1章の27
振り向いて叫んだ。
あの邪神を倒して欲しいと。
そしてその指差した先で・・・・・・邪神は倒れ伏していた。
「!?」
・・・・え?
・・・・ええ?
邪神倒してもうてるやん。
「あ、あの~、みんな・・・。」
「ああ、アレン!やったわ!!」
う、うん。やっ・・・ちゃってるね。
「この邪神はパワータイプだったようでな。物理攻撃が効いたのだ。私の剣技が火を噴くことになってな。」
「ええ、流石は陛下です。私の愛のパワーでも腕力が互角だったので助かりました。」
「いやいやイヌーオさんの耐久力があってこそのこの結果っスよ。」
「シュー君も槍で相手をけん制してくれてたわよね。助かったわ。あれのおかげで魔道具の罠をはる時間ができたのよ。」
「恐縮っス!」
「まぁ今回のMVPは・・・。やっぱりティアさんよね~。」
「そうだな。イヌーオの一撃で邪神がティア殿の方に吹き飛ばされたときはかなり焦ったぞ。」
「そうですね。陛下が叫ぶまで私は自分が何をしたか気付いてませんでしたからね。」
「ワタシなんかティアさんが人質に取られそうになった時もう死んだと思ったわ。」
「そうっスね。それがまさか・・・。」
「ええ、邪神がティアさんの胸を触っちゃって、右ストレートが見事に邪神のあごにヒットしたときは思わず拍手しちゃったわ。」
「いやぁ~、恥ずかしいですぅ~。」
「あれで邪神はかなり足にキていたからな。全員で畳みかけることができた。ほめて遣わすぞ。」
「「あっはっはっはっは。」」
みんなハイテンションだなぁ。疎外感。
「いや~楽しそうな雰囲気のところ、水を差すようで悪いんだけどね。みんな聞いて?」
「え、どうしたのアレン。あらもしかして疎外感でさびしくなっちゃった?」
疎外感はあったけど、それどころじゃないというか・・・。
「いや、あのね?」
「はっはっは、どうしたアレン殿。ちゃんと時間を稼いだぞ?なんてな、はっはっは。」
ホホーさんがメッチャご機嫌で何よりです。何よりなんですけどね。
「あの、おかげさまで精霊は呼べたんですよ。」
「あ、無事呼べたんっスね。よかったっス!」
「うん・・・。」
ショー君の無邪気な笑顔がまぶしいぜ。
「アレン殿?顔色が悪いようですが大丈夫ですかな?愛の力の癒しが必要ですかな?」
イヌーオさんの愛は痛そうなので結構です。
「え~とね、みんなに紹介するよ。こちら・・・闇の精霊さん。」
闇の精霊がたたずんでいる。
どうしよう。邪神を倒すために呼び出したけどもう倒しちゃってました。てへ。とか言ったら殺されるかな。
何とか世界を滅ぼさないように話をもっていかないと。
あれ?なんか・・・闇の精霊がこちらを向いて動かない。
目を見開いているような気がする。
なんだろう何に驚いているんだ?
目線が・・・ティアに向いているような気がする。
「あの~、どうかしましたか?」
恐る恐る訪ねてみる。すると急に闇の精霊が後ろを向いた。
マントで顔を隠している。
「あ、あの~・・・。」
「あの方の名は?」
「は?」
声が小さくて聞き取りづらい。
「あの破廉恥な胸をした素敵な女性の名は何というのだ。」
メッチャ小声で聞き直してくる。
「あの人はグリフォンの巫女、ヘスティーアさんです。」
「ヘスティーアさん・・・。」
闇の精霊が胸を押さえて空を仰いでいる。
なんだなんだ、様子がおかしいぞ。
「アレンとやら。紹介が必要なのではないか?」
「え、何がですか?」
「俺をヘスティーアさんに紹介することが今、何よりも大切なことであろうが!」
「は、はい。そうですね!」
なにこの精霊、さっきとは別の意味で怖い。
「あの、ティア。この方は・・・そういえば名前を知らないな。名前何て言うんですか?」
「ティアさんっていうんですね。美しい名前だ。俺はやみ・・・んんっ、光の精霊ダークネ・・・・ダークネス・シャイン。人々を守るために存在している大精霊だ。」
嘘つけよ。光の精霊とか無理があるだろ。
全体的に黒しかないじゃん。
あと世界を滅ぼすとか言ってたじゃん。
「はぁ、よろしくお願いしますぅ~。」
ティアも少し戸惑っている様子。
「ティアさん、初めてお会いした時からずっと心に秘めていた思いを貴方に打ち明けたい。」
闇の精霊がなんか言い始めた。初めてお会いしたのはついさっきですけどね。
「俺の、俺のつ、つ、つ、妻ににゃってくれないだろうか。」
何言ってんだこいつ。
いきなり告白しても妻ににゃってはくれないだろう。
「あのぉ~。」
「なんでしょうか!?」
「光の精霊が種族名ですよねぇ~。ご職業はぁ~。」
「無職です。」
「ごめんなさいぃ~。」
あ、振られた。
「・・・・・。」
闇の精霊が静かに、ゆっくりと俯いていく。
仕方ない。なぐさめてあげようかな。
「・・・・・そうだ、世界を滅ぼそう。」
ぽつりとつぶやく声が聞こえた。
「世界に俺とティアさんだけになったら二人は幸せなキスをしてハッピーエンド・・・。」
なんかブツブツと危険なことを言ってる。
まずい。
「ティア!ティア、聞いてくれ。ダークネスさんはこれから俺のもとで働くことになってるんだよ。
ほら、世界を救う事業って言うの?陛下とか世界中の偉い人に出資してもらって世界を良い方向に導く会社。アレンカンパニーの従業員。無職じゃないんだよ。むしろ即戦力さ。ね、ホホー陛下。」
「む?」
「そうだよね。ホホー陛下が認可してくれるんだよね。ね?」
陛下にアイコンタクトを送る。届けこの想い!
「なんのこ・・・。」
「ああん!?」
俺の全力の目力がビームと化して飛ぶ。
「う、うむ。そのとおりだ。認可する。いや、した。認可した。うむ。間違いない。」
よし!
「だからね、ティア。ダークネスさんがもっと仕事に慣れて収入が安定してきたらもう一度考えてくれないかな?ね?」
お願い!あなたの返答に世界の命運がかかってるんです!
「ん~、わかりましたぁ~。私もぉ~、告白自体はぁ~、嬉しかったのでぇ~、ダークネスさんの事をぉ~、もっと知ってからぁ~、お返事させてもらっていいですかぁ~?」
よ~しよしよし。うまくいった。時間が稼げれば何とでもなる。
「よいのか、アレン殿、いや社長。」
ダークネスさんが顔を上げて聞いてくる。
「しっかり働けよ。ダークネス。いや、ネスと呼ぼうか。」
俺が手を差し伸べるとネスが涙を流しながらその手を掴んだ。
一件落着。めでたしめでたし。
頭の上の本から声が聞こえた。
「アレンは ドレイを 手に入れた。」
失敬な。従業員だ。うちはホワイト企業を掲げてみせるぜ。