第159話:引継ぎは人を見てから決めよう
暑い夏に村の外に出るのは自殺行為だ。
しかし私は共和国に来なければならない事情があった。
今年9歳になるという転生賢者の発見である。
きっかけは開国のおり、外部と内部で情報に齟齬がないかの確認が行われていた際に彼は発見された。
前世の知識を持ち、共和国の端っこの方でただ平和に暮らしていた少年。
それが彼だ。
正直この本を渡すかどうかは迷っている。
ただ平和に暮らしたい気持ちが私にもわかるからだ。
さて、今代の転生賢者様はどんな子なのか……。
「うお、こりゃまた美形。」
「……。」
うん!大丈夫そうだな!
「やぁやぁ今代の転生賢者君!君にこれを渡さなければいけなくてね?」
「え、なにこれ?日記?俺そういうの苦手なんだけど。」
「転生賢者は絶対につけなきゃ行けない奴らしいよ。」
「めんどくせ!」
わかる~!
やっぱ普通はこういう反応になるよね!
春野さんが明るすぎただけだって!
「まぁまぁ、中身を読んでみてよ。気持ちが変わるかもしれないからさ。」
「う~ん、活字苦手なんだけどな~。」
そういいつつも渋々新しい賢者さんは本を読み始める。
ページをめくる手はかなりゆっくりだ。
「ふ~ん?そっか。そういうことなのか。」
「どういうこと?」
「要するにリレー小説だな。」
「う~ん?」
なんか昔聞いたような?
「これってなに書いてもいいんだよな?」
「まぁそのはずだ。」
「そっか~じゃあ俺はこの小説の布教にでも努めるかな~。」
「やめて!俺が転生者だってばれる!」
「あはは!そんなの自分が死んだ後にいくらでもばれることだぜ?」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!」
それにしても前世のことを気がねなく話せる友人というものがいなかったからこの感じはちょっと新鮮だ。
「じゃあな!偉大な最強の転生賢者様?」
「そんなんじゃないって!それにまた来るよ。聞いてみたいこともあるしな。」
「おうよ。あんたの時代と俺の時代。どれくらい違うか話し合おうぜ!」
話してみれば快活な少年だった。
ただその年には見合わぬほどに語彙力のある奴でもあった。
それにしても時代の齟齬か。
今まで考えたこともなかったな。
もしかしたら私が生きていた時代より遥か未来や過去に生きていた可能性があるのか。
……ロマンあるな。
春野さんにも聞いておけばよかった。
まぁ、そっちは流石に遅いか。
後悔先に立たず、今を生きている彼と情報交換をしよう。
カノイ・マークガーフ、39歳、次世代に受け継ぐべきものを受け継いだ夏の出来事である。