1章の6
騎士イヌーオさんとミアの元に走る。はやく神託を伝えねば。
「待たせてしまい申し訳ない」
イヌーオさんとミアは広場にテーブルを置き、向かい合って優雅に紅茶を飲んでいた。
「おお、アレン殿。どうであった」
イヌーオさんがぷるぷる震えている。よく見ると空気椅子に座っているようにみえるのだが。
「ええ、はい。お話します」
なぜ空気椅子?
イヌーオさんは震えながらもどこか恍惚とした表情をしている。
なぜだか触れてはいけないような気がした。なぜだろう。
疑問符を頭に浮かべながらとりあえずテーブルに着くとミアが立ち上がりマグカップを取り出した。
「どうぞアレン様。走ってきたのでのどが渇いたでしょう?」
紅茶だ。いい香りがする。
「ありがとうミア」
笑顔でマグカップを受け取り、真横に手を伸ばしてひっくり返す。
紅茶はカップから零れ落ち土に吸い込まれていく。
紅茶でできた地面のシミに手をかざして呪文を唱える。
「ドリアド・アナライズ」
そこから芽が出る。
芽は一瞬で成長していき、手のひらサイズのムキムキな男性のような姿になった。
男性型植物タイプの精霊・ドリアドスだ。
ドリアドスはくねくねしながら口を開いた。
「ああ~ん。これは睡眠薬ね。若干の強精薬も入ってるわ~ン。寝ながらもギンギ~ン」
野太い声で紅茶に入った薬の成分を告げる。
「愛ね。愛を感じるわン。滾るほどの~愛が!」
ドリアドスはバっと腕を広げ、大胸筋をぴくぴく動かしながら光の粒子となって消えていった。
相変わらず役に立つけど精神の摩耗が激しい。それにしても・・・。
「やはり何か盛られていたか。」
・・・まぁいい。いつものことだ。
「ミア、すまないが紅茶をこぼしてしまった。淹れなおしてくれないか?隠し味はなしで。」
笑顔でカップを差し出すと暖かい紅茶を淹れなおしてくれた。
「ありがとう。とてもおいしいよ。」
ミアの淹れる紅茶は本当においしい。隠し味さえなければ。
イヌーオさんに向き直るとなぜか困惑しているような引いているような顔をしていたが気を取り直して話しかける。
「さてイヌーオさん。神様からの啓示を賜ってきました。」
「お、おお。して内容は・・・」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
「この度の異変の調査並びに解決に向け、自ら動くことのできない神様に代わりこの俺が派遣されることになりました。延いては神様の力によりこの村に結界を張ることになりましたので騎士の方々を一時下げていただくことをお願いいたします。」
「おお、神子殿自ら来ていただけるのか。それは心強い。騎士の方は事情を説明すれば引くことは可能だろう。」
よかった。どれくらい騎士が来ているかわからないがこの村を囲まれたら流通が止まってしまう。
「それで神子殿はどのようにして国王陛下とグリフォン様を救出するので?」
そんな期待を込めた目をしているが申し訳ありません。完全にノープランです。
とりあえず神様とのやり取りをすべて話しとしよう。
かくかくしかじか
「・・・と、いうわけです。」
「な、なるほど。具体的な所は不明ですが攻略本とやらに従えば大丈夫ということですな。一種の予言の書のようなものでしょうか。」
「おそらく。では早速見てみましょう」
テーブルの上に神様からもらった本を出す。本を見たミアがおもむろに手をかざし表紙に触れた。何かを探っているようだ。
「この本、恐ろしいほどの魔力が込められているわ。神器の類ね。あの神様がくれたんでしょ?扱いに気を付けたほうがよさそうだわ。」
危険物の可能性があるようだが、俺は神様を信じている。きっと直接害のあるものは渡さないだろう。多分。
「多分だけど大丈夫だよミア。俺は神様を信じている。きっと危険はない。多分。」
「そうね。あの神様がアレンを害するとは思えないしね。いたずらは仕掛けてあるかもしれないけど。」
あり得る。いやいや俺は神様を信じている。信じているんだ。
ちらと本を見る。表紙には「勇者のススメ」と書いてあるな。とりあえず1ページ目を確認してみようかな。
おそるおそる表紙をめくる。
そこには・・・何も書いていなかった。白紙である。
「?」
2ページ目も3ページ目も白紙である。
「なにも、書いてない・・・。」
ぱらぱらと他のページをめくってみても何も書いてないんだけど。どういうことでしょう神様。
「どうしよう・・・・って、うわ!!」
急に本が赤く光りだした。なにやら点滅している。
少しずつ光が弱くなり消えたかと思うと、どこからか声が聞こえてきた。
「キャラの登録を開始します。・・・確認しました。主人公名、アレン。身長175cm。体重70kg。職業勇者見習い」
なんだろう頭に直接声が響いてくる。
「こんにちはアレンさん。チュートリアルを聞きますか?それともスキップしますか?」
チュートリアル?なんだそれ。
スキップ?楽しそうにスキップすればいいのか?
うーんさすがは神様の道具。一から十まで意味わからんな。