第134話:可愛い子には旅をさせよと言うが不安なものは不安
風邪も治り、平穏な日常が戻ってきた春この頃。
ルーナの誕生日も終わり成人の儀、を行った次の日。
「ママ、我は自立するぞ。」
「え。」
以前ルーが言っていたことを思い出す。
ウェアウルフは自分の群れを持つために旅に出るのだとか。
ついにその時が来てしまったのか……。
しかし、ルーナが自分で決めたことだ仕方がない。
「ルーナ、本気で家を出るんだな?」
「うん。」
「ルーナ、ウェアウルフは強者に絶対服従だ。」
「うん……うん?」
「家を出ていくなら私を越えてからいけー!」
「大人げないぞ長殿!」
いつも冷静なルーが焦ったように叫ぶ。
そう、思えばルーも私のほうが強いから私の傘下についているのだ。
つまりルーナより私のほうが強ければルーナは私の傘下につく!
「さぁ!どこからでもかかってこい!」
「我!ママを超える!」
「えぇい止めんか!」
「うぅ……掟とか知らんし……マークガーフ家の家訓は家族円満なんだぞ……?」
「仕方がないことなのだ。我らは旅に出て群れを作り、子を育て、終の棲家で余生を過ごす。そうして繋がれてきた命だ。」
「……。」
それは分かっている。
実際この村にいてもウェアウルフの仲間はそう多くはできないだろう。
成人したルーナの伴侶も、仮にウェアウルフに限定すると選択肢はない状態といえる。
この子の自由のためには本人の意思を尊重してやるべきだ。
けど……。
「ママ、大丈夫。たまには帰ってくる。」
「本当に……?本当に本当だな?」
「うむ。我は約束は守る子だ。」
「そうだな……。そうだったかな?」
結構やんちゃしていた気もするが?
「だ、大丈夫だ!家に位帰ってこれる!」
「そうだな。……ルーナを、信じるよ。」
頭を撫でてやりながら目線を合わせる。
力強い目と目が合って、改めてその覚悟の強さを思い知る。
それからルーナは自室に戻り、旅立つ準備をしていた。
お気に入りのおもちゃと生活用品、皆で作った何かわからないオブジェクトなどを鞄に詰めていく。
部屋ががらりと広く感じる程に片付くと、まるでいつもの散歩のような足取りでルーナは玄関へと向かっていく。
「じゃあ、行ってくる。」
「うん……絶対無事に帰ってくるんだぞ?」
「ウェアウルフとしての誇りを……いや、お前は我らの子であるということを忘れるな。」
「うむ、絶対に無事に帰ってくる。」
こうしてルーナは家を出ていった。
しばらくして。
「え、隣町手前の空き地に家が建ってる?」
隣町までの道のりは意外と短い。
具体的には一戸建て10件分くらいの距離だ。
つまりその間に家ができたということはどちらの領になるかという話し合いをしなければならない。
「いったい誰だ~?お隣さんとの話し合いって結構面倒くさいんだぞ?」
まぁ隣村を治めているシグナルさんのところは父上と知己の仲なのでそこまで問題にはならないだろうが……本当だったら大問題になっているところだぞ?
家の持ち主になんというべきか考えながら空き地に向かう。
そこには耳の生えた少年が、数人立っていた。
「ルーナ!?それにヘリュックにカーロ!?」
「む?ママか?」
「ママか?じゃないよ!?これどういう状況!?」
「うむ、ママ、我はここに"ルーナ村"を築くぞ!」
「え!?えー!?」
あんな劇的な別れ方をしたのに!?
ルーナ村!?
というかヘリュックとカーロも連れてきてたのか!?
色々あれ過ぎて頭が追い付かないんだけど!?
「家を建ててもらったから3人でここに住む。シグナルじぃには許可をもらってきた。」
「まさかの根回し済み!?」
用意周到だな!?
「ルーナ様が「伴侶に迎えてやるからついて来い」って言ったんだ~。」
「ルーナ様かっこいいから子供達皆の憧れなんだ~。」
ヘリュックとカーロは新しい家の床で伸びをしながらほのぼのと話す。
選択肢がないとか思っていた私が馬鹿だった……しっかり口説き落としとる!
「…………そりゃあ無事帰ってくるだろうね!こんな近場ならな!」
「うむ!ここを拠点に旅をして仲間を集める!そして群れを大きくする!そうすればパパもママも満足だ!」
「え。」
もしかして、あの喧嘩を覚えていたのか?
いや、そんなはずはない。だってあの頃はまだ生まれたばかりの頃だ。
でも、もしかしたら……。
「そうか、ルーナは優しいな。」
「うむ!パパとママの子だからな!」
「あはは!でもよかったよ。まだ小さいのに、目につかないところに行ってしまうと思っていたから。」
「……家族と離れるのは寂しいからな。」
「ルー!お前知ってたのか!?」
「数日前からこの辺りが騒がしかったのでな。先に話を聞いていた。……長殿、お前はこれで満足か?」
「……うん!とっても満足だ!」
こうしてルーナが家の近所に居を構えることとなった。
ルーナ村、大きくなるといいな。
カノイ・マークガーフ、33歳、別れと再開のサイクルが意外と早い春の出来事である。
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