第191話:引継ぎはしめやかに、されど確実に行おう
「ヴェークさん、生きてるか?」
「カノイ君!いらっしゃい!何とかね。げほっげほっ。」
大丈夫じゃなさそう。
さて、今日はヴェークさん。国王のお見舞いに来ております。
どう見ても大丈夫じゃなさそうな様子。
「ちょっと吐血と咳が止まらなくてね。」
「吐血が止まらないのは問題だわ。」
もうだめかもしれん。
……茶化して言うのはやめよう。
おそらくヴェークさんはもう限界だ。
「……はぁ。王様。変わるよ。」
「ありがとう。本当に、君が弟でよかった。」
「弟じゃなくて従弟な。」
「君にしてもらいたいことは主に二つ。書類仕事と改革だ。」
「待って、改革は聞いてない!」
「あはは、君ならきっとこの国をいい方に進めてくれるって、皆に触れ回っているから大丈夫だよ!」
大丈夫じゃない!それ大丈夫じゃないから!
「……うん、きっと大丈夫じゃないよ。大きな変化が訪れるから。」
「そうだよ!私が上に立つとそうなるよ!?」
「あはは!だからこそ上に立ってほしいんじゃないか!」
「……。」
「そんな目で見ないでよ。君の好きにしていいってことなんだから。」
好きにってそんな勝手な……勝手に先に逝って責任取らずに退場とかずるいぞ!
「そうだね!私はずるい人間だ。お先に来世を楽しませてもらうよ。」
「……。」
「不思議とね、怖くはないんだ。君に来世のことを聞いていたからかもしれない。」
「……そっか。」
「うん!だからさ。そんなに悲しそうな顔しないでよ。不安になってしまう。」
「……わかった。」
「もしさ、次の世界で会うことがあったらさ、あ、でもその場合他人なのかな?」
「どうだろう。」
「本当の兄弟になれたらいいな。その方がきっと楽しいし。次は農夫当たりに生まれ変わって、のんびりとした暮らしがしたいな~。」
「なれるといいね。」
「転生者がいるんだもの。きっとなれるさ。」
「なんだよその自信。」
「ふふ、自信満々だよ?きっと幸せになれるって、君が証明しているもの。」
「……。どこまでわかってるんだか。」
「さぁ。どうだろう。何もわかっていないんじゃないかな?」
「そっか。」
「うん、これからのこと、よろしくね。私はもう駄目みたいだから。」
「駄目とかいうなよ。」
「ふふ、あと少しだけ、よろしく頼むよ。」
そういってヴェークさん眠りについた。
数日後、病状が悪化してぽっくり逝った。
最期まで、何を考えて切るのか、何も考えていないような笑顔のお別れだった。
「さて!今日から忙しくなるぞ!」
「王様だからな。謁見に書類仕事、視察もある。」
「謁見はともかく他の仕事は領主のころと変わりません。無理なくいきましょう。」
「謁見に関しても無理に話す必要はない。必要な情報のみ後でまとめる。」
「おう!皆!よろしくね!」
さて、人生の大一番!頑張ってみるか!
カノイ・マークガーフ、47歳、静かに王位の引継ぎを行った夏の出来事である。
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