第164話:専門家の話は頷いて聞いていよう
視察と称する散歩中、農場に大きな影と小さな影がポツリ。
「どうしたソルテ。ケルベロスと遊んでたのか?」
「あ、カノイ叔父さん。うん、一人で暇だったからさ。」
ソルテは家族に対しては甘えん坊な子だった筈だ。
相方のフェリスが旅立ってから心境の変化でもあったのだろうか?
「この子達の世話も立派な仕事だからね。エリンとデニスに任せてしまっていたけど、今後は私が面倒見ないとね。」
そうか、そういえばケルベロスの世話はエリンとデニスに任せたのだった。
2人とも旅に出てしまった今は遊び相手がいないのか。
「それにしても偉いな、ソルテは。家の手伝いをちゃんとして。」
そう、今の農場はフロージの担当区域、そしてトムが管理をしている。
シュバルツも手伝いにきていて完全に家族経営だ。
本当ならここにファンやフェリスもいたのだろうが、まぁ本人達のしたいことをしているのだから仕方がない。
つまりこの農場の跡取りはソルテ一人ということになる。
「ソルテ自身にやりたいことはないのか?」
「う~ん、あんまりないかな。農場の手伝いは楽しいし、今後もこうやってのんびり生きていくのかなって。」
この年で自分の生き方を考えているのは偉いな。
それに楽しい、か。
仕事が楽しいと感じられるのは幸福なことだ。
彼自身きっとこの生き方でいいとそう思えているのだろう。
「あの……!」
そんな話をしていると誰かがソルテに声をかける。
この声は……ファンのところのメリルだな。
「これ……!搾りたてなので……。」
そういってメリルがソルテに差し出したのは1Lの牛乳瓶。
多いな!
「わぁ!ありがとう!皆で飲もっか!」
「うん……!」
なるほど、皆で飲むための分か。
メリルは一緒に持ってきたらしい重ねたコップを私とソルテに渡して一杯ずつ牛乳を注いでいく。
そつしてのこった分はケルベロスのエサ皿になみなみと注いだ。
「「いただきま~す!」」
ごくごくとのみ干すと独特の香りと甘味が口のなかに広がっていく。
「……ぷはーうまい!」
「家の牛乳はおいしいよね~。」
「うん!……何時でもおいしい。」
「そういえばメリルはどうしてここに?」
「カノイ叔父さん知らないの?メリルは大人になってからここで働いてくれてるんだよ?」
「え、そうだったの?」
全然知らなかった。
なんなら書類整理の時に手伝いにきてくれるから執事志望なのかとすら思ってた。
「書類整理も農場のお仕事も楽しいから……。」
え、良い子。
「そっか~。でも無理はするなよ?あれだったら書類整理の方はお休みしてても良いからな?」
「うん……無理しない程度にがんばる。」
こうやって子供達の成長が目に見えるのは嬉しくもあり楽しくもある。
そうこうしているうちに2人は農場のことで話し合いを始めてしまった。
……………は!
これってあれか!良い雰囲気って奴なのではないか!?
そう思い空気の読める叔父さんはそそくさと退場するのであった。
いや~農場は安泰だな!
カノイ・マークガーフ、40歳、数週後に2人が付き合ったと知ってドヤ顔をした秋の出来事である。
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