7話 親友の姉
「え、いや、やっぱり俺はトイレに…」
「ん、嘘。來八君、嘘はよくないなぁ。そんなに私とお喋りするの、嫌なの?」
桃恵さんはなんだかシュンと悲しそうな表情でこちらを見てくる。
「そ、そういうことでは…」
な、なにこれ。桃恵さんってヤンデレ化する、というより人に好意を持つとなんだかとても甘えたがりのようにへにゃっとした性格に変化するのだろうか。以前の桃恵さんは、
「來八君、だらしがないですよ。我が校の生徒として誇りを持った生活をしてください。ほら、ネクタイをきちんと締める!」
みたいなちょっとしたお叱りも受けたことがあるのだが、なんだかその時とは雰囲気が違う。このヤンデレ化の能力は人の性格までも変化させてしまうのか…なんて恐ろしい。
「お、おい。來八、なんか姉さんの様子おかしくね?」
「うん、俺もそう思う…」
桃恵さんがおかしくなった原因は完全に俺にあるのだが、ここで
「あ、ごーめん。ヤンデレ化の能力使っちゃった!」
と、言ったところで叶が信じてくれる保証もないし、何よりここは教室。ほかに人がいる中で能力について話すのはあまりよろしくないと思う。いかにこの状況を切り抜けられるのか。いくら考えても思いつかない。
「げ、なんでここに生徒会長がいるわけ?」
「おぉ!涼深いいところに!ちょっとこっち来い。」
俺は涼深にやらかして桃恵さんをヤンデレにしてしまったことを耳打ちした。
「ちょ、あんた何やってんの?」
「俺だってしたくてヤンデレにしたわけじゃないって!」
「はぁ。ホント面倒なことに。」
涼深は心底呆れたような目でこっちを見てくる。
「おい、來八たち何こそこそ2人で話してるんだよ。」
「あぁ、悪い悪い。多分桃恵さんは体調が悪いんじゃないかなって涼深と話してて。」
「ん、おぉ。そ、そうなのか…確かに。じゃあ、俺、保健室にちょっと連れて行くわ。」
「おう。叶、頼んだぞ。」
ういうい、と若干めんどくさそうな顔をしながら桃恵さんを保健室へ連れて行った。
その際なんだか桃恵さんが
「私は体調なんか悪くないぞおぉ!」
と、叫んでいたような気がするがここは目をつぶろう。桃恵さんごめん!
まぁ、桃恵さんの尊厳のためにもここは好プレーと思うべきだろう。このままここにいたら何が起こるかわからないからなぁ。
「ねぇ、來八。ある程度自由にとは朝言ったけれど、まさか生徒会長に手を出すとはね。」
「い、いやぁ。手が滑ったというか口が滑ったというか。うっかりしてて…」
「まぁ、なんでもいいんだけど。」
そういいつつ、ものすごい目で俺を威圧してくる。言ってることと顔が全然一致してないですよ。涼深さん。
「過ぎたことを言ってもしょうがないだろ?」
「はぁ。なんでそうも楽観的なんだか…」
「ふはは、これが俺の取り柄だからな!」
「はいはい、そうですね。」
朝のごたごたで気が付いたら朝のホームルームの時間になった。
「はーい、みんな席に着けー。」
教師の一言で教室は静まり、続々と席についていく。この学校は中々偏差値の高い高校だからなのか、こういうところの統率感というのか教師の言うことをしっかり聞く生徒がほとんどだ。俺はそう言ったこの学校の雰囲気がとても好きだ。
「おっし、じゃあプリント配るぞー。前から後ろに回せー。」
前から順々に後ろへ渡ってきたプリントには体育祭開催日程のお知らせと書いてある。うちの学校は体育祭を6月上旬に行う。
俺としては秋ごろ開催の方が汗をかかないからいいんだが、まぁそんなことはどうでもいいだろう。
なんせ体育祭は体力そして運動神経で競う場。
その分野に関しては俺はだいぶ自信がある。そんな活躍の場は楽しみなことに変わりはないからな。
「お前らもうすぐ体育祭だからな。頑張っていけよー。」
教師のその一言でクラス全体がおぉ!と若干意気込んだ雰囲気になる。
「うんうん。体育祭みんな楽しみだよなぁ。」
「來八、去年みたいな活躍頼むぜ?」
「んお、任せとけって。叶もサッカー部なんだから活躍待ったなしだろ。」
「俺は別にいいんだよ。体育祭好きでも嫌いでもないし。」
「ちぇ、気合が足りないねぇ。」
「うるせ。」
叶は相変わらず乗り気じゃないんだな。去年も同じような感じで体育祭はあまり楽しそうじゃなかったな。まぁ人それぞれってことで。
「うっしゃあ、選抜リレーは俺が勝ち取る!」
「調子乗ってこけないようになぁ。」
「バカ、走って転んだのは小学生以来ないわ!」
「來八はまぁこけてもおかしくないかもね。」
「おい、涼深まで!?」
いつの間にかいじられキャラに転換していたことを悲しく思いながらも、プリントに書いてある種目を眺め選抜リレー以外は何出ようかな。なんて考える來八であった。
つづく
【設定、小ネタコーナー】
蘇上叶について
叶はイケメンという設定ですが性格はあまりよくないです。
女子達は最初に顔で叶に興味をもって近づくんですが性格を知って離れていくことがほとんど。
そのため彼女がいたことはないです。(本人は性格を直す気はまったくないです)
更新が遅れてすみませんm(_ _"m)