第206話:思い出話はいつも輝いて見えるもの
死が足音を立てて近づいてくる。
しかし、不思議と恐怖はない。
「……始めるか~終活。」
そろそろ始めておかないといずれ後悔しそうなのでとりあえず始めてみよう。うん。
まずは何をしようかな?
あ、そうだ。
「ファン!」
「なぁにぃ?」
「この村のことを残す資料を作ってくれないか?例えば暮らしぶりとか、イベントとか。」
歴史の1ページとしてこの生活を残しておきたい。
そういうことならとりあえずファンに頼めば安心だ。
「……。」
「え?どうした?」
「いや、驚いた。あたしもそうしようと思って日記を見返してたのよ。」
「え、そうなの?」
そういったファンの周りには大量の本があった。
「あ!これ、初めて会った時の話か?」
「そうよ、紙があんまりなかったから短めだけどね。読んでれば大体のことは思い出せるわ。」
「懐かしいな~。あ、誕生祭に鬼ごっこを始めた時のことも書いてある!」
「こういうのも大切な思い出よね!」
「お!これは結婚式のことか!」
「こっちにはカノイ様が旅行に行ってたことも書いてあるわよ!」
本当に、いろいろとあったな~。
「で?これを一つの本にまとめるのか?」
「そうよ。超大作になるわ。『マークガーフ村の住人の一生』!」
にこにこと笑うファン。
でも少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうにも見える。
「ファンってさ。死ぬのは怖い?」
「何よ急に!怖いわよ!どこに行くのかわかんないのよ?地獄、天国、この世をさ迷う可能性もある!」
「そうだな~創作の世界ではそうなってるよな。」
「何よ、一回死んだことがあるような言い方しちゃって。」
ぎくっ!
「そ、そんなことはないぞ?ただ転生賢者なんてものがいるんだから、来世ってものもあるのかもな~って。」
「……確かにね。来世があるなら、前にも言ってたけど王族になりたいわ。」
「前も言ってたけど、王族なんてそんな自由なものじゃないぞ?」
「知ってるわ。でもね、責任がある仕事には、それだけの知識が伴っているわ。あたしはそれが学んでみたいのよ。」
「ファン……。」
辛い道だとわかっていても学びを得たいか。
中々の探求者だな。
「よし!私が知っていることなら何でも教えるぞ!」
「え?」
「王様業の何たるかからマナー、礼儀、お城のメイドたちのうわさ話まで、何でも教えてやる!」
「え!ありがとう!知りたい知りたい!」
その後も思い出話と王様についての話で1日つぶれて、その後もファンが質問攻めにしてきたのでこの時間は数日間に及んだ。
うん、まぁ、有意義ではあったかな。
カノイ・マークガーフ、51歳、思い出話に花を咲かせた春の出来事である。
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