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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ずっとあなたが好きだった これからもいつまでも

作者: 白花 舞雪

閲覧いただき、ありがとうございます。

最後まで、お付き合いいただければ、幸いです。

私の朝はいつもサクラのチャットで始まる。


『おはよう〜!眠いよ〜福ちゃんとずっと一緒にいたい……』


サクラがペットでうさぎの福ちゃんとのツーショット自撮り写真を送ってきた。


私はすぐにその写真を保存する。サクラらしいチャットに思わず笑顔になる。


『おはよう!今週もがんばろー!ご褒美に売店の限定パン買いに行こ!』


『いいね!てかユキに会いたいから学校頑張っていくー!』


不意打ちのチャットに私は思わず顔が赤くなる。


『ありがと!私もサクラに会いたい!小テストおわったら放課後遊ぼ!』


そうやって、私がチャットをするとサクラから可愛らしいスタンプが送られてくる。


いつからだろう。


入学した時に会って、自然と話が弾んで、よく遊ぶようになって、気がつけばサクラの表情を1番近くで見たいって思ったんだ。


ユキといえばサクラ、サクラといえばユキ。


この高校生活3年間で親友と呼べるほどの関係になった。


放課後も体育祭も文化祭も夏休みも冬休みもいつだって私はサクラと一緒にいた。


私とサクラは指定校推薦で他の子達より一足先に大学受験を終わらせた。


大学受験の終わりが見えた時から、昼休みの時にサクラが口癖のようによくぼやき始めた。


「青春したーい。彼氏がほしーい!」


「私はサクラがいれば、それで楽しいけれど。」


「えー!ありがとう!私もだよー!私もユキと一緒で楽しいし、全然不満はないよ、ないけれど……やっぱり憧れるじゃん?彼氏とのクリスマスとかさー!デデニー行くとかさ、プレゼント交換したりとか、バレンタインでチョコ作ったりさぁ。」


そういうものか、と全然納得していないけれど、とりあえずの相槌をうつ。


ふと、サクラの視線が一定のところを向いているのに気がつく。


クラスメイトで文武両道で人当たりも良い人気者のコージだ。


コージはクラスメイトの男女グループでワイワイ話している。


それを見るサクラは羨ましそうで、寂しそうで、とても深い感情があるのが横顔から伺えた。


サクラはコージのことが好きなのかも。


考えたくもない考えが自然と脳裏に浮かび、心が一気にざわつく。


やだ、やめて、という心の叫びが聞こえる。


大丈夫、いつかきっと私の想いは叶うはず……


「……今度の文化祭、コージを誘ってみようと思うんだ。」


その淡い希望は放課後のサクラの一言で打ち砕かれた。


「いやさぁ、この前、休日たまたまフードコートであってさ、ちょこちょこ話したら、好きなバンドが一緒だったり……なんか話が弾んだんだよね。」


私が呆気に取られていると、サクラはタジタジになりながら、そんなことを言っていた。


頬が桜色に染まったサクラは可愛らしかったし、恋をしているサクラは綺麗だった。


その想い先が私だったらよかったのに……


「だからさ、うまく誘えたら……2日目の文化祭はコージと回ってもいいかな?いつもはユキと2日間回ってたから、事前に言いたくて……」


少し申し訳なさそうに、サクラはお願いしてきた。そんなサクラのお願いを私が否定できるわけがない。


「もちろん。なんだか、最近コージを見てたのはそのせいだったのね。」


私は気持ちを押し殺して、オレンジジュースの入った紙コップを一口含む。


いつもより、そのオレンジジュースは酸っぱく感じた。


「ありがとうー!私、頑張るね!流石、ユキはなんでもお見通しだなぁ。あ、でもでも!1日目は一緒に回りたいなぁ、やっぱりユキとも文化祭一緒に楽しみたいし……ダメかな?」


