第147話:日々の出来事は書き綴っておくと後々便利
「よく考えたらあたしってカノイ様やグルートより早く死ぬのよね。」
夏のある日、ファンが突然そんなことを言い出した。
リリア……家に仕えてきてくれた古参最後のメイドの葬式後の出来事である。
「うん?そうか、ファンは今年で40か。」
「ジェイルとエイルなんか41よ?順当に行けばあたし達よりも先に死ぬわ。」
「縁起でもない……。」
確かに縁起でもないが、まぁ事実である。
私も予定では後24年で死ぬ計算だ。
「順番で行けばジェイルとエイル、ファン、ヴァイス、リボル、私、フロージ、シュバルツ、グルート、トム、ヘディンか。」
「まぁ順番通りに行くとも限らないけどね。」
「それはそうかも……。」
「疫病、事故、単純な寿命。どんな要因で前後するかわからんからな~。」
このご時世流行り病で全滅、なんてことも十二分にあり得る。
手洗いうがい徹底しよ……。
「ご老人方なんてもっと早いわ。スヴェン様やシシー様も、ケビンとナンシーとマットも、隣領のシグナルさんだって何時亡くなってもおかしくない年齢よ。」
「うん……うん、そうだな。」
加齢は誰にでも訪れる。
例外なく、父上も母上も冒険者達もいつかは亡くなるのだ。
「そう思うとウェアウルフずるいわね!あたし達の2倍以上生きるんだから!」
「でもさ、皆を見送って、それからも俺達の2倍以上生きていかなきゃいけないんだよ?寂しくないかな……。」
「それもそうね……。そう考えると心配になってきたわ。」
雰囲気が段々と暗くなってくる。
まぁ生き死にの話をしているなら当たり前か。
「あたし生まれ変わったら王族が良いわ。」
「は?」
至極真剣な顔でファンが訳がわからんことを言い出した。
「だって王族になったら本とか読み放題じゃない!」
「いやいやいや!」
絶対それどころじゃないだろ!
王族なめ腐っとる!
「そりゃあ大変そうだけど、村住みの今よりはずっと身近に本が感じられるでしょ?」
「まぁ、そうか。」
本は趣向品の中でも高価なものだ。
子供の頃にもらった絵本等は一生の宝になる。
それくらい大切で高価なものだ。
それを潤沢に有しているのが王族や貴族だ。
そりゃあお金持ちなんだから当たり前っちゃ当たり前だ。
知識の宝庫。現代で得られる最大限の叡知。
誰もが羨むのが王宮の図書館だ。
ファンはそれを欲している。
凄い知識欲だな。
「……家の本ならいつでも読みに来て良いぞ。」
「あら、マークガーフ家の図書室にはいっつもお世話になってるわよ。」
あ、それもそうか。
「……家の執事は皆書庫の本は読み終わってるよ。」
「そうかぁ。新しい本、仕入れるかぁ。」
新刊、行商人に頼もう。
「……何時かは、こういう日常も本にしておきたいわね。」
「お?ファン先生の新作か?」
「何時かよ!それに出版用じゃないわ!個人的にとっておきたいのよ!」
「思い出を綴ったもの……日記かな?」
「それ、いいな!」
そういえば書いてなかったな!日記!
「書くか!日記!」
「書きましょう!日記!」
「どうせなら皆で書こうか。」
「そうね!それに本にして置いといたら、ウェアウルフ達がたまには思い出してくれるでしょ?」
「…………そう、だな。」
何時か誰もいなくなった後で、ふとした時に、思い出してくれると嬉しいな。
カノイ・マークガーフ、36歳、新たな日課が出来た夏の出来事である。
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