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行きも帰りも気が抜けない

作者: 一色 良薬

「みなさん。今年も我が部署における繁忙期がやってまいりました」

 寝ぼけ眼の従業員が数名見受けられる。

 だが労わっている暇はない。夜見はスピーカーで後ろまで声が届くように、無慈悲な朝礼の言葉を続けていく。

「我々のお客様にとって大事な行事です。ミスは許されません。全ての業務が一発勝負です。気を引き締めていきましょう」

 夜見の後ろに設置されたモニターへ付属のリモコンを向けた。

 画面に表示されたのは、“再発防止”の文字とメーカーがぼやかされた車の写真。それだけでざわめきが大きく反響した。

「注意喚起です。去年ですがお客様が指定された車種を配車が滞ったという、重大なミスに繋がる案件が発生しかねました。一つの問題で長年積み重ねてきた信用が崩れてしまうことを、念頭に置いておくように」

 前列に並んでいる社員の川田を睨む。

 名指しをするつもりはないが「次はないぞ」と夜見はプレッシャーをかける。

そんな視線に気づいているのか。川田は顔面蒼白ながら小刻みに顎を上下させていた。

「次に配車がなかったお客様は自社で管理している胡瓜馬と茄子丑で送迎する手筈になっています。調子はいかがですか。谷厩務員」

「問題ない。どんな仏さんでも無事に現世に飛んでいくし、ゆっくりこっちにも帰ってこられる。気性難も仕込み済みだ」

「丑も途中で寝ないように引き続き管理を願います」

 これで確認することはないかと終了の合図を出そうとすれば、部下の畦地が手を上げた。

「地獄の住人の帰省許可申請書が閻魔様から提出されていません。今年こそ帰省者ナシでいいですよね」

 毎年恒例とも言える書類提出遅れに苛立ちが募っているのが伝わる。

「……私の方で確認します」

 眼鏡を押し上げ、今度こそ解散の合図を送った。

 毎年常世の魂を現世に送る“お盆”がやってくる。

 夜見たちは魂を無事に届ける車──お客が望む車をレンタルする業務を職にしており、一年の内の四日間を死に物狂いで働いている。

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