「ダメなわけないじゃない。コージよりも楽しませてあげる。」


私の言葉を冗談だと捉えた、サクラはもー、とくすくす笑いながら、照れた表情を見せた。


私はちゃんと親友として、うまくサクラの瞳に映っているだろうか。


ちゃんと笑えているだろうかーー。


『今日はありがとう!楽しかった!早速チャットしたら、コージと一緒に回れることになった!』


いつもサクラが愛用しているスタンプではしゃぐサクラの姿がすぐ目に浮かぶ。


『よかったね。』


やっぱり、親友じゃ、サクラの好きな人には代えられない。


ずっと一緒に居たいのに。


もうすぐ、サクラの横顔を、表情を、1番に見る人は私ではなくなる。


そんな予感がして、私はスマートフォンの電源を切った。


「サクラ……好きだよ……」


そんな私の呟きは、自室の暗い部屋で誰にも聞かれることなく、消えた。


サクラの気持ちに気がついてから、私の心の叫びはどんどん大きくなり、その気持ちを抑えることで必死だった。


だからだろうか、時間の流れがとても不思議だった。


長く感じるような、あっという間だったような。


文化祭の日はすぐに来た。


サクラが日に日に浮き足立っているのを感じながら。


「ユキ!お化け屋敷だって!行こ行こ!」


サクラは私の手を引きながら、お化け屋敷をやっているクラスに連れていく。


それでも、今日はサクラと私の時間だ。


変なことは考えずに、サクラとの時間を楽しもう。


サクラはお化け屋敷に入りたいと言ったくせに、私以上に怖がって、私にくっついて離れなかった。


そういうところが可愛いのだけれど。


しばらくして、私達は、お腹が空いたことに気がついて、屋台を出しているエリアに向かった。


混んでいたから、二手に別れようと言って、私はサクラが好きそうなものを探す。


「わあ!焼きそばだ!私、これ大好きなの!」


「サクラと言ったら、焼きそばでしょ?夏祭りいったり、文化祭で毎回買っていたじゃない。」


「流石!ユキ大好き!私はね、肉巻きおにぎり!ユキ、お肉好きだもんねー!」


本当は屋台のご飯は濃くて、私は好きではないのだけれど、屋台のご飯を食べているサクラが好きだから。


焼きそばの次に好きなのは、これだもんね。


「そしてそして、デザートは、はい!りんごあめ!」


サクラが得意げに私にりんごあめを差し出す。


「……私も買ってきちゃった。」


私もサクラにりんごあめを差し出した。


「ええっ!めちゃくちゃシンクロしてるじゃん!私たちお互いのこと大好きじゃん!」


偶然の一致に私も嬉しくなる。


そのりんごあめは、宝石のようにきらきらと光っていて、いつもより美味しく感じた。


「ユキは午後どこ行きたい??」


「舞台を観るのはどう?なんか開始前から話題になってたみたいだし。」


「いいね!行こ!13時からだったよね!」


恋をすると不思議で、感情がジェットコースターみたいになる。


私はなんで、舞台を観に行こうとなんて言ってしまったのだろう。


「あ、コージじゃん!コージ達も舞台観にきたの?」


サクラが手を振った先には、コージをはじめとするクラスメイトの男子達がいた。


「おー、サクラとユキじゃん。そうだよ、友達結構出ててさ、めちゃくちゃ頑張ってたから、楽しみにしてたんだよ。結構、混んでんな。あ、ここ2人空いてるっぽいぞ。俺たちはあっち行くから。男数人が前に座っても見づらい人もいるだろうし。」


コージは私達に前の方の席を譲って、自分達は後ろ側の席に向かった。


複雑なのは、コージが決して悪いやつではない……むしろ、良いやつなのだ。


チャラチャラしたり、何かとケチつけれるような男だったら、親友として、反対できただろう。


でも、社交的で文武両道で、気が遣える。


高校三年生にしては、大人な対応をしてくるしっかりしたやつなのだ。


「……席譲ってもらっちゃったね。」


嬉しそうに、私に耳打ちしてくる。


私は、良かったね、と返事をするのが精一杯だった。


時折、私は横目で舞台を観るサクラのことを盗み見た。


サクラは今、何を思っているのだろう。


単純に舞台の世界に入っているのだろうか?


コージのことを考えているのだろうか?


