第171話:初めは海から産まれたらしい
「う~ん、なかなか難しいな。」
どうも、夏の狩猟祭運営のカノイ・マークガーフです。
今回は私が主催ということで色々と準備しているのだけれど、これがなかなか大変だ。
捕獲用の縄に運搬用の台車を運ぶだけでも一苦労。
父上はどうしていたっけ?と思い出してみると村人達に運んで貰ってたなと思い今度は村中を駆けずり回った。
さて、出発だ!と思ったら道がわかる村人が少なくて引率にてんやわんや。
なんとも言えないが、家の住人は方向音痴が多いのかもしれない。
そんなこんなで私が担当して初の狩猟祭はドタバタしながら開催された。
「つ、疲れた……。」
「おつかれさん。」
「お疲れ様でした。後は皆で何とかしましょう?」
「ウェアウルフを率いるのなら任せろ。リボル、ヴァイス、村人達は頼んだぞ。」
なんとも頼もしい伴侶達である。
こうして後半の作業のほとんどは住民主導で行われた。
そして今はダラダラと海に浮かんでいるわけである。
「あ~疲れた~。」
「カノイ様さぁそろそろ復活したら?」
「そうだよ。あんまり脱力してると溺れるよ?」
「そうよ!せっかくのバカンスなんだから楽しまなきゃ損よ?」
「それもそっか~。久々に遊ぶか~!」
「よし!久々だしレースしようぜ!」
「もう大分衰えてるからな~。流石のジェイルでも若い子に負けそう。」
「なに!?」
「あたしも流石に勝てなくなってそうな気がするわ。」
「まぁまぁ、若いのは勝手に遊んでるだろ?年配は年配だけでやろうや。」
「カノイ様ってたまに年寄りになろうとするよね。」
「一番好き勝手やってて若々しいのにな。」
「え!私って若々しい?ちょっと嬉しい。」
「う~ん、褒めてるような褒めてないような微妙なラインね?」
さて、こうして開催された年配限定レースは相変わらずジェイルにファン、リボルの順にゴールした。
のんびりと泳いでいた私達兄弟とそこまで早く泳げないヴァイスにシュバルツ、エイル、グルートは途中から諦めモードでゆっくりとゴールに向かった。
「お前ら遅いぞ!」
「そうよ!なにちんたら泳いでるのよ!」
「お前ら途中から遊泳にシフトしただろ?」
「あ、ばれた?途中からかなり速度落として遊んでた。」
「なに!?最期まで戦え!」
「だって3人には絶対かてないもん!」
「そうだよ!昔から順位は変わらないもん!」
「ジェイルも大人げないよね~。自分が勝つってわかっててレースやりたがるんだから。」
「ぐぅっ!」
「まぁまぁ、アイスでも食べて落ち着け?」
「「「食べるー!」」」
相も変わらずちょろいやつらである。
「こうやって皆で夏を過ごせるのも後何年になるのかしら?」
「不吉なこと言うなよ。まぁ後20年弱じゃね?」
「現代医学ではその辺が限界だね~。」
「そっか~……そっか。」
後20年弱か。
思えばもう40年近くも皆で遊んできたのか。
……なんだろう。今までのなかで一番死にたくないと言う気持ちに実感がわいてきた。
産まれた頃はこんな世界怖くてすぐに死んでしまうものだと思っていたのに。
今ではまだ生きていたいと思い足掻こうとしている。
「まぁ、まだ20年あるんだろ?その20年、全部楽しい思い出にしちまおうぜ。」
「そうですね。この40年、カノイ様のお陰で楽しく過ごせましたし、これからも大丈夫ですよ。」
「リボル……ヴァイス……。」
そうだ、私には今までの楽しかった記憶がある。
それを糧に今後の人生も楽しいものへとしていこう。
きっとそれが、死んでも後悔しない最高の人生の筈だから。
「よし!もう一泳ぎするか!」
「お?レースか?」
「違うよ遊泳だよ!」
「あはは!レースはまた来年な!」
カノイ・マークガーフ、42歳、生命の息吹を感じながら遊んだ夏の出来事である。
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