トム、私のことをなんだと思っているんだ?」

「僕達のヒーローでリーダー。なんか新しいことする人?」

「お、おう、改めて、というか初めて聞いたけどトム的にも私ってヒーローなんだ。」

「当たり前でしょ?田舎の村で唯一都会に連れてってくれたり、遠い土地にふらっと旅に出てお土産を買ってきてくれるなんて普通にヒーローだよ。」

「あ~、なるほど。そう聞くとなんかそれっぽい……か?」

「それに……多分、カノイ様がいなかったら、ファンも僕も好きなことできなかったし。」

「え?そうかな?」

「そうだよ。ファンはものを書くのが好きだから、今の仕事が天職だと思うし、僕は僕で、改めて牧場を継ぎたいなって思えたし。」

「え、なんかした記憶がない。」

「真面目な顔で言わないでよ。確かに直接何かしてもらったわけじゃないよ?」

「じゃあ間接的になんかしたっけ?」

「カノイ様が開発したんじゃないか。アイスクリーム。」

「あ、あ~!」

「あれがあったかあら牧場や販路を拡大できて、そういう運営って楽しいなって思ったんだよ。」

「なるほど?」

「そもそもちっぽけな村の牧場が広大な土地をもらって他の町にまで輸出したりするなんて夢見せてもらったらやってみたくなっちゃうじゃん。」

「む、ちっぽけとはなんだ。」

「あはは、もうちっぽけじゃないけどね。というか何なら村でもないんじゃない?規模的に。」

「確かにな~。もう100人村とか言っている規模じゃないんだよな~領地的に。」

「まぁ、マークガーフ村、嫌いじゃないけどね。」

「私も好きだよ。だから、ここはこのままでいいんだよ。他の区画も3丁目だの4丁目だの名乗り始めたし。」

「何それダサい。」

「言うなよ~。結構気に入っているんだよ皆?」

「っふふ、カノイ様とこんなにお話したの、初めてかも。」

「そうだな~、50年近く一緒にいるのにな。」

「僕はいつもお兄ちゃんの世話をしていたからね。あと世代的にフロージの方が近かった。」

「世代は一緒だろ~?でもそうだな。年はフロージとシュバルツの方が近いもんな。」

「カノイ様はいっつもリボルさんとヴァイスさんを連れまわしてたから。エイルとジェイルとお兄ちゃんがうらやましそうに見てたんだよ?」

「お、おう、そうか。なんというか、とっつきづらかった?」

「全然!なんやかんやでいっぱい遊んでもらったもん!コミュニケーションがほとんど遊びだっただけ。」

「それも、そうだった気がする。」

「よかったね、カノイ様。」

「え?」

「死ぬ時に「そういえばトムとほとんど話してないな」ってならなくて済むよ。」

「っふは!それはそうだな!よし!折角だからもっとおしゃべりするか!」

「僕仕事があるからカノイ様手伝いながら話してよ!」

「よし!任せろ!あ!やっぱちょっと怖いかも!餌運びとかのモンスターと距離のある感じで頼む!」

「あはははは!」

こうして私の終活は順調に進んでいくのであった。

カノイ・マークガーフ、53歳、やり残したことを考えるのも難しくなってきたほど充実した冬の出来事である。

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