……少しでもサクラの心に私が在ればいいのに。


気もそぞろだった私は観劇に完全に集中することができず、舞台は幕を閉じた。


「面白かったねー!ユキはどのシーンが好きだった??」


「……ヒロインとヒーローが運命に翻弄されて、離れた場所でもお互いを想い合う描写シーンのところかな。」


「うんうん、めちゃくちゃわかる!感動したよね!」


サクラは楽しそうに先ほどの舞台を思い出しているようだった。


まるでヒロインに憧れる少女のようなあどけない表情。


「最終的には2人が結ばれて良かったよねぇ!ああ、ヒロインが羨ましいー!」


そんな恋する乙女の表情を浮かべたサクラに対して、私はただ笑い、応えるだけだった。


「ねえねえ、明日のヘアメ、こんな感じにしようと思うんだけどどう??」


文化祭ということもあり、みんな女子生徒はヘアアレンジで思い思いのスタイルを表現してた。


サクラも明日に備えてヘアメイクをするようだった。


いつもはロングのふわふわの栗毛の髪に、アイロンでウェーブをかけて女の子らしさを出しているサクラ。


サクラはリボンをつけて、編み込みをしている女の人の写真を見せてきた。


「良いんじゃない?サクラに似合いそう。」


これは本心だ。


私がそういうとサクラは照れたように、スマホの画面を見つめた。


「えへへ、そうかなぁ。でもユキがそう言ってくれるならこれにしよっ!コージに会う前にさ、明日最終チェックしてほしいー!」


せめて、1番に着飾ったサクラを見ることができるなら。


「もちろん、いいよ。私も楽しみにしてる。」


「やったぁ、心強いよー!ありがとう!」


サクラが私を抱きしめてくる。


私は自分の気持ちを隠しながら、抱きしめ返すのだった。


「ねえ、これでどうかな?変じゃない?はしゃぎすぎかな?」


翌日、ヘアメイクを施したサクラはいつもよりも輝いて見えた。


「そんなことないよ、可愛い。自信持って!」


「ありがとうー!後ろのカールも手伝ってくれてめちゃ助かったぁ。」


サクラは毛先に触れながら、はにかむ。


「ユキは今日誰と回るの??」


「クラスの方が人足りてないみたいで、そっちヘルプすることにした。」


「えっ!そうなの?私にも何か出来ることあるかな?」


「サクラは気にしないで。今日は楽しみにしてた日でしょ!」


私はサクラの背中をぽん、と押した。


「ユキー、ありがとう。でも困ったことあったら全然言ってね!チャットしてくれたら、私全然行くし!」


ありがとう、と言って、私はサクラを見送った。


一足遅れて、女子トイレから出ると、少し離れたところにコージとサクラが2人で楽しそうに歩いていた。


……私もそばにいたかったな。


サクラを見送って、1時間後。


売り物のラスクをお客さんに渡していると、鈴のような声が聞こえた。


「ユキー!」


聞き間違えるわけがない。サクラの声だ。


「サクラ、コージ。どうしたの??」


「やっぱり、ユキのことが気になっちゃって。」


サクラはえへへと笑う。


「人足りてるか?俺達なんかできることあればやるよ。サクラがユキのこと気にしてたよ。」


2人は残酷なまでに私に優しかった。


「もう、2人ともありがとう。昨日よりは客足落ち着いたみたい。昨日よりも暑くなって、みんな隣のクラスのアイスクリーム屋さんに流れてるみたいで。だから、本当に大丈夫だよ。」


