第201話:永遠の命の価値観は持つ人によるところ
さて、やってまいりました皇国!(2度目)
今回も色々あって夜の潜入だ。
「あ、先によっておきたい場所がある。」
「おいおい、不殺がどうとか言ってたのはお前だろう?とっとと行ってこいな?」
「僕らは町がどうなっているか見てきますよ?」
「獲物がいないか見てくる。」
「関係者以外不殺な!」
……さて、向かいましたるは皇国の教会。
「神官殿~?いらっしゃいますか~?」
「おぉ、観光客とは珍しい。む、あなたの特徴。まさかあなたが解放の旅人さんでしょうか?」
「え、何それ知らん。」
「おぉ、これは失礼。もしや"炉"を破壊してくださった旅人さんではございませんか?」
「あ、それは私です。」
「そうですか、そうですか。この教会のものとして、この国のものとしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。」
「え?私って恨まれていないの?」
「恨む者もいたでしょう。しかしほとんど者が新たな技術への探求に目を輝かせておりました。今の皇后がたつまでは……。」
「皇后に何かあったのか?」
「皇后の母君は電気を使用した医療器具により生きながらえておりました。しかし、件の事件で供給を断たれた際に命を落としたとか。」
「あぁ、なるほど。」
「若者たちは皆、新たな技術の開発に取り組みたいのに、戦争に駆り出されようとしております。」
「そうか、好きなことさせてもらえないのか。」
「解放の旅人さん、どうか若者たちも解放してください。そして、新たに発展する世界を、我々に、父に見せてやってください。」
そういって若い神官は神の木を見上げていた。
神の木は元気に脈々と波打っている。
「いや気持ち悪いな。」
「え?」
「いやなんでもない。任せろ!今回もそのために来たんだ。」
こうして私は教会をあとにした。
神官は深々と頭を下げていた。
「で、これが武具だったものってわけ。」
「速い!」
「一瞬でしたね!」
「うむ、丁寧な仕事だ。」
そこには品質のいい鉄と元気な森の姿が!
「まさか森になるとは思わんかった。」
「丁寧に間隔を置いて植え始めたときは何事かと思ったぞ?」
「鉄もわざわざインゴットにしてましたしね。」
「これはいい農具になるぞ。」
「ルー、お前もう村に染まってんな。まぁよし!あとは皇后だ!」
「皇后?」
「戦争を起こそうとした人ですか?」
「暗殺か?」
「いやいや、う~ん?いや、私の予想が確かなら、確かに暗殺かも。」
「おいおい、お前が手を汚すことはないぜ?」
「そうですよ。カノイ様がわざわざやらなくても、ルーがやります。」
「うむ、任せろ。」
「いや~?今回は私だな。私のやり残しだし。」
「そしてこれが皇后です。」
「「「……。」」」
((おのれ、おのれ転生賢者め!貴様のせいで我が肉体は滅んだ!))
「え、なんですこれ?」
「脳みそ?気持ち悪!」
「ここまでして生き延びるか……。」
「まぁまぁ、皆さん、ある物語では理想の体なんだよ。」
((そうだ!我が肉体は25年と7か月前にそこな転生賢者のせいで滅びた!))
「……なんで転生賢者だと?」
((ふん!あの扉は転生賢者にしか開けられぬ!閉めることはできるがな!))
「なるほど~?だが残念ながらその扉はどっかの扉と入れ替わったんだよ。脆い木の扉とな。」
((そんなわけあるか!戯言もたいがいにしろ!))
「……で、肉体が滅びてもバッテリーくらい積んでたんだろうな。電気が無くなってもあんたは生き延びた。」
((そうだ!緊急の備えだったが、まさか、こんなことになるとはな!))
「まぁこれも転生賢者が作ったんだろうな~。結局あんたは電気の代替品……いや、電気を作ることができなかった。」
((ぐぬぬ……!))
「結果、復讐のために人生を使っちゃったんだ。電気なんて、財力と技術があれば案外簡単にできるのにな。」
((なに!?では取引だ!この技術を使いお前を生き永らえさせよう!大切なものもいいぞ!孤独とは寂しいものだからな!))
「……。」
「カノイ……。」
「カノイ様……。」
「戯言だな。」
「うん、全くその通りだ。いいか皇后!私は死ぬのが怖い!死なれるのも怖い!でもな!世界はそうやって回っているんだ!絶対数を守りながら新たな命の誕生を喜び、死を悲しみ、それでも多くのものを受け継ぎながら、世界は回ってる!」
((そんな!神話の話だ!我々には関係ない!))
「関係ある!お前がいることによって生まれない命がある!お前がいることによって生まれない技術がある!ただそれだけのことがこの世界に大きな影響を与えているんだ!」
((なんだと!?お前は……何を知っている……?))
「なんでもさ。ちょっとした村人の人生から死んだ後のことまでな。」
((それは、まさに……。))
「さて、これで最期だ。……ありがとな。理想を共有しようとしてくれて。」
((……。))
ぶつんっと電源が切れる音がする。
死とはテレビの電源を切るようなものだといった人がいた。
そういえば、死ぬ瞬間もそんな感じだったな~とのんきに考える。
皇后はこの瞬間、死んだ。
私が殺したのだ。
「カノイってさ、転生賢者だったんだな。」
「うん!?」
「そうですね。知りませんでした。」
「うむ、まだ秘密を隠していたとはな。」
「なんでそうなった!?」
「だって否定はしなかっただろ?あの時。」
「あ。」
「あぁ、やっぱりそうだったんですね。」
「わかりやすいな。」
な、なんだってー!?
「うぅ……まさかこんなに簡単にばれるとは……。」
「水臭いぞお前~。」
「そうですよ、もう知った仲でしょうに。」
「そもそもだから何だという話だ。」
「……。」
「カノイ?」
「どうかしましたか?」
「……ふふふ、そっか、ふは!そうだな!なんてことなかった!」
別に教会に突き出されるわけでも差別されるわけでもなかったんだ。
隠しておくだけ無駄だったな!
「さて!帰って仕事を終わらせないとな!」
「うげぇ、忘れてたのに。」
「忘れないでください!旅行に出た分ちゃんとたまってますよ!」
「ううむ、出来れば遠慮したいのだが。」
「だめだめ!皆で帰って皆でやるんだよ!」
あぁ!こいつらが家族で本当に良かった!
カノイ・マークガーフ、49歳、改めて永遠の命なんて必要ないと感じた冬の出来事である。
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