第215話:後悔のない人生を
ある夏の日、エイルとジェイルと最後に話した日の出来事。
「エイル、ジェイル、大丈夫か?」
「あ、カノイ様だ。」
「うーん、もう駄目かもな。」
「そんなこと言うなよ~。……本当に駄目そう?」
「うん、今回はマジだね。」
「あ~60過ぎてからの約束守れそうにないな~。」
「そんなこと言っている場合かよ。いつ死ぬのかもわからん状態だろう?」
「まぁね。」
「まぁな。」
「おいおい……。」
「最期だから言っておこうかな。」
「おい、エイル。」
「僕もジェイルもね~カノイ様のこと大好きだったんだよ。」
「おう、私も大好きだぞ。」
「そうじゃなくてさ、愛してたって方なのさ。」
「…………え!?」
「あはは~。カノイ様、らしくないほど驚いているね。」
「そりゃそうだろ。あの鈍感なカノイ様だぞ。というかエイル、墓場まで持っていくって決めてただろ。」
「いいじゃない。最期くらい。わがまま言うなら今しかないよ?」
くすくすと笑いながらエイルは言う。
「……いつから?」
「ん~?初めて会った時からって言ったら信じる?」
「嘘だろ!?」
「本当なんだよな~一目惚れってやつ?」
「そのあと一緒に生活していくうちに大好きになっていったって感じ。」
「な、なんで……。」
「なんで言わなかったのか、だったら負担になりたくなかったから、だな。ただでさえ3人養っているのにこれ以上迷惑はかけたくなかったんだよ。」
「なんで今言ったのか、って意味ならさっきも言ったけど最後ぐらいわがまま言ってもいいかなって思ったんだよね。」
「……。」
やるせないような、申し訳ないような、なんとも言えない気持ちが心に宿る。
「あ、困らせたいわけじゃないよ?ただ、最期くらい、僕達のカノイ様でいてほしいなってだけ。」
「あーあ、もう一生カノイ様の心にしこりを残すぞ?これは。」
「確かになぁ……わかったよ。何でも言うこと聞いてやる!」
「いいの?」
「いいのか?」
「おう!二言はないよ!」
「そっか。……じゃあさ、手繋いでよ。」
「え。」
「お、いいな。俺も頼むわ。」
「そんなことでいいのか?」
「そんなこともできなかった可哀そうな僕達のためにさ~一晩中一緒にいてよ。」
「今夜はずっと手、繋いでおいてくれよ。」
「……わかったよ。しょうがないなぁ。」
そうして私は二人のベッドとベッドの間に座って手を繋いだまま眠った。
朝が来ると二人は幸せそうな顔で静かに息を引き取っていた。
繋いだ手はまだ少し暖かかった。
カノイ・マークガーフ、53歳、久しぶりに涙が止まらなくなった夏の出来事である。