1章の4
詳しく話を聞いてみた。
どうやら西のゼスト王国で革命が起きたらしい。
神滅党を名乗る集団が王城を制圧。
この革命軍の指導者はホホー・ナグラ・レール・ゼストと名乗り、ゼスト王国の現国王アゴー・ケ ル・ナグール・ゼストの隠し子であると表明。
行動開始からわずか1時間足らずで国王と聖獣グリフォンを捕らえる。
ありえないほどの速さだ。
しかもその日のうちに『神からの支配を脱却した真の王こそが世界を統治するべきだ』と他国へ宣戦布告。
国を守るための騎士たちは、王と聖獣を盾に取られ仕方なく命令に従っている状態らしい。
イヌーオさんが悔しそうに顔を歪める。
「我々も嫌々従っているのです。しかし命令に背いてしまえば敬愛する王と聖獣様が危ない。」
「なるほど。人質を取られているわけか。」
騎士たちの方を見る。整列してから微動だにしていない。けれど全身鎧で見えないがきっと悔しそうにしているに違いない。
「あらなぁに、それじゃあんた達は自分の国の国王と聖獣様を守るために他国の人間の命を奪いに来たってわけ?」
ミアが座ったまま、あきれたといった顔をして紅茶を飲んでいる手を止める。
イヌーオさんの話が長いという理由でミアは現在椅子に座っている。
椅子はイヌーオさんだ。彼自身がミアに座ってほしいと嘆願し今に至る。
「我らは皆、国王様に忠誠を捧げている。さらに人では決して害することができないはずの聖獣様を捕らえた手腕と城を制圧した手際。革命軍の戦力がはっきりしない以上、今は従うほかに選択肢はなかったのだ。」
相手の戦力がわからないからどこに敵が紛れているかもわからない。国民も危険にさらされる可能性が高い以上、人質は実質ゼスト王国全てといっても過言ではないということか。そしてその国民とは彼ら騎士達の家族や友人、恋人なども含まれているのだ。
「しかし聖獣様を捕らえることなんて本当に可能なのか?」
疑問を口にする。神の子である聖獣様の強さは人知を超えている。人間ごときが勝てる相手ではないはずだ。
代々神子として神様に接してきた一族の末裔である俺だからこそ疑念が強まる。神様や聖獣様は人間がどうにかできる存在ではない。
「私も方法はわからぬ。しかし聖獣であるグリフォン様が牢屋に閉じ込められているのをこの目で見たのだ。まるで死んだように眠っておられた。」
「眠っていた?何らかの方法で眠らされているのか、あるいは・・・」
考えを巡らすが答えは出ない。情報が少なすぎる。
ミアも同じ考えだったようで熱い紅茶の入ったティーカップを少しずつ傾けながらイヌーオさんを睨む。
「他に情報はないの?隠し事をしたらただじゃおかないわよ」
ティーカップから紅茶がこぼれイヌーオさんの頭にかかる。
「っっあああっっっあっああぶひぃーーーん」
やめなさい、かわいそうだから。
ミアの方をチラリと見ると紅茶がこぼれなくなった。
「あああ、やめないでください!」
イヌーオさんが叫ぶ。
もう一度ミアの方を向くと紅茶がまたこぼれだした。
「ほっほあ!ほああああああああ!!」
何となく見ていられなかったので騎士達を見回す。
彼らはあいかわらず整列したまま微動だにしない。幸い今の彼らから感情を読み取ることはできなかった。
読み取れていたら申し訳なくて胃に穴が開いていたかもしれない。
「イヌーオさん、時間的猶予はありますか?ひとまずこの村の神様に相談してきます。もしかしたら聖獣様たちを救っていただけるかもしれないですし。」
聖獣様の事となると神様も他人ごとではない。最悪、助言だけでも欲しい。
「うむ、我らは先触れとしての先発隊。そちらの意向を知り本隊に知らせるのが役目。一晩くらいは大丈夫であろう。」
イヌーオさんがキリっとした表情になる。この椅子の恰好じゃなければ男前なのだが。
「正直我々もこの村に手を出そうとは思っておらんのだ。神が相手では勝ちの目が見えんのでな。だが新王には何やら考えがあってのことらしい。なので気は進まぬが手ぶらで帰るわけにもいかんのだ。」
「わかりました。では急いで行ってきます。」
「何卒よろしく頼む。」
神様の祠へ全力で走る。
耳に届く「頼むじゃなくてお願いしますでしょこの愚図が!」「はいぃ、お願いします~」という声を振り払うようにがむしゃらに走った。