1章の7
さすが人知を超えた存在からの贈り物。毎度のことながらどう扱えばいいのかわからないな。
しかしスキップしますか?と言っていたな。
スキップすることになにか意味があるのだろうか。
神器から確認してくるということはおそらく神託に関係することだろう。ならば是非もない。
これはスキップせよということだな。
「わかりました。スキップしましょう」
返事をする。とりあえず指示には従っておいたほうがよいだろう。
俺はテーブルの周りをスキップしながら回りだす。
ミアとイヌーオさんが突然スキップしだした俺に驚いている。
「二人とも先ほどの声が聞こえなかったのか?スキップをせよと言っていたぞ」
「え、そうなの?何も聞こえなかったわ。」
「うむ、私の方も何も聞こえなかったが。」
どうやら本の声は俺にしか聞こえないらしい。
「うーん、おそらく神託の類かな。儀式の一環である可能性が高いな。二人とも手伝ってくれ。」
俺は二人に指示を出し儀式を始める。
腰に手を当てた俺が先頭で、後ろからミアが俺の肩に手をのせる。さらにミアの肩にイヌーオが手 をのせる。
3人が連なった状態でテーブルの周りをスキップでぐるぐる回る。
10分くらい回っていただろうか。
スキップを終了する。
いい汗をかいた。
最初は困惑したが段々楽しくなってきて最後の方は歌を口ずさんでしまった。
後ろにいたミアは頬を赤くしてよだれを垂らしなていた。なんかハァハァ言っていたがきっと疲れ たのだろう。
ミアの後ろにいたイヌーオさんは大の字で寝ている。
重い鎧を付けたままスキップをして歌まで歌っていたからな。もう立ち上がる体力もないのだろう。大丈夫だろうか。
「本よ。次はなにをすればいいだろうか。」
テーブルの上でプカプカ浮いていた本に話しかける。
「チュートリアルをスキップしましたので冒険を開始します。」
「貴方は勇者レベル1です。最初のボスとの戦闘は推奨レベル20です。頑張ってください。」
本は高度を下げテーブルの上に着地すると動かなくなった。
冒険を開始しますと言っていたな。これはつまり滞りなく先へ進めたということだろう。どうやら 儀式は成功したようだ。
おそらくスキップしなかったらなにがしかの不都合が発生し冒険は始めれなかったのだろう。下手 したら国の命運を左右しかねない。
神託とは時にそういう側面を持っているものだ。
まぁ俺は神子だからな。神託を受け正しく対処するのには慣れている。
「二人ともお疲れ様。儀式は成功だ。なんの儀式かは分からなかったがこれで旅立つことができるようになったようだ。」
よかったよかった。いい汗をかいた甲斐があったな。
「おめでとうアレン。ついにこの村から出れるのね。さあ、あの神様の目の届かないところまで旅立ちましょう。」
神様の目の届かないところってあるのかな。いや、そういえば今回の事件も把握してなかったみたいだし、意外に神様にも死角は多いのかもしれない。
まぁ何はともあれ目標はゼスト王国だ。
「それではイヌーオさん、俺は一度帰って旅の支度をしてきます。ここで少しお待ちいただけますか?」
「あいわかった。ではここでしばし休息をとらせていただこう。」
イヌーオさんは騎士たちの方へ向かい声を張り上げる。
「全体小休止!補給班は今のうちに水を補給し交代で警戒に当たれ!」
「「了解しました!豚野郎!!」」
「ブヒン!」
騎士たちが一斉に動き出す。イヌーオさんはなんか嬉しそうにしている。無視っとこう。
騎士たちは先ほどまでピクリとも動かなかったのでほんとに中身がいるのか実は少し不安だったの だ。ずいぶんと訓練された優秀な騎士たちなのだろう。
隊長がイヌーオさんで不満はないのだろうかとか益体のないことを考えながら俺は家路についた。