私は2人にサービス、と言って、ずいっと、2人の前にラスクを差し出して、プレゼントをした。


「これ、私から2人に。ここは任せて、2人は文化祭を楽しんで!」


これでいい。これが正解。

サクラは感動したようで、うるうると瞳を潤ませた。


「ユキー、ありがとう。ね、3人で写真撮ろ!」


サクラの合図で、私達は写真を撮った。


シャッター音が鳴るまでの間、まるで時が止まったかのようだった。


ラスクを渡し、写真を撮り終わり、2人は手を振りながら、教室を後にした。


SNSには『ユキいつもありがとう!文化祭2日目楽しんでます!』と3人の写真がサクラのアカウントにアップされていた。


私はその投稿にいいねをして、スマートフォンをスカートのポケットにしまった。


思わず、深いため息を吐いてしまった。


「お疲れ様ー!」


カランカランとグラスの鳴る音が響く。


文化祭が無事終わり、ファミリーレストランで有志のメンバーが集まり、クラスの打ち上げを行った。


サクラが上機嫌なのが、隣から横目で見ても分かった。


ファミリーレストランまで行く道のりも2人で話していたし、空気感からして、2人に何かあったのが、すぐ分かった。


私がサクラの横顔を盗み見ていたのに気がついたのか、サクラが急にこちらを向いてきた。


私は思わず、心臓が止まりそうになり、肩を僅かに揺らした。


サクラはそんな私の肩にそっと手を寄せて、耳打ちをする。


いつもは、その距離の近さにドギマギしていたが、今日はそれよりもこれから知る真実をサクラの声で聞くことが恐怖だった。


「あのね……私とコージ、付き合うことになったの……」


私が何か反応するよりも先に、サクラの言葉が聞こえたクラスメイトが騒ぎ立てる。


「3-Bカップル誕生してるじゃん!」


「サクラとコージ!?うわ、まじかよ!」


「えー、お似合いすぎるー!」


まるで、自分だけ水槽の中に閉じ込められているかのように、サクラのことも周りのクラスメイトの声もくぐもって聞こえた。


サクラの恥ずかしそうで嬉しそうなはにかむ表情もコージの照れた笑顔もクラスの祝福ムードも全部、私の身体を冷やしていった。



そこから冬になるのは、とても早かった。


サクラと私の時間は必然的に減ってしまった。


もちろん、1日の中で、サクラと過ごす時間はある。それでも、足りない……


サクラの1番は、きっと、コージだから……


「ねー、クリスマスプレゼント一緒に選んでくれてありがとう!めちゃくちゃ助かった!」


「ううん、私も楽しかったし、良いクリスマスになるといいね。」


今年も、もう、あと僅か。


12月のある日、私はサクラと一緒に、コージへのクリスマスプレゼントを選んでいた。


ケーキもプレゼントも2人で選んだ。


コージとサクラが過ごすクリスマスを思い描きながら。


久しぶりの2人きりの放課後だけれど、寂しくて、悲しい。


「ユキ!両手、出して?」


駅に向かう途中、サクラがこちらを振り返る。


茶目っ気のある表情で私の顔を見つめるサクラ。


キラキラとイルミネーションの光にサクラの髪が照らされ、綺麗だなと思った。


私は言われるがままに両手を出す。


すると、サクラは、パンパンに詰め込まれていたスクールバックから、大きめの袋に入ったプレゼントを私の手のひらに置いた。


「クリスマス、ユキの誕生日でしょ?今年は一緒に居られないから……テストとかあって、なかなか予定合わなかったし、少し早いけど誕生日プレゼント!」


「ありがとう!中、見てもいい?」


「もちろん!」


中に入っていたのは、今女子高生の間で話題のアパレルブランドのルームウェアだった。


私は自分では選ばないようなパステルカラーの可愛らしいルームウェア。


「可愛い……こういうの持ってなかったから嬉しい。」


「気に入ってもらえてよかった!今回はね、誕生日プレゼント、コージと選んだの!」


その言葉に、ふわふわしていたはずの可愛らしいルームウェアが重く、固いものに感じた。


「そ、うなんだ……2人ともセンス良いね。大切にする。」


思わず、声が裏返りそうになる。


せっかく、私のために考えてくれたんだ。


ちゃんと、喜ばないと……


「あ、雪だ……」


頬に伝った冷たさは、私の涙だと思った。


空を見上げると、はらはらと白い雪が降ってきた。


「綺麗だね……」


「ね!冬って感じする!写真撮って、コージに送ろうっと!」


感動する瞬間も、温かくなるようなひとときも、サクラにとって、共有したい相手はコージなんだ。


ぽちぽちとメッセージを送るサクラを見て、私はそう感じた。


いつも、クリスマスは、2人でカラオケフリードリンクを頼んで、声が枯れるほど歌った。


映えなところで踊ってみて、ファストフード店でフライドチキンをいつもより多く頼んで、かぶりついて、イルミネーション見ながらクリスマスだねーって言う。


それが、私達のクリスマスだった。


サクラは恋人欲しい、って毎年言っていたけれど、私にとっては、大切で愛しい時間だった。


どこかでこの気持ちが報われる、想いが届くと思ってた。


でもサクラの表情を見て、瞳に映っている強張った笑顔を浮かべている自分自身を見て、気がついた。


きっと私の想いは届かない。


きっと叶わない。


それであれば、私はサクラの幸せを願いたい。


サクラの幸せな表情を少しでも間近で見たい。


私は駅でサクラと別れると、帰りの電車、静かに独りで涙をこぼしながら、大切にしていた溢れる気持ちに、そっと蓋をした。


それからも、私とサクラは2人で過ごす時間はあったけれど、今までのように楽しむことはできなかった。


一緒に過ごすことは嬉しかったけれど、どこかで不意に泣きたくなることがあった。


蓋をした感情が溢れそうになるのだ。


どこかでチクチク心が痛んで、膜が張られているように、自分が独りだけ切り離されたような感覚に陥った。


仕方がないよ、サクラにとって、『彼氏と過ごすクリスマス』に強い憧れがあったんだから。


そう言い聞かせても、モヤモヤは晴れなかった。


だって、もう2人でイベントは過ごせないから。


ありきたりな日常を一緒に共にすることも嬉しかったはずなのに。


もうクリスマスも年を越すことも一緒にできていない。


私は独りで、いつもサクラと来ていた神社に、初詣をしに行った。


そして、いつも2人で絵馬を書いていたから、今年は独りで絵馬を書いた。


『私とサクラがずっと幸せでいられますように』って、本当はそれ以上の、淡い期待を込めながら。


……せめて、3年間は一緒に居たかったなぁ。


バレンタインデーも2人でチョコレートを作った。


私とサクラの世界は、もう2人だけの世界ではなくなっていた。


「ねえねえ、ユキのこのチョコレートって誰にあげるの?もしかして好きな人いるの?教えてよー!私達の仲じゃん!」


「……まだ内緒。」


友チョコとしてのサクラへのチョコレートは別に作ってある。


サクラが指差したのは、もう一つの本命チョコレート。


それは、本命の人に渡すことなく、しばらくしたら、自分で食べることになるんだろうな。


せめて、卒業式までは、このままでいさせて……


卒業式、コージは部活の人達に挨拶をしに、校庭へ向かった。


そして、サクラと私は教室で2人きりになった。


春風が薄いクリーム色のカーテンを波立たせる。


ドラマやMVで見る、告白のシーンのようでドキドキした。


「……あっという間だったね、3年間。」


「そうだねぇ。感慨深いよ……ユキと友達になれてよかったよ!大学別々だけど、定期的に会おうね!絶対だよ!」


サクラが無邪気に微笑んで、指切りげんまんと私の指を絡める。


「……ユキ、泣いているの?」


指を絡めた瞬間、嬉しい記憶や悲しい記憶、サクラに出会って、人として好きになって、それが特別な感情になって、サクラの想いに気がついて、私の特別な感情に蓋をした、その記憶が溢れて、涙が止まらなくなった。


サクラは、そんな私を見て、強く抱きしめた。

サクラも感極まったのか、肩を震わして、僅かに鼻をすすった。


「サクラ……大好きだよ。」


「うん、私も、ユキが大好きだよ。」


きっと、私のこの言葉がサクラが想像するより、大きな感情が含まれていることを、サクラはこの先も知ることはないだろう。


サクラは、友達として、私を大切にしてくれているから。


ずっとあなたが好きだった。これからもいつまでも……


雪が溶けて、桜が満開になった季節。


こうして、私の恋は、静かに眠りについた。


数年後。


結婚式で2人が微笑むのを見て、私も微笑む。


サクラとコージは数年間の交際を経て、結婚した。


胸が温かくなる、そんな自分が成長したと思える。


「ただいま、ご紹介に預かりましたユキと申します。私は新婦のサクラさんの高校時代からの友人です。コージくん、サクラさん、ご結婚おめでとうございます。」


私は2人の門出を祝うスピーチを始めた。


かつての恋愛を密かに懐かしみながら。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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