1章の23
ボッコボコになった邪神を縛り上げて転がしておく。
ロープはショーグン君(略してショー君と呼ぶことにした)が持っていた。
しばっても意味はないかもしれないけど念のため。
まぁグッタリしているのでしばらく目は覚まさないだろう。
死んでないのがビックリだ。邪神は脈もあったし呼吸もしていた。
よし、みんな落ち着いてきたので情報をすり合わせよう。
「みんなちょっと集合してもらっていいかな。」
俺の声掛けでみんなが集まってくる。
「さて、これどうしようか。」
邪神を見下ろしながら相談する。
「邪神を討伐するのが俺の使命なんだけど・・・。」
「うむ。それは分かるのだが、これは殺すことができないのではないか。」
ホホーさんがショートソードでブスブス刺しているが外傷はない。
「チユーシ先生、毒とか持ってませんか?」
「いやはや流石に毒は持ち歩いていませんね。治癒系の加護での治療がメインですので。」
そうだよね。毒とか常に持ち歩いてたらただの危ない人だもんな。
「あら、持ってるわよ。どれがいい?神経毒と出血毒。幻覚系と中毒系もあるわよ。」
そういえば危ない人が俺の幼馴染だった。
周りの視線が若干痛い。
「ほら、ミアは村の薬師なんですよ。毒は薬にもなるのでいつも持ち歩いていても問題はないというか・・・。」
なんか言い訳みたいだなとか思いながらフォローする。
「あら、薬にならない純粋な毒もあるわよ。暗殺用から狩りに使えるものまで常備してるわ。」
「すみません。俺の幼馴染は純粋にやばいヤツでした。なるべく逆らわないようにお願いします。」
もうフォローは諦めた。みんなも引いてるし。
「で、ではミア殿。すまぬが邪神に一通り接種してくれぬか。」
ホホーさん。若干腰が引けてますよ。
「分かったわ。経口、経皮、吸引、静脈注射、舌下で試してみるわね。致死量はとりあえず一般の10倍で。」
「う、うむ。よしなに頼む。」
これで殺せなかったら神様に頼むしかない。それにしても・・・・。
「なんでイヌーオさんの攻撃は通じたんだろう。」
「それは愛の力だからですな。愛に国境も性別も種族も関係ないのです。」
なるほど、分からん。
「あらそれじゃあ、愛の力でナイフを突き立てたらどうなるのかしら。『ラブ串刺し』とか言って刺してみなさいよ。・・・注射の針は刺さらないわね。」
注射を眼球に刺しながらミアが物騒なことを言い始めた。
「それはできません。そこに『愛』がありませぬゆえに。」
さっきのタコ殴りには『愛』があったんだ。へー。
あ、そうだ。頭の上の本「勇者のススメ」にきいてみようかな。
神様の力で何とかしてくれるかもしれない。
邪神がなにか暗躍してたのは間違いないだろうから情報を吐かせるだけでもできないかな。
「なぁ勇者のススメ、邪神を捕らえたんだけどこの後どうすればいい?神様からの指示とかないの?」
本がぼんやりと光りだすとパラパラページがめくれる。
「ヒント、機能を、使い、ますか?」
ヒント機能?邪神をどうにかするヒントをくれるのかな?ぜひ欲しい。
「ヒント機能を使う。」
「ヒントは広告の後に表示されます。」
「広告?」
なんの?
突如空中に、例のウインドウと名付けた画面が現れ、歌と映像が流れる。
「ぼ~くら~の~む~らの~、い~いと~こ~ろ~♪」
あれ、この映像うちの村だ。
「肥沃な畑で育った、世界に一つだけのジュース。」
あれ。これマッスルの果物畑じゃん。
「濃縮還元、焼きババナとビックリンゴを潰して絞って水分抜いたヤーツのジュース。新発売。」
マッスルが笑顔で筋肉をぴくぴくする映像を見せられた。
「お届けはゼンゾー運送!ご連絡ください!ニンニン。」
映像の中で村の配達人のゼンゾーさんが分身して走って行く。早っや。
ウィンドウが消えて静寂があたりを覆う。
なんだったんだ今のは。
「では、今日の、勇者ズ、ヒーント」
抑揚のない声で本がしゃべり始める。
「邪神は、全員、捕らえよう。この、エリアの、邪神の数、2名」
「!!」
「まだ居るというのか!」
緊張が全身を襲う。
全員が瞬時に戦闘態勢に入る。
邪神って一人じゃないの?
「・・・・・・・・。」
周りの気配を探るが誰もいない。
ということは・・・。
「この先の牢獄にいる、のか?」
みんなと目配せをしてゆっくり先に進む。
捕らえた邪神A(仮)はイヌーオに担がせる。
牢獄に着くと、右にグリフォン様、左にアゴー(の首から下)が収監されている。
「グリフォン様の上に誰かいます!!」
ショー君が異変に気付いたようだ。
全員がグリフォン様の方に目を向けると・・・。
一人の少女がグリフォン様の上で抱き着くように寝そべっていた。
あれがもう一人の邪神・